03-04
特に理由もなく通路のど真ん中に転がっていたら、旧エルフ星出身者の内エルフじゃない3人組が通りがかった。
何やらハンドサインを交わすと奉仕過激派系の子はそのまま去っていき、残った二人に携行型のバイタルチェッカーで異常がないか確認され疑似恒星光のサンルームまで運ばれた。
「あの、なぜあんなところで……その……」
一時期俺と顔を合わせる度に悪そうな顔でフォークぺろぺろしてた子が、俺と並んで芝生に腰をおろしたまま俺に顔を向けず、言葉を選びに選んで何も言えない感じに言葉ではなく雰囲気で何があったのか問いかけてくる。
居たたまれない。すごく気を遣われているのがありありと分かって心が痛い。特に理由も意味もなく通路に転がってたとか言えない。
悪そうな顔でフォークぺろぺろしてた奇行も、自分の存在を俺にアピールしようと悩んだ末に迷走してたごくごく一時期だけのこと。本来はまともな子だけにこんな腫物に触れるような対応をされると罪悪感に苛まれる。
なぜ悪そうな顔でフォークぺろぺろしてたのか聞いた時の説明は今でも覚えている。
あの、こういう分かり易いポイントがあるとすぐ覚えてもらえると教えてもらって。
ナイフの方がそれっぽいと思ったんですけどちょっと怖くて。
スプーンだと行儀悪い方が際立っちゃうかなって。
悪そうな顔でフォークぺろぺろしてた子ってしっかり認識してしまったので、分かり易いポイントがあれば覚えやすいというのは正しいと言えば正しい。
けど、彼女はそれでよかったのだろうか。積極性と目的を達成するための発想は評価したいが、その発想を客観視する能力には疑問符を付けたい。
過去に思いを馳せて目の前の現実から目を逸らすにも限度があったので、全部告白した。全部って言っても特に理由も意味もなく転がってたってだけなんだけど。
「あ、はい。何事もなくて、その、良かったです?」
「それで機械的知性の方々に放置して良いと言われたんですね」
なんとも言えない顔で視線をあっちこっち泳がせている悪そうな顔でフォークぺろぺろしてた子。
それとは別に、じとーっと俺を見つめる白手袋こすり合わせる拳の鋭い子。奉仕過激派系の子が前のめりになりすぎると、彼女がさり気なく拳で黙らせているのでちょっとびくびくしてしまう。
いや、でも彼女もお茶目なところがあるからきっと大丈夫。今やトレードマークになった白手袋も、悪そうな顔でフォークぺろぺろしてた子と同じようにキャラ付けで始めたらしいし。
俺を見かけると白手袋を取り出して手を擦り合わせるようになったので、あからさまな行動を放置するのは良くないと思い直接訊いてみた時の事は忘れていない。
シルキーという家事を熟してくれる妖精がいると聞きました。
エルフ様方はエルフ様ということになったようなので、三人で話し合いまして私達奉仕種族の家系はシルキーを名乗ろうかと決めました。
そしてシルキーはシルクのこすれる音が名前の由来だとか。
白手袋についてシルキーに関する話を始めたので、当然その白手袋がシルクなのかと気になった。
しかし返ってきた答えが、こすると好い音の鳴る生地で手袋を作って欲しいとお願いしたので多分違いますね、というもの。きっとお茶目さんなのだろうと判断するに余りある。
白手袋擦り合わせる拳の鋭い子のお茶目はさておき、そもそも彼女達がエルフに仕えているのは今では種族的なものではなく家系のようなものだと聞いた覚えがある。それなのに種族でシルキーを名乗るのだろうか。人種の分類でいえば三人は別々の人種っぽいし、その内聞いてみよう……と棚上げしてたのを今思い出した。
「話はがっつり変わるんだけど、確か君達はエルフさん達のお世話をする家系の生まれってだけで姉妹とかでは無かったよね」
「はい。でもいくつかの家系が残っていると言えば残っていますが、長く続いている家だけあって相互に婚姻を結んだりもしているので、実質姉妹みたいなものですね」
「私達の場合は小さいころからほとんど一緒に育てられたので余計に」
話を逸らすことができたので深く掘り下げてみた。
彼女達の実家であるエルフさん達が言うところの奉仕家系は、ざっくり分けて本家が5家。分家は沢山。人数としては10万に届くかどうかで減ったり増えたり。
人員の増減は出生や死亡だけではない。エルフさん達のお世話をしたい人がこの奉仕家系と呼ばれる集団に入ったり、逆にエルフさん達への思い入れも大してないし関係ない生き方するよって道を選んだりによる場合も存在する。
そんな大量の奉仕家系の人達はエルフさん達の殆どが居住する一つの町に一緒に住んでいたり、通勤に時間のかからない距離に町を作ったり、遠くの都市で独自のコミュニティを形成して所謂出稼ぎをしたりしている。旧エルフ星から引き続き新エルフ星でも大差はないそうだ。
で、肝心のエルフさん達のお世話は何をするのかと言うと、エルフさん達からなにか要求されることはほぼないので自分達であれこれ考えて提案するそうだ。
家事代行的なサービスとかでのお世話は欠かせない。もしかしたら一番大事かもしれないと主張された。
エルフさん達は、食道楽の人でもなければ食事を面倒くさがってその内水と恒星光でほとんどの活動エネルギーを賄うようになるので、特に何か言われないならエルフさん達の各家庭の掃除と洗濯を代行する。
これは食事を面倒くさがって食べなくなるのと似たような理由で、家を維持するのが面倒になって森で樹木のように生き始めるエルフさんが結構な割合で存在するため。
遠くの特産品なんかを調達したりも奉仕家系の人達がやる。
なぜなら、エルフさん達はそのうちやろうで数百年とか経つので存在しなくなっている場合も多いため。
エルフさん達と関わりたい他の種族との窓口も委託されている。
エルフさん達の時間感覚が他の人種と違い過ぎて、そんな忙しないならもう面倒くさいとなって一時期エルフさん達と連絡がとれなくなった前例があるため。
エルフさん達が旅行に行くときにガイドやガードを任される。身内を大切にするエルフさん達なので、旅行先で1人のエルフさんがトラブルに見舞われた結果、種族を挙げての全面闘争に発展した前例があるため。
その気になれば畑で収穫するがごとく自我を持たない使い捨ての兵士を増やせるのはヤバイ。そんな種族的特徴は初めて聞いたので驚いた。
他には普段の話し相手になったり、ボードゲームの相手を務めたりもしている。平和。
ちょろっと話に上がった出稼ぎ組は、そういった活動に必要な資金を外部で調達している。エルフさん達の役に立ってる感覚が数字として確認できるので、結構人気なポジションだったりするとかなんとか。
悪そうな顔でフォークぺろぺろしてた子と白手袋擦り合わせる拳の鋭い子との親睦を図るつもりが、なんだかエルフさん達の生活について教わる場になってしまった。
ま、エルフさん達について話す2人はなんだか楽しそうだったし間違ってなかったことにしておこう。