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02B-03(02-14~02-19)

02-14


 つい先ほどまで人が住んでいた惑星が見る間に分解されコンテナへ納められていくのはある種哲学的ですらあった。それを行った人物の人間性もとても興味深い……と思ったら分解した惑星をそっくりそのまま別の恒星系で再構成する計画とはまた壮大な……。

 しかし目的もなく――いや、惑星の再構成が目的でその惑星をどうするか考えていないというのは流石に刹那的過ぎる。


 エルフと関りが深いらしいオークの奥殿がいつものように上手いこと言いくるめて、今回は各人が城船の君を独占できる機会を作ってくれた。感謝。

 城船の君にもう少しばかり論理的思考を養ってもらうため各種学習を手助けするという建前があるので、私も何かしら指導内容を組んでおこう。

 ふむ。流石に私達4人姉妹で個別に枠を貰うのは無理だろうが、どうせなら私に用意された独占時間の枠を使って姉妹達が城船の君と触れ合う時間も作れないか考えてみよう。




02-15


 城船の君を始め幾人かの薦めてくれた創作物に私達が慣れたとあってもうすっかり種族はエルフとの呼び方が定着し、ついでにそれに関連した話を振られるようになった。

 世界樹はエルフに付き物らしいが、私たちの故郷にそんなものはなかった。不思議な力があるうえ惑星に匹敵する大きさの樹木が惑星に根付くというのも創作物の中ならともかく現実にとなると想像が難しい。


 統括管理AIが言うには大きさで言えば惑星規模の樹木は存在するそうだが、宇宙怪獣の一種とのことなのであまり出会いたいとは思わない。新しい母星へと近づいてきたならば積極的に撃滅していきたいくらいだ。宇宙怪獣死すべし。美味しいアレが増えることは許そう。しかし私が美味しいアレを食べるためには死んでもらわなければならないので、やはり宇宙怪獣は死すべし。


 美味しいアレの事を考えつつ自分で惑星規模の巨大な植物をデザインしてみるのは面白かった。実際には生み出さない前提があればこそ楽しめた。城船の君もこんなもの実際に生みだしてはいけませんよ。




02-16


 屋外で直火でお肉を焼いて皆で楽しもうということで、姉妹や奉仕家系の者達と連名で大き目の薪を組んで人と同じくらいの高さで燃える焚火も用意してもらった。惑星上でこういった催しをする際は、この大きな焚火の有無で盛り上がりに大きな差が出る。

 しかし屋外……≪金剛城(こんごうじょう)≫は建造物という分類の人工物では……? 建造物の内部で屋外……?


 何があって皆が楽しそうなのかは結局分からないままだが、用意してもらった焚火も良い感じに使ってもらえたし私もとても楽しかったのでついつい踊ったり歌ったりとはしゃいでしまった。

 こういった騒ぎ方もまたしたいものだ。




02-17


 城船の君に、帝国という人種(ヒトしゅ)の集団とI.M.S.I.という機械的知性達の戦争についていくつか尋ねられた。私個人になにかあるわけではなく、クルーを対象にした意識調査だという。

 あまり知らない集団とほとんど知らない集団の戦争に関して特に思うところもない。帝国は一応城船の君の出身国だそうだが、当人は帝国に対する愛国心どころか興味がほぼなさそうなので正直に答えた。


 それよりも気になったのは、I.M.S.I.の自称が人種(ヒトしゅ)ではなく機械的知性だという点。

 機械的知性と機械由来人種(ヒトしゅ)の違いついて、自身以外の何かに帰属意識を持つAIから発展した自我が機械的知性だと以前に教わった。

 ならばI.M.S.I.を名乗る機械的知性の集団は何に帰属意識を抱いているのか。


 城船の君は私の疑問に少し興味を惹かれた様子だったが、≪金剛城(こんごうじょう)≫を統括管理するAIに尋ねた様子もないので本当に少しだけ気になったようだ。

 私はI.M.S.I.に関して導き手殿か奥殿にでも聞いてみよう。




02-18


 生身のまま亜次元を観測する体質の難民を保護したとのことで亜次元に関するいろいろな話を聞き、改めて亜次元に関して学び直してみた。

 亜次元とは三次元的な認識で言えばいつぞや統括管理AIが見本で見せてくれたような紙媒体書籍の多層構造が本質に近い。そして基本的に生物が発祥するのは一番上の層であり、そのため基準点は常に最も上の層にあることから亜次元潜航機構を用いる際には沈む、潜ると表現する。そんな慣用的表現の理由も今更ながらに知った。


 頭の中が亜次元関連で埋め尽くされる日々を送っていると、ふと異次元干渉技術の存在を思い出した。

 ≪金剛城(こんごうじょう)≫において異次元干渉技術を応用したワームホール安定化は頻繁に活用しているが、異次元干渉そのものは使われたことがあっただろうか。

 亜次元干渉技術で最も身近というか知られているのは亜次元潜航機構とシールド技術だと思われる。ならば異次元干渉技術にも異次元潜航機構やシールド技術も存在する可能性がある。


 ……いや、シールド技術は異次元干渉技術を応用したもので各種設備が一新されていた記憶がある。そっくりそのまま使うのではなく応用した辺り、異次元を利用したシールドはまだ≪金剛城(こんごうじょう)≫にはないのかもしれない。

 それに、異次元潜航機構と呼ぶべきものがあるならワームホールを探し回ったりワームホールを安定化させる必要がないはずだ。わざわざワームホールを介して異次元との行き来を行っている現状、直接異次元間を移動することはできないのか。


 色々考えたものの、利便性よりも趣味を優先する性質の面々の顔が思い浮かんだので一度忘れてしまうことにした。何か必要があればきっとその時の私が思い出す。




02-19


 新しい故郷、新エルフ星の住民が早くも100億を超えたが大きなトラブルは発生していない。城船の君に帰属意識を持つ機械的知性達の手厚い支援のおかげで、一時は難民となった新しい住人達が心穏やかに次の生活に馴染む時間を得られたからだろう。


 しかし、いくらいくつもの星間国家が入り乱れた大規模な戦争であろうとこれほど多くの難民が発生するなど帝国という国は大丈夫なのだろうか。

 以前目にした覚えのある帝国周辺国家が批准する戦時法には、惑星への直接攻撃を禁止する条文があったはずだ。だと言うのに新エルフ星へ移住できた数十億ですら難民の一部でしかないというのだから、全体で言えば目を覆うほどの数に上るだろう。


 疑問を解決するか、そこまでの興味はないし放り投げてしまうか。どちらにしようか悩んでいると、食堂で奥殿と統括管理AIが何やら楽し気に喋っていた。向こうも私に気づいて会話が中断されたようなので丁度良いとばかりに帝国の現状について尋ねてみた。


「惑星への攻撃が禁止されているにもかかわらず莫大な数の難民が発生しているのは、これを機に統治機構の大規模な再編を行おうという一部の為政者の強引な改革の所為ですね。勿論それを推し進める人達は地に着ける足がない存在なのですよ」


「惑星に住んでるはずなのに地に足着いて無いって」


 奥殿は笑っているが、統括管理AIのジョークは私には良く分からなかった。ハビタット居住経験者向けのジョークなのかもしれない。

 そして、現実を知らない立案者の独りよがりな分類を基に住民をあちこちの惑星へ振り分けるという統治機構の大規模再編と題された計画のデータは、杜撰と評するにも値しない内容だった。


「それと帝国ですか。今アバター娘ちゃんが言った政策だけでももうヤバさは明らかですけど、そんなものほんの一部なんですよね」


 この、あまりに酷くて笑えないのに笑うしかない計画がほんの一部。


「皇帝が居ないのも同然と言う意味では実質的にはもう帝国ではないとも言える国ですし。今帝国で好き勝手やってる人達にとっては責任を押し付ける相手だったりその手段として皇帝と言う虚像が必要なので皇帝の支配する帝国という形は残ってますが……あの国はもういつ崩壊してもおかしくないのと同時に、数百年は今のまま存続するでしょうね」


 例えるなら亜次元に潜航して目的地未設定の光速航行中に推進機関が停止して慣性で進み続けてる宇宙船みたいな状態。

 奥殿が物凄く物騒な例えで話を区切るとケラケラ笑い、だから帝国から来た面々は城船の君と出会えたことに感謝していると締めくくった。


 光速航行はそもそも停止位置を明確にしていなければどこで停止するか分かったものではないし、現在地不明の状態で亜次元潜航機構を解除した場所に何かあれば宇宙船規模の核融合で跡形もなく吹き飛ぶことになる。

 想像以上に帝国という国家は危ういものだったらしい。奥殿達のような優秀な人々が流出するのも当然と言える。


 そんな優秀な人々の1人によって、私も知らない間に新エルフ星の周辺宙域の警備として城船の君が保持する過剰戦力の一部が正式に配備されていたりしたが、きっと私では窺い知れない深慮遠謀があるのだろう。

 ……一時凌ぎはともかく正式配備してしまうと、警備というには戦力が過剰じゃないですか?

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