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02-28

 回収した死体っぽいものが入っている紫色の透明ななにかは、無機質美人のホログラムの助言もあって≪金剛城(こんごうじょう)≫の高度解析施設1つを丸ごと割り当てて放置が決定。時間がかかるっていうそれだけで、現状だと詳しいことは分からないんだろうなと諦めが先に立つ。


 そんな訳で死体っぽいものが入っている紫色の透明ななにかはちょっと困ったことになったが、更に困ったことに同じようなものがいくつか見つかっている。仕方ないのでそれぞれを高度解析施設に放り込んでいる。正直どうせ調べても分からないなら1つだけ解析にかければ良いんじゃないかなと思ったりもする。


 同じようなのが一度にいくつも見つかってるので多分違うとは思うけど、あれらがもしギフトだったらなんか嫌だなぁ。死体って。死体を贈られましても。それもいくつも。




 探検ごっこというか宝さがしもどきみたいな感じにちょっと楽しむつもりがガッツリ気疲れしたので、今度はプールにて心を休めることにした。

 一部の人達は探検ごっこにハマったのか採集船を遠隔操作して何か面白そうなものはないかと探し続けている。そしてそれはなぜか疑似恒星光のサンルームで芝生に座ったり寝転んだりしつつ行われており、あっちだとまたなにか見つけてしまって更に疲れることになりかねないので逃げてきた次第だ。なお、どうせなにか見つかるならその場にいても別の場所に居ても大差はない現実は考慮しないものとする。


「にょろーん」


 ゆるくてふわふわさんが水面から顔と水でできた触手みたいなものを出して、触手をうねうねさせながら目の前を通り過ぎて行った。


「あ、ま、ちょ、早いっ」


 いつもは流れのあるところで漂っているゆるくてふわふわさんが水中で動き回っているのは珍しいと思ったら、翼の生えたふわふわヘアーさんが水面を爪先でこするように目の前を飛んで行った。水中対空中の追いかけっこだろうか。


 ぼんやり2人を眺めていたら、ふわふわヘアーさんの翼が気になって来た。

 羽搏いてる様子もないし、重力関係の技術を使ってるならいつぞや遊んだメカニカルウィングの類かもしれない。外装を生物的にしたのか、翼の形に培養した生体パーツにメカニカルウィングの機能を組み込んだのか。上手く飛べるなら俺も1つ欲しかった。


 ふわふわヘアーさんの翼を眺めていると、今度は視界でにょろにょろするゆるくてふわふわさんの触手も気になり始める。

 彼女が何かしらの形で触手をうごめかせているのはいつもの事なので意識してなかったが、今にょろにょろさせてる触手は水みたいな材質っていうか本当に水に見える。もし水ならどういう理屈で水を触手にして動かしてるんだろう。


 ふわふわヘアーさんもゆるくてふわふわさんもそれぞれ気になるところはある。でも今まで気にしないようにしていた最後の一人がやっぱり一番気になって仕方ない。

 大きい方のダブルで一番さんはなぜか延々とプールの中を歩き続けている。俺だと頭の先まで水面の下に隠れる水深のところを行ったり来たりし続けている。横を通り過ぎるゆるくてふわふわさんが水触手を絡みつかせても、ふわふわヘアーさんの爪先がすぐ目の前を横切って行ってもプールの中黙々と足を動かし続けている。


 眺めていてもゆるくてふわふわさんの水みたいな触手がなんなのかも、ふわふわヘアーさんの翼がナマモノなのかも、大きい方のダブルで一番さんがなぜプールの中を歩いているのかも分からないので、考えるのをやめて心を休めるべく漂うことにした。


 意味があるのかないのか、たまにゆるくてふわふわさんが水みたいな触手で体を撫でていく。ヌルヌルというよりもすべすべしてるしひんやりしてて肌触りが良い。

 俺の傍の水面をふわふわヘアーさんの爪先がこすっていくと水しぶきがかかってちょっと気持ちいい。

 大きい方のダブルで一番さんの進路上に流されていくと半分水面下の胸部クッションでやんわり押しのけられて面白い。


 ふと瞼を開けるとゆるくてふわふわさんの水みたいな触手に絡めとられて大きい方のダブルで一番さんに引っ張られる感じでプールを漂っていた。神経質なほど安全に配慮した≪金剛城(こんごうじょう)≫のプールとはいえ、寝てしまうのは自分のことながら危機管理能力に問題がある。


「持ってきたわ……って起きたのね」


 ふわふわヘアーさんはどこ行ったのかと思えば、物凄く水に浮くふわふわした手触りの板みたいなフロートを取りに行ってくれていたようだ。


「有難く使わせていただきます。でもそれ運んでくれる小さい魚みたいなロボットあったよね」


「私が負けちゃったから仕方ないわ」


「私の勝ちでーす。にょろにょろの勝利ー」


 軽く肩を竦めるふわふわヘアーさんと、四方八方に水みたいな触手をにょろにょろして見せるゆるくてふわふわさん。ゆるくてふわふわさんの水みたいな触手を介して連結している俺達に構わず、歩みを止める様子のない大きい方のダブルで一番さん。


「気になってたんですけどー、なんでずーっと歩いてるんですかー?」


 とうとうゆるくてふわふわさんが切り込んだ。ふわふわヘアーさんも知りたかったのか、うんうんと頷いている。勿論俺も何度も頷いてゆるくてふわふわさんの勇気を称える。


「最近、あまり歩いていなかったなと思いまして。トレーニングはしていますけど気になってしまうとどうにも落ち着かず……」


 なんとなくもにょもにょするのがなくなるまで何も考えず歩いていた、と締めくくられた。


「そーだったんですかー」


 ゆるくてふわふわさんは、さらっと流した。

 ふわふわヘアーさんは、ちょっと首を傾げていたものの直ぐに何度か頷いた。

 俺は良く分かんなかったので深く考えるのをやめた。


 まあ、趣味は人ぞれぞれだ。


 その後は大きい方のダブルで一番さんは満足するまでプールの中を歩き、ついでに物凄く水に浮くふわふわした手触りの板みたいなフロートを引っ張ってもらって他三人はだらだらした。


 シメはプールサイドで海鮮バーベキュー。

 生育食材としてはすっかり食べ慣れた貝や魚は勿論、海キノコや肉厚でもちもち食感の海草などを初お披露目してもらった。ゆるくてふわふわさんと大きい方のダブルで一番さんが良いのができるまでこっそり試行錯誤していたらしい。

 漸く人前に出せるようになったそれらは量が少なくて四人で食べきってしまい、どこからかかぎつけた他のクルーからブーイングを貰ったりもしたがどれもおいしかったので俺は大変満足。お腹いっぱいなのでお腹をつつくのはやめて頂きたい。


 プールでだらける事を決めるきっかけとなった俺の懸念は杞憂で済み、採集船で探検ごっこをやっていた人達も変なものを見つけたりはなかったので予定通り心休まる一時を過ごせた。明日以降も探検ごっこは続けるそうだし、もう何も見つからないと決まったわけではないのが次の心配事だ。

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