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02B-02(02-08~02-13)

02-08


 予てからの懸念を少々大げさに城船の君へと相談してみた。

 うむ。あくまで少々だ。

 姉妹達を≪金剛城(こんごうじょう)≫へ呼び寄せたのを思い出して顔を合わせた際に、子供を成すにあたって必要なスキンシップをする機会を増やせないかと相談されたのが本題であるのは些末な裏話だ。


 それはそれとして、ああいった想いを直接的に伝えあう機会を増やすのは前向きに検討しよう。




02-09


 ≪金剛城(こんごうじょう)≫へ来て間もないこともあり、今までは実用的な技術に関するものだとかクルーの皆が遊んでいるところへ混ざるようにあれこれと楽しんでいたため城船の君などが帝国と呼ぶ国の娯楽作品には触れていなかった。しかし薦められて手を出してみると思いの外面白く、普段の関わり合いの中でわざわざ話題に挙げるほどでもない風俗を知ることもできて実用的でもある。


 ただ、私達の種族をエルフと呼ぶのはなんとなく理解できたものの、種族の発祥としては植物がそのまま人型の生物になったという点ではドリュアスと呼ぶのが適切ではないかと思う。いや、城船の君に親しみを持ってもらえるならエルフでもなんでも良いんだが。


 城船の君がいつの間にやら数は大したことが無くとも質としては大艦隊を編成していたのは少し驚いた。そしてそれを脇に置いて宇宙怪獣の養殖をする計画など驚きすぎて他人事のようだ。

 養殖するのは美味しいアレ……。私にも何か手伝えることなどありますか?




02-10


 VRは故郷の星でも確立された技術だが、≪金剛城(こんごうじょう)≫で用いられているそれはまるで次元が違う。正直な感想を言えば、普段と同じように眠り次に目が覚めた時VR空間だったとしてもデザインが現実に近いものなら気付けるか自信がない。

 そんな完成度の高いVR観光で城船の君達の出身地である帝国を目にすることができたのは喜ばしい。城船の君は生まれてからずっと宇宙空間で生活するためのハビタットという構造物内で過ごしていたそうなので、今度はそちらも見てみたいものだ。


 そんな帝国における人種(ヒトしゅ)事情というのは話に聞くだけでもとても興味深いものだ。


 私たちの故郷――旧エルフ星はプライマリーヒューマンとプライマリーヒューマンに連なる諸種族が200億ほどの人口で、その人種(ヒトしゅ)という枠組みの中心に繋ぎ役として300万ほどの人口の私達の種族――エルフが据えられていた。

 これは他の種族に先駆けてエルフが文明を構築し、その指導や共有を惜しまなかったためだと言われている。最も年経た古木の方々でも流石に当時を知るわけではないので、あくまでそういう記録が残されているというだけだ。


 エルフそれぞれの氏族の由来種族……この場合はどういった植物であったのかを調べてみるのも面白そうだ。




02-11


 ≪金剛城(こんごうじょう)≫でも初となる有人船によるワームホール往復実験。城船の君が自身で行うことは適当な理由を付けて阻止したが、私の見解を言うならば正直なところ全く危険はないと思っている。


 ギフターと呼ばれている存在に関してはそもそも分かっていることの方が少ない。

 単独なのか複数なのか。城船の君がギフトを得て以来関わっているギフターは全てが同一存在なのか。城船の君にギフトを与える目的はなんなのか。その目的に変化はないのか。あちらからの干渉に制限があるようだがどういったものなのか。なぜそのような制限があるのか。

 ギフターやギフトについて考え始めれば必ず突きあたる、ギフトはギフテッドにとって安全なものなのかという疑問。


 しかし、≪金剛城(こんごうじょう)≫に居住する私達がそのようなことを気にして何になるのか。今更≪金剛城(こんごうじょう)≫を降りて新エルフ星に住むのだとしても≪金剛城(こんごうじょう)≫を破壊するのか。もし≪金剛城(こんごうじょう)≫がギフターによる侵略の為の橋頭保だとして、大人しく破壊されるだろうか。


 結局はギフトやギフターが危険な存在なのかそうでもないのかは分からず、私達がどうしようと否定の余地などなくそこに存在するのだからあとは利用するか見ないふりをするかしかない。悪い想像がすべて現実のものとなっても笑って死ねるように日々を過ごす方が有意義だ。


 だから有人船によるワームホール往復実験なんて面白そうなことは私に任せてください。


 言葉による説得はなぜか上手くいかなかったが、最後には私がその権利を手にしたので何も問題はない。

 機械的知性達が先行調査を何度も行っているので誰よりも早くとはいかずとも、勝ち取った権利でその時点では稀な体験をしたという事実はなかなか気分の好いものだった。城船の君も私に注目してくれたし。




02-12


 異次元で出会った人々の境遇は決して他人ごとではないものだった。つい最近我身に降りかかった不運と同様の物だ。この短期間で立て続けに遭遇するなど、宇宙を見渡せばありふれている悲劇ということなのだろう。別の異次元を宇宙で一括りにして良いかはさておいて。


 似通った経験をしたということで移住や≪金剛城(こんごうじょう)≫や城船の君に関する説明を率先して請け負うことにした。

 実際には機械的知性達がほとんどのことを済ませてしまうため、ダブルチェック係のようなものだ。人種(ヒトしゅ)を相手にする際には人種(ヒトしゅ)の視点を介在させるのが機械的知性達が人種(ヒトしゅ)と上手く付き合っていくコツとのこと。

 無機物由来や不定形生物由来の人種(ヒトしゅ)は機械的知性と精神構造が似通っているため、そういった人種(ヒトしゅ)と関わる際はクッションとなる人員を置かない場合が多いそうだ。


 種族的豆知識を教えてもらったところで疑問が芽生えたのでそのまま尋ねてみた。

 機械的知性は人種(ヒトしゅ)と分けられているが、違いは何なのか。


 答えは分かるような分からないような、しかし単純な物。

 機械的知性はAIが自我を有したもの全般を指し、基本的に人種(ヒトしゅ)の特定個人または特定組織に対する帰属意識を有する。そういった帰属意識がなく、自立し自我を確固たるものとしたなら人種(ヒトしゅ)を名乗るようになる。


 おまけとして、人種(ヒトしゅ)の特定個人または特定組織に対する帰属意識を有する人種(ヒトしゅ)は奉仕種族などと呼ばれたりもする。

 こちらに関しては身近に具体例があるので直ぐに納得できた。確かに私達の世話をしたがる家系の者達と城船の君の世話をしたがる機械的知性達は似ている気がする。


 さて。雑談も十分楽しんだ。助力できるものがないか、大規模移住におけるトラブル報告に目を通していこう。




02-13


 姉妹達と顔を合わせたり≪金剛城(こんごうじょう)≫での生活について話す機会をしっかりと作るようになったが、奉仕家系の3人組と導き手殿に任せていた頃とあまり変わりはない。世話をされるのが3人か4人かの違いくらいのものだ。


 異次元の惑星から新エルフ星への移住は、大過なく終わった。

 厳密には新エルフ星近傍の宇宙空間に投棄されたかのような状態の(もと)特型艦船用ドックに居住したままで新エルフ星地表への移動を終えていないが、機械的知性達の万全の警備が敷かれている新エルフ星周辺宙域で事故が発生する危険性は極めて低い。後は新エルフ星の同胞達に任せてしまおう。


 大規模移住に一区切りついたはずだというのに特型艦船用ドックをパージした≪金剛城(こんごうじょう)≫が異次元へとんぼ返りしたと思えば、手当たり次第に採集器を動かし始めた。城船の君は今度はいったいなにを始めたのだろう。

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