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03-07

「最近、少しばかり刺激が少ないと思いませんか?」


 駐在エルフさん、おっとり長女エルフさん、苦労人ぽい三女エルフさんの3人と疑似恒星光のサンルームで日光浴をしていたら、駐在エルフさんがそんなことを言った。

 エルフ四姉妹の内一人だけここにいない掴み所がない四女エルフさんは、5人で通路を歩いていたらいつの間にか居なくなっていた。どこに行ったんだろう。


「刺激。刺激かー」


 駐在エルフさんがどんな刺激を求めているのかは分からないが、≪金剛城(こんごうじょう)≫で過ごしていて刺激が少ないと感じることはあんまりないな。昨日とかデビごっこさんと摩擦軽減塗料を靴の裏に塗ったりして遊んでいたら、悪乗りしすぎて俺とデビごっこさん2人の複製身体があいびきミンチになりかけたし。先輩さんにめっちゃ叱られた。反省しています。


「あれ? つい最近、≪金剛城(こんごうじょう)≫は新しい体験をするには事欠かない場所ですとかって言ってなかったっけ。1000年先まで暇を持て余すことはないとか」


 俺が常にない記憶力を発揮して10日くらい前の会話を思い出したところ、駐在エルフさんがやべぇどうしようみたいな顔でおっとり長女エルフさんに視線で助けを求めた。俺の疑問が予定外だったらしい。


「正直な話をするとぉ、私達もたまには一緒にあれこれ作ったりして遊びたいねってことでぇ、なにか適当な理由をでっち上げましたぁ」


 一つ頷いたおっとり長女エルフさんがぶっちゃけた。

 駐在エルフさんがそれ言っちゃうのって顔で驚いている。

 ホロウィンドウを開いて何かいじっていた苦労人ぽい三女エルフさんもそんなの予定にないって顔で驚いている。

 俺は、それならそれで一緒に考えてなにかしようじゃないかって気分になった。でも3人とも、小芝居するならもうちょっとしっかり事前の打ち合わせをしておいた方が良いと思う。


「え、えぇ……えっと……この、こちらの、このホロウィンドウを見て頂けますか」


 苦労人ぽい三女エルフさんが計画通りの方向へ話を戻そうとガンバルようなので、大人しく誘導に従ってホロウィンドウに視線を向ける。

 表示されているのはどこかの恒星系の俯瞰画像のようだ。よく分からない線が恒星からびよんびよん伸びて恒星に戻ってる。この線に意味があるんだろうが、全く分からん。


「これ、異常な重力場を形成している恒星系なんです」


 駐在エルフさんが線の部分を指差しながらちょっと自慢げだ。駐在エルフさんが見つけたのだろうか。


「銀河間宙域とかを調査するためにぃ、あっちこっちへ派遣されている機械的知性さんが教えてくれたんですよぉ」


 ネタばらしの早いおっとり長女エルフさんに、駐在エルフさんが再びそれ言っちゃうのって顔を向けている。もしやこれが姉妹間の普段のコミュニケーションなんだろうか。


「はい、それでですね、その機械的知性さんが教えてくれたこの恒星系は、重力が異常な感じにぐわんぐわん歪んでいるので探検したら面白いんじゃないかって」


 苦労人ぽい三女エルフさんが姉2人のやりとりを放置して話を進める。そうね、これ気にしてたらキリがない感じだよね。


「じゃ、そこにちょっと行ってみる前に、そんな特殊な環境に耐えられる船を作ろう。そんなよく分からないところへ≪金剛城(こんごうじょう)≫で乗り込むのはちょっと怖いわ」


 エルフ四姉妹マイナス1人と俺で、異常な重力場がどうこういう宙域へ物見遊山ができる船を作ることになった。多分≪金剛城(こんごうじょう)≫のシールドなら大丈夫なので9割くらいは俺の趣味だ。


 異常な重力が観測される宙域へ行くにはどんな船が良いかと≪金剛城(こんごうじょう)≫のデータベースに尋ねてみると、一発で丁度良いものを教えてくれたので悩む間もなく決定。

 艦種は【特殊宙域探索母艦カリュブディス・ジェイ】という名前で、モデルはなんか丸っこいけど棘がある蟹。

 蟹は美味しいのできっと優秀な船だ。何故なら海老も蝦蛄も美味しくて、今まで俺が拾ったり作ったりしたそれらをモデルにした船は全部優秀だからだ。完璧な論理である。

 うん。次の食事は蟹を食べようかな。海老や蝦蛄も一緒になにか料理してもらうのも良いかもしれない。


 海老由来人種(ヒトしゅ)と蝦蛄由来人種(ヒトしゅ)がガッツリ海老や蝦蛄なので、一時期食べるのは避けていた。

 しかしそもそも海老や蝦蛄由来人種(ヒトしゅ)の人達は全くそんなこと気にしていないし、そんなことを気にするのは今更だと気づいてからは割り切った人から食べるようになって、今や≪金剛城(こんごうじょう)≫では気にする人は居なくなった。


 豚由来人種(ヒトしゅ)のムチムチ美人さんは、生育食材の豚肉が結構お気に入り。

 馬由来人種(ヒトしゅ)のリーダーさんは肉料理の話になると、生育食材の馬肉を刺身をちょいちょい薦めてくる。

 山羊由来人種(ヒトしゅ)の先輩さんは、料理グループに加わるほど料理が好きなわけではないけれど、一時期は生育食材の山羊肉の煮込み料理にハマっていた。


 恐竜由来人種(ヒトしゅ)のぎしゃーさんは、なぜか生育食材の各種恐竜肉を食べ比べたりしていた。

 牛由来人種(ヒトしゅ)の大きい方のダブルで一番さんは、たまにやる高負荷トレーニングを終えた後に生育食材の牛肉を欠かさず食べている。

 鳥由来人種(ヒトしゅ)のふわふわヘアーさんが生育食材の鶏肉を好んで食べてる。


 本当に今更の話だったりもする。


 一時期の苦悩に関してエルフ四姉妹マイナス1の3人と盛り上がったりしつつ船の建造指示をドックに出し、皆で日光浴に戻った。

 生育食材の活用が減り生成食糧が食の主流になったのはこういった葛藤が理由だったりもするのかなとか思ったりもしたが、≪金剛城(こんごうじょう)≫においては美味しいが正義となったのだ。


 次の食事の際に、面白そうなことをするつもりで新しい船の建造を始めたのがバレて、勿論他の≪金剛城(こんごうじょう)≫クルーに叱られた。サプライズ失敗。

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