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03-06

 俺は基本的に新エルフ星の統治やら政治やらには不干渉の姿勢だけど、最近エルフさん達の以前の生活をちょっと聞いたりしたので、≪金剛城(こんごうじょう)≫のネットワークに置いてある新エルフ星の近況をまとめた資料に目を通してみた。


 俺にも理解できた範囲では、まず機械的知性を含めない人口が180億ほどで安定。

 減るより増える方が多いものの、宇宙開発というか新エルフ星に居住可能な衛星を複数作り一部が移住したり、再生した旧エルフ星への移住者も居たりで許容限界の200億に達さないよう気を遣ってるっぽい。


 新エルフ星の衛星を増やしてるのは初めて知った。増やして大丈夫なもんなんだな。

 あと再生した旧エルフ星に移住が始まってるのも初めて知った。漠然と最初はエルフさん達が行くだろうと思ってたし、予定だとエルフさん達の準備が整うのは数十年は先だったはずなのでちょっとびっくり。

 人口の増加速度次第では海老蝦蛄惑星の再構成もやっぱり必要かな。死蔵してる資源の量からすると、居住可能惑星を2つ3つ作っても減ったと感じないくらい資源には余裕がある。その内検討してみよう。


 さて次に何か理解できそうな項目はと資料の索引を眺めていたら、多種族惑星となったことによる種族間摩擦に関する項目を発見。

 もしかして種族差別とか問題になっているのかと開いてみると、トラブルはあっても個人間程度のもので集団的対立はないらしい。


 差別など無いに越したことはなくとも、有って当然のものがないとなるとそれはそれで不安だ。

 俺が生まれ育ったハビタットにも機械的知性を排斥したい集団が居たのを俺が知ってるくらい、種族間の摩擦はありふれている。

 なにか詳しく分かるデータはないだろうか。


 理解できそうなところだけ拾い読みする。分かるような分からないような話だったと分かった。

 そもそも新エルフ星が俺個人の所有物として扱われており、それ故に新エルフ星のインフラ関係は俺に帰属する機械的知性のコミュニティが管理している。エルフさん達が移住する前から機械的知性が長いこと維持管理してきたのでそのままやってもらってる形になる。


 そのうえで俺が統治する意思を見せないので、帝国や旧エルフ星や海老蝦蛄惑星の法律を良い感じにまとめた法律の下、ある程度の集団ごとに代表者を出して議会制っぽく自治してる感じ。

 移住当初は先住者のエルフさん達があれこれ相談に乗ったり惑星を管理してる機械的知性のコミュニティとの橋渡しをするものの、新エルフ星へやってきた人たちはいずれも故郷を失っているのでその辺りでなんとなくシンパシーを感じて上手く回るそうだ。


 詳しく書いてあるけど俺にはこれくらいの理解でいっぱいいっぱいだった。

 俺の社会経験といえば、法律関係や税務関係は組合の専門部署に委託してた木っ端運送屋の零細個人事業主だったくらいなものしかない。

 180億人だかの統治に関われるわけがない。今のところ上手く行ってるならそのままでいいんじゃないですかね?


 ああ、でも、ふわっとした連帯感で惑星一つ分の人種(ヒトしゅ)がまとまってるっていうんだから、これはもっとちゃんとした理由があるんだろうなとは俺でも想像できる。

 無機質美人のホログラムとか機械的知性のコミュニティとかが良い感じにやってくれてると思っておこう。


 政治やらいう俺とは相容れない単語はさておき、新エルフ星が俺の個人所有だったことに驚いたのでその辺ちょっと調べてみよう。

 無機質美人のホログラムが帝国で買い込んだ大量のデータに、深宇宙探索でドカンと稼いだ人物のドキュメンタリーとかないかな。法律関係の小話はあってもおかしくないよな。


 知りたいデータを見つけられずにぐだぐだと時間が過ぎる。

 と、弄っていたホロウィンドウを隠す位置に唐突に新しいホロウィンドウが開かれて、欲しい内容そのものが表示された。無機質美人のホログラムかな。


 普通、居住可能惑星を発見した個人はその権利を国家や集団に売却する。

 なぜならそのまま所有していても管理できないし開発できないし、そんな状態じゃ税を払えず没収されて終わるから、結局何も得られないどころか損しかない。

 勿論、個人が発見した居住可能惑星をそのまま所有し開拓することも可能。そんな元手があれば。


 現在の新エルフ星は、個人が発見した居住可能惑星を売却せずにそのまま開拓したケースに該当すると見なされている。

 元々惑星を維持管理していた機械的知性のコミュニティ、移住者第一弾のエルフさん達、そういった小難しいことを考えたくない俺が全部丸投げしたのを受け取った≪金剛城(こんごうじょう)≫のクルーの皆さんといった面々が、エルフさん達が移住してきたときに話し合って決めていたらしい。

 惑星の所有を主張するデータには俺のサインが付いているので多分俺も一度は話を聞いている。多分というか確実に一度は聞いている。覚えてなかったとかムチムチ美人さんに言ったら押し倒されるやつ。


 俺の記憶力はさておき、そんな訳で惑星の所有権がまるっと俺にあるので、エルフさん達始め移住者は俺個人の財産である惑星の一部を貸与されているだけとなっている。

 現時点で新エルフ星は既存の国家のいずれにも所属していない。だからどこぞの国家に所属するだとか新しい国の建国を宣言するぞって際には、居住し続けて新しい国家の国民となるか、惑星を出ていくかを決める。

 この場合に限り、惑星を出ていくための手段は俺が用意して有人惑星なりへ送り届ける。そして料金代わりに新エルフ星で過ごした記憶はロックがかけられる。それ用のギフトを拾っているので安心安全。


 要するに、とても広い私有地を賃貸してるだけってことだな。賃料を徴収してないので賃貸ではないかもしれない。

 それより任意の期間の記憶にロックをかけるギフトなんて拾ってたのか。ぼんやりそんなものを拾ったような気がしなくもないし、きっとすぐには面白い使い方を思いつかなかったから印象が薄いんだな。


 大して頭は使ってないはずなのになんとなく頭がいっぱいになった気分になり、読むともなく新エルフ星に関する資料の索引を眺めていたら面白い項目を発見。


 すごい今更なんですけど、新エルフ星のある恒星系って帝国のギャラクシーマップに存在しませんよね。それどころかあの恒星って観測すらされていませんよね。


 という意味合いの会話ログっぽい。


 そんなことあるのかなと、誰がどこから持ってきたのか分からない帝国産のギャラクシーマップで銀河間宙域を確認しようと思ったら、そもそも新エルフ星のある宙域までデータが存在しなかった。


 じゃあ帝国首星から見た天体図ならどうかと開いたものの、見方がいまいちわからない。

 銀河中央を基点に恒星系の位置や公転や自転が……? と悩んでいたら再びパッとホロウィンドウが飛び出し、本来ならこの辺に新エルフ星の恒星が見えるはずという注釈が書き込まれた。アザーッス。


 うん。色々不思議なところはあったし、旧エルフ星への移住が進んでいて人口が30億超えたって記述を見た気がするけど今はもう確認しなくていいや。

 新エルフ星は今日も平和なようでヨシ。

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