03-01
万に届こうかという年月存在し続けた帝国はとうとう滅びの時を迎えた。
今や国家の腐敗はいかんともしがたいと、帝国中枢からの離脱を次々と宣言した有人惑星やハビタット群。元帝国領は群雄割拠の時代へと突入したのだ。
更に帝国と言う巨人が斃れたのを機に周辺各国も蠢動を始めていた……。
という導入部のVRシミュレーションゲームが≪金剛城≫クルーの中で流行っている。
機械的知性達のクリエイティブなコミュニティが製作したものだ。
こういうのは外から見ている方が楽しめる俺だが、一緒にやろうと声をかけられたので一度は参加した。
初心者ということでサポートの機械的知性に相談しつつ手探りでやっていたらいつの間にか周囲をオーク諸部族連合に包囲されており、時の連合長ムッチリーナに俺の勢力のリーダーである俺を差し出せば庇護してやろうとの誘いをかけられた。勿論出奔して行方不明という形でゲームそのものから離脱。
≪金剛城≫クルーしかやらないゲームに、なんでか年齢制限がかかっていると思ったらそういうことだった。
余談ながら俺が参加したシーズンは、連合長ムッチリーナが最終的に半数の勢力を巻き込み派手な散り様を見せた。俺がゲームから離脱後にいくつもの勢力が構築した包囲網と真っ向からやりあい、袋叩きされつつ的確な反撃で他プレイヤーへといやがらせを繰り返していたのはさすがだった。
シーズン勝者は駐在エルフさん。マップの端っこで植物系宇宙船を開発しようとしていたら宇宙怪獣化して暴走し、わたわた慌てる駐在エルフさん以外の勢力を養分として根こそぎ食らいつくした。いくつもの恒星を内部に抱えた銀河規模の大樹まで成長していくのを皆で見守ってゲームセット。その終わり方はある種の賞賛とともに世界樹エンドと名付けられた。
なおこのゲームに登場する各勢力の設定や各種イベントは現実に即しているらしい。資料提供は無機質美人のホログラムで、ギフトのシミュレーターを使用しているためやろうと思えば宇宙規模のシミュレーションもできるとか。誰がそんな馬鹿みたいな規模のシミュレーションゲームをやるのか。
シミュレーターはさておき、ゲームの各種データが現実に即してるってことは現実の帝国もこんな内戦が起こっているのかという疑問が芽生えたものの、怖くて誰にも確認できていないし確認する予定もない。まあ、今更帝国がどうなろうと俺に直接的なかかわりがあるわけでもなし。
帝国はここ20年ほどで大きく変化しているようだ。具体的には数年前に皇帝が暗殺されたとか、皇族の一部が行方不明で残りは死亡が確認されたとか聞いたようなそうでも無いような。
帝国所属のハビタット出身者として正直なところを申しますと、そう言われると帝国なんだから皇帝もいるよねくらいの認識なので、存在すら認識の外のお方が亡くなられたと聞いても困ります。
大きな変化といえば、複数の国家とI.M.S.I.で戦争やったのが時代の転換点だと教えられた記憶がある。
あの戦争はいつの話だったかなと≪金剛城≫のデータベースで調べてみれば、大体10年前だった。前もあれから10年かと感慨に耽った覚えがあるので、俺の時間感覚は10年で1サイクルなのかもしれない。
その10年の間に帝国は大きく変化している一方、≪金剛城≫では特筆するほどの変化は何かあっただろうか。
そもそも10年前に≪金剛城≫は何をしていたんだったか。
≪金剛城≫のネットワークに頼らず自力で思い出そうと頑張ってみると、異次元で資源を集めていた気がしてきた。その時に何か変なものを拾ったような。
結局詳しいことは思い出せなかったので無機質美人のホログラムに頼んで10年前の活動データを貰った。
ああ、死体っぽいものが入っている紫色の透明ななにかを拾った頃だった。あれはなんだったか。解析が終わってた気がするのにその内容が思い出せない。
もう自分の頭に期待するのはやめて、無機質美人のホログラムに貰ったデータから関連項目のリンクを漁って答え合わせをしてしまおう。
合計200程の死体っぽいものが入っている紫色の透明ななにかは、今から何年か前に拾った新しいギフトで解析が即座に完了。
死体は正確には死体ではなく仮死状態で生きていたため、これまた新しく拾ったギフトを使い全て蘇生し、人種も人種じゃないものも新エルフ星の住人として受け入れた。死体っぽいものが入っている紫色の透明ななにかを拾った異次元に存在した文明の、数少ない生き残りとのこと。
で、死体っぽいものが入っている紫色の透明ななにかの、紫色の透明ななにかの部分がなにかというと、ただの梱包材。
≪金剛城≫の表面装甲と同じ金属板が厚さ10センチ程度なら秒とかけず焼き切るレーザーを使い耐久試験をした際に、傷一つないどころか温度の変化一つなかったただの梱包材。
亜光速の粒子を噴きつけても傷一つないどころかその運動エネルギーを完全に吸収したり、次元断裂を再現した万能カッターでも傷一つないし、シールドなしで光速まで加速しても傷一つ歪み一つないっていうか表面がちょっと流動してたらしいけど、ただの梱包材だ。≪金剛城≫もこれで梱包しようかな。
「他所のギフトを解析した技術によるものかもしれません」
データに目を通し終わったタイミングに合わせて無機質美人のホログラムが何か言った気がした。でもそんな発言は無かったことにした。他所ってなんだ。
他にも紫色の透明な梱包してあれば一般的な宇宙空間に放り出しても中身は無事だとか、外部からの刺激がほぼ遮断されることで内容物の劣化を驚くほど防げるとか便利な梱包材だ。
そんなわけで、紫色の透明な梱包材と、それと同系統の技術による塗装を≪金剛城≫で再現できないか研究中との付記がされていた。がんばれー。
心の中で雑に誰かを応援しながらデータをざーっと流し見していると、無視できないところでつい手を止めてしまった。
俺一家の受精卵の数がいくつあるのかなんて項目は要らないんじゃないだろうか。ついでにこんなに大量に溜め込んで≪金剛城≫の女性陣はどうするつもりなのか。全部産むのか。複製身体も母体として使っても何回産むことになるのか。しかもなぜ女性側それぞれの受精卵をカウントするデータの中に無機質美人のホログラムの名前があるのか。
深く考えてはいけない。無機質美人のホログラムそのものがギフトなんだし、きっとなにか特殊なホログラムなんだといつもと同じ結論で思考停止しておく。
それよりも、エルフの人口を増やすつもりで俺のところに来た駐在エルフさんの姉妹さん達も受精卵を保存してる件の方が大事だ。
エルフさん達の目的と食い違っているように思えるこの行動は、もしかしたら俺に配慮してくれているのかもしれない。
一度しっかり出産や育児に関して話し合おう。安全性を優先するなら人工子宮を使うべきだけど、その辺りは種族的な風習や個々の主義も関わってくるところだし。エルフさん達だけじゃなく、皆としっかり話し合う場を用意しよう。
第何回かは分からないが、≪金剛城≫のクルーを集めたナントカ会議を開こう。正式名称は何だったかな。