02B-05(02-25~02-29)
02-25
採集強化期間と題して異次元での採集活動が開始されたので、私も趣旨に合ったことを何かしようか。
クルーが艦内ネットワークのパブリックスペースで共有している様々な企画書のデータを眺めていたら、提案者以外から消極的反対多数の企画書中に見慣れない名称があった。
【強襲資源採集型無人機ローカスト・プレイグ】とはいったいなんだろうか。企画書の中に控えめに添付された資料では詳細が分からなかった。
【強襲資源採集型無人機ローカスト・プレイグ】とは何かと≪金剛城≫のデータベースで調べてみると、故郷の惑星でも昔にはあったという大規模な虫害の一種を模したドローンだった。
ハビタットという分類の人工衛星的な場所で生まれ育った人には、大量の虫というのがちょっと受け入れ難いために【強襲資源採集型無人機ローカスト・プレイグ】を使った採集計画は反対が多かったようだ。
エルフという人種としては害虫と益虫を区別して欲しいとは思うものの、虫という生物に苦手意識を持つ人が多いのは惑星出身者でも同じだ。
私は【強襲資源採集型無人機ローカスト・プレイグ】の使用に積極的反対を示しておこう。
02-26
私の姉妹達と城船の君との改めての顔合わせが行われたらしい。
今回は日光浴をしていたために同席を忘れたのではない。両者は普通に話すくらいはする間柄になっているため、わざわざ私が同席する必要もないとのことで日光浴をしていた。
つまり別に忘れていたわけではなく、そもそもそういう予定だったわけです。これからは事前にその辺りを話し合って決めようと思いますのでそろそろ足を崩してもいいでしょうか姉さん。
どこの誰が正座などという拷問を編み出したのか……。
結果として私の姉妹達も城船の君とお互い仲良くやっていこうと意思の確認ができた以上問題はない。
私はほら、ちょっと良い流れに乗れただけなのでアドバイスとかできないけど、あとはゆるゆると100年くらいかけて距離を縮めていけばいいと思う。
それよりも、城船の君が奉仕家系のちょっと前のめり気味な子に自由行動を許した方が大事だ。あの子を野放しにして大丈夫なのか。
02-27
採集強化期間と題された異次元での活動により、≪金剛城≫の普段は空のドックにどんどんとコンテナが詰め込まれている。
今回訪れた異次元は次元が収縮し続けた結果過密なアステロイドベルトのような状態と化しており、文明が現存する痕跡が見受けられないことから目に着く物体を全て分解し城船の君の私物にしてしまおうという方針らしい。
この異次元が元はどれほどの広さだったかは分からないが、それ程莫大な量の資源を集めて城船の君は何をしたいのだろうか。
……何も考えていないのだろうな。そのくらいは私でも察せられる。
物体を分解し、再加工しやすい資源とだけ呼ばれる状態でコンテナに詰め込む。そのコンテナを更に≪金剛城≫のドックへ詰め込んでいるが、質量が増えて重力に影響は及ぼさないのか少し気になった。
以前に異次元で惑星丸ごと分解したときはどうして気にならなかったのか自分でも不思議だ。あの時は……移住計画の方に集中していたのだったか。数十億人の移住などという大事業に携わっていれば、他の事に意識が向いていなかったのもおかしくはない。
使用されているコンテナの概要を確認したしたところ、何やら内部に収めた物質の重力を中和する機構が組み込まれているとわかった。
更に≪金剛城≫のドックも、ドック内の重力を中和できるようだ。
ううん……何やらちょっとした悪戯に使えそうなのだが、ぱっとは思いつかない。絶対に何か面白いことができるという確信はあるというのに……。もう少し考えてダメそうなら誰かに相談してみよう。
02-28
はぁ……日光……幸せ……。
02-29
何人かのクルーが楽しそうにホロウィンドウを操作したり話しているのを眺めつつ日光を全身に浴びていると、唐突に歓声が上がって驚いた。
聞こえてくる会話を日光を浴びながらぼんやりと整理した限り、どうやら彼女達の出身地である帝国周辺で繰り広げられていた戦争が全ての戦場で一斉に停戦となったようだ。複数の国家が関与している、厳密には複数の戦争が一度に停戦するなど史上類を見ない事態ではないだろうか。
私と件の戦争は直接的なかかわりがないので日光浴を、と思ったところでクルーの彼女達も直接的には関わってなかったはずだと気づく。
なぜ出身国とはいえ大して思い入れもなかったように見受けられた彼女達が、停戦を知って歓声を上げたのか。
私が知らなかっただけで、彼女達は何か戦争に関与していたのかもしれない。
気になったので直接訊いてみると、帝国内にてある種の情報工作を行っていたという。
帝国の未来はそう遠くないところで真っ暗になっているが、帝国首脳部は自業自得にしても帝国民全てが道連れになるのは忍びない。
そんなわけで、いざとなれば帝国民が自身の意思で進む道を選べるように、帝国が情報統制を敷く前線に関する実際のところを相手を選びつつ暴露していたそうだ。
具体的かつ正確な数字を交えた戦況など、伝える対象の選別に更に選別を重ねても安心などほど遠い危険な代物だ。神経を尖らせて作業をするのは大変だっただろう。
戦争が一斉に停戦となり、その繊細な情報工作ももうしなくて済む。……少なくとも再び戦端が開かれるまでは面倒な作業はしなくて良い。
うむ。面倒な仕事から解放されたなら喜びで一叫びしてもおかしくない。
考え事で少し頭を使ったので日光浴に戻る気分ではなくなったが、これから名目はさておきバーベキューをするそうなので丁度良い。
今回行う盛大な焚火は私に監修させてもらおう。どんな仕込みをしようか考えるだけで心が躍る。
03も書きたいとは思っていますが、作者の内なる宇宙は採集し尽くされたのでここで終了もありうるということで一度完結となります。