02B-04(02-20~02-24)
02-20
また知らないうちに新エルフ星の警備隊の戦力が増強されていた。
理由は本来宙域警備をするなら20隻程度の少数精鋭ではなく頭数を揃えておくべきだというもっともなものだったが、戦力としてはあまりに過剰ではないだろうか。
よしんば質より量に方針を転換するとして、今回の≪金剛城≫製駆逐艦を大量配備するならば、以前与えられた巡洋艦は必要ないのでは?
……城船の君が、私の新しい故郷となった新エルフ星の安全に重々配慮してくれていると思おう。
奉仕家系の者達が城船の君と話す機会があったと喜んでいた。
喜ぶのは良いし、関係が良好なのはなによりだが、わざわざ毎回毎回私に報告する必要はないんだぞ。≪金剛城≫においては私と君達に上下はないのだから。
あ、いや、なんでもない。泣きそうな顔をされてまでお世話されるのを断る気は無い。
02-21
疑似恒星光のサンルームでぼうっとしていたら閃いた。
木本植物から人種になった私達がエルフ……というかドリュアス的な存在ならば、草本植物が人種になったらアルラウネと呼べるのではないか。
プライマリーヒューマンはちょっと驚くほど多様な生物と交雑できる。鉱物由来人種と交雑とは一体どういうことなのか。いやこれは一度脇に置こう。
そもそもが相手側に精子や卵子に類するものがあればあらゆる生物と交雑できるようにデザインされた生物だとすら言われることがあるプライマリーヒューマンならば、そこらの花の雌しべにちょちょっとごにょごにょしたら受粉というか受精したりしないだろうか。しないか。
はー。日光浴は素晴らしい文化だ。
≪金剛城≫のデータベースで調べてみたら、プライマリーヒューマンが交雑するにはある程度人種に近しい必要があるとの帝国で行われた実験結果が見つかった。考えることはみんな同じなのだろう。もしかしたら故郷にも同じような実験データがあるかもしれない。
こうなると人種とはなんなのか……現在の学術的分類ではない根本的なところが気になってくる。
さしあたっては新しい閃きを得るべく、疑似恒星光のサンルームで日光浴をしよう。
02-22
ドックで城船の君を見かけ、何をしているのかと思ったら……なんだろうか。30メートルほどの高さの卵……? 金属製の卵のような……台座に乗せられた卵のようななにかをいじっていた。
気になって声をかけると、≪千亀≫という名前の【衛星圏内牽引船】という種類の宇宙船だと教えてくれた。全てのきっかけとなる【自律汎用巡洋艦プラウン】の≪海老介≫に関連して何度か名前を聞いた覚えがある。
その≪千亀≫のそばで何をしていたかと言えば、城船の君が初めて所有した宇宙船で相応に思い入れがあるので暇を見てはちまちまと手を加えており、今は考えていたことが上手くまとまらないのでその気分転換をしていたそうだ。
悩み事の手助けをすればむちっとポイントを貰えないかと思って話を聞いてみた。
奥殿に叱られない範囲で警備隊の装備を増強したいと、思いの外安全かつまともな内容で驚いた。特に奥殿に叱られない範囲を目指しているのがエライ。奥殿に伝えて褒めてもらいなさい。
ところで私もたまに貰うむちっとポイントとはいったいなんなのだろうか。
02-23
料理を趣味にするクルー何人かの連名で美味しい粘土を貰った。これまでも同じように連名で食べ物を貰っていたのでその点では特別なことではない。
試食した者には見た目からか粘土粘土と言われているようだが、料理には一家言持つ奥殿達が作った食べ物である以上味には期待ができる品だ。私は見た目だけで言えば、粘土と言うよりも豆を主に砂糖で煮た餡の類と予想した。
食べてみると実際に粘土だった。故郷の星で陶芸を体験した際に口に入った粘土を思い出す。人体に害がないと知っていたので、つい好奇心に負けてそのまま咀嚼し嚥下してしまった感覚が蘇る。でも美味しい。粘土なのに美味しい。
美味しい粘土……。美味しい分だけ故郷の美味しくないというか端的に言って不味い食べる粘土より優秀だ。しかも事前にナノマシンサプリを服用すればだれでも美味しいと感じられるのは素晴らしい。
……素晴らしいだろうか? それはもう何を食べても同じではないだろうか? この味覚に直接働きかける方向性の研究は再検討して欲しいとアンケートに書いておこう。
あとついでに故郷にある粘土のレシピも添付。これを再現した結果、彼女達が美味しい粘土と不味い食べる粘土を比べて何を見出すか興味がある。
しかし、結局人種は人種として括られる程度には似通っているのだな。どこでも考えることは同じか。なんだかつい最近同じことを思ったような気がする。
後日、ハビタット生まれハビタット育ちの城船の君がどこで粘土の存在や質感や味を知ったのか気になって尋ねてみたところ、今は新エルフ星と呼ばれている星を見つけた際の調査の一環で気づけば泥遊びをしていたそうだ。その泥が粘土質だったとのこと。
02-24
詳しいことは脇に置いて、【近接戦闘特化巡洋艦スクィラ】を操縦するシミュレーションの成績で競っていると聞いて私達旧エルフ星出身者組も参戦。仲良く下の方で城船の君と団子の結果を残した。
護身術も嗜む奉仕家系出身組に、純然たる非戦闘員のエルフ組が惨敗するというデータは城船の君の仮説を補強することになったので総括としては上々だろう。
どうせならと【近接戦闘特化巡洋艦スクィラ】のシミュレーターを借りて警備隊に持ち込んだところ、種族に関係なく格闘技の経験やその習熟度合が成績に現れていると判断できる程度に差が出た。
警備隊に配備された船の乗組員はこのシミュレーション結果に配慮して選出することが決まり、こちらでも城船の君に貢献できたようで満足。
自分へのご褒美に、城船の君を誘って疑似恒星光のサンルームへ行こう。