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03-02

「プライマリーヒューマンの覚醒といえば、やはり器用貧乏が万能になるかのような全体的なスペックの向上では? 模造超人身体という一定の完成形も存在することですし」


「いや、特化型が良いと思います。パワーイズパワー。やはり特定の分野における能力の適応こそが生物の進化と言う――」


「それは逆を言えば可能性を狭めるだけと言う見方も――」


 なぜこんなことになってしまったのか。なぜとか必要なかった。原因は明らかだ。

 俺が議題に取り上げた、家庭というか氏族と表現した方が良いような数の受精卵や今後の家族計画に関しては、なんだかたうやむやに流されてしまった。

 俺が話の流れを把握できない内に集団の圧力によって次の議題へと移されようとした時、刹那主義のとある人物がいつも以上に酔っぱらってんのかって勢いで俺の覚醒イベントがそろそろ必要だとかぬかしたのが悪い。


 その背中の翼手をくすぐってやろうかデビごっこさんめ。その翼手が殊更敏感なのはもう公然の秘密なんだからな。

 たまに誰にも違和感を抱かせないように生殖器を2本に増やそうとかいう流れをつくるムチムチ美人さんもホント自重。そのムチっとしながらも柔らかい二の腕をタプタプするぞ。

 骨格を総金属製に入れ替えたりもしないから。俺は鉱物由来人種(ヒトしゅ)じゃなくてプライマリーヒューマンだから、その施術はかなり大変だよツルスベさん。


 今のままの俺が好きなのは変わらないけど、ぶっちゃけ筋肉は筋肉で好きだし俺に筋肉を盛ろうとする派。大きい方のダブルで一番さんとぎしゃーさん連合。

 周囲で繰り広げられる議論は脇に置いて、帝国におけるプライマリーヒューマンの改造例を集めたカタログを読み込んでいる派。旧エルフ星出身組。

 テーブルに載せた自分の胸を枕にして寝てるらしき小さい方のダブルで一番さんと、テーブルに突っ伏して寝てるらしきしなやかスレンダーさん。


 皆の意見を全部盛り込んでとりあえずのモデルを作る派。リーダーさんと先輩さんと無機質美人のホログラム。

 そのモデルをリアルタイムで反映する別データをいじり更に色々のっけてキメラ化させる派。ふわふわヘアーさんとゆるくてふわふわさんとギフト化幼馴染殿。幼馴染殿は愉快犯として、他二人は何をしているのか分からない。


「決め台詞と必殺技は大事よな。闇より出でし混沌の……混沌の……巨兵とか!」


「宇宙から飛来する人型ロボットかな? ドックにあるじゃん」


 火付け役のデビごっこさんはいつの間にか俺の横に来て、ご自身の趣味全開で関係ありそうで多分関係ない想像を広げていらっしゃる。


「あれじゃ大きさが足らないでしょ。巨兵だし大きさは200kmくらいほしい」


 200kmってことは、≪金剛城(こんごうじょう)≫の高さと同じくらいか。それ相応の幅や厚みとなると……。


「人が住めそうですねそれ」


「おお。つまり≪金剛城(こんごうじょう)≫が変形して巨兵となるのだな」


「今から≪金剛城(こんごうじょう)≫に変形機構を組み込むのは無理だし、それなら完全に新規で建造しないとダメでしょ」


「ふむふむ。ならば外観のデザインだな」


 そう言ってホロウィンドウを展開するデビごっこさん。

 え。マジで設計し始めてる。そんなもん作ったってバレたら俺も巻き込まれて叱られそうなんだけど、設計だけで満足するよね? 本当に作ったりはしないよね?


 いくつかのグループに分かれて皆楽しそうにしており、家族計画については棚上げとするしかないようだ。

 多分、女性側で結論が出ていないため俺も含めて話し合いをすると余計にまとまらないとかそういうことだと思う。

 俺がこうやって話し合いの場を作ってもらったのも、皆がどういう予定を立てているのかだったり、こうしたいって希望があれば聞いておきたいってくらいだったので、まだ話し合うのが早いなら機会を待とう。


 さて俺だけ手持豚さん……豚さん? 手持ち無沙汰になりどうしようかと視線を巡らせてみるとギフト化幼馴染殿と目が合った。リーダーさんや先輩さんの作ったモデルをキメラ化するのに飽きたようだ。


「≪金剛城(こんごうじょう)≫クルーがそれぞれ自分自身というキャラクターを演じる、実在の人物が中に入ったキャラクターによるギャルゲをしようじゃないか」


 ちょっと何を言っているか分からない。幼馴染殿は暇すぎて疲れているらしい。

 誰かに丸投げできないかと周囲を見回すが、まだ皆それぞれのグループで俺の覚醒イベントについて盛り上がっている。


「舞台を作る……よりはVRで帝都あたりのデータを流用して――」


「ん? 舞台を作るならギャルゲーによくある学園ハビタット作る? それとも学園惑星作っちゃう?」


 いつぞやの採集活動強化期間で溜めすぎて、使い道もないまま銀河間宙域に空間固定している莫大な資源を活用できるかもしれない。


「惑星は作りません」


「いやでも資源余っちゃってるし。ディメンションアンカーで固定してるって言っても、銀河間宙域に資源詰め込んだ大量のコンテナ置いておくのも不用心だし」


「惑星は、作りません」


 この会話にすら応じないという意思を感じる定型文の返答をどう切り崩すか。


「今作っている惑星だってまだ完成していないじゃないか」


「ぐう……仕方ない。この件は要検討ということで。先に配役決める?」


「はい! 私メイド役やりたいです! 朝から朝までご主人様のあらゆる欲求を満たすメイド役!」


 いつの間にか近くまで寄ってきていた旧エルフ星出身でエルフじゃない3人組の奉仕過激派系の子が、勢いよく手を挙げた。

 他の皆も俺と幼馴染殿の会話は聞いていたのか、ムチムチ美人さんに視線を向けている。一事が万事下半身に直結させようとするこの子はお前の後輩だろなんとかしろ、と要求している。

 前は≪金剛城(こんごうじょう)≫の対象年齢を引き上げるのはムチムチ美人さんだけだったのに、気づけばこの子も健全な青少年の前には出せない感じになっているのはなぜなのか。


 ほら、ムチムチ美人さん。貴方の後輩でしょ。何とかしてください。

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