02-25
帝国やI.M.S.I周辺で勃発した戦争の経過を無機質美人のホログラムに調べて貰ったり、無機質美人のホログラムがあちこちから集める難民を受け入れる新エルフ星で問題はないか確認してみたり、諦めがつかなくて【近接戦闘特化巡洋艦スクィラ】の≪蝦蛄之進≫をシミュレーターで動かしたりする日々を送っていたらある日の食後にツルスベさんの襲撃を受けた。
「ワームホール。資源。ザクザク。安定。未知」
ちょっと意思の疎通が成り立たないので困った。
どうにか会話しようと隣の椅子にツルスベさんを座らせて食べ物や飲み物を薦めつつあれこれ頑張っていると、どうやら何か良いことがあったために興奮していると分かった。あとワームホールが重要らしい。
危ないことだったら無機質美人のホログラムがツルスベさんよりも早く俺に教えてくれてるだろうと判断し、いつになく面白いツルスベさんとのコミュニケーションを楽しんだ。
「ひどい。きちく。へんたい」
あまりに俺と会話が成り立たないのはおかしいと気付いて我に返ったツルスベさんが事実無根の罵倒をなさる。
「私も当人の同意を得ず特殊な性的嗜好を満たすのは良くないと思います」
「私もそう思いますけど……逆の立場だったらと考えると下手なことは言えませんね……」
いつの間にか近くの席に腰を下ろして俺とツルスベさんのやり取りを眺めていたリーダーさんがツルスベさんの味方につき、先輩さんは微妙な感じに中立。
「……この件に関しては深く掘り下げても誰も得をしないようなので本題に戻るべきでは?」
先輩さんの意見を受けて立場を変えたリーダーさんが建設的なことを言う。俺もテンパったりしたら俺がツルスベさんにしたように扱われる可能性が芽生えたようだ。
「うー……もういい。じゃあ話を戻すよ」
ツルスベさんの切り替えが早いのか、それともインプラントデバイスを使い艦内ネットワークを介して声に出さないところでリーダーさんや先輩さんが説得してくれたのか。そこら辺はともかく、ツルスベさんとまともに意思の疎通が行えるようになったので、なぜツルスベさんがあんな面白いことになっていたのかが当人の口から聞ける。
「機械的知性達の哨戒チームが発見したワームホールの調査報告を見せて貰ったんだ。それに拠るとあっち側に人種に類する存在は見られないし、次元の収縮がかなり進行しているようでガスも鉱物も密集しているし、ワームホールがかなり安定しているらしいし、これもう根こそぎ採集するしかないんじゃないかな?」
物凄い早口でも今度はしっかり何を言いたいのかは伝わって来た。多分その異次元には未知の――≪金剛城≫のデータベース的にはどうなのか知らないが、ツルスベさん的には未知の鉱物資源でも存在するのだろう。
鉱物含めた雑食な鉱物由来人種のツルスベさんにとって鉱物は美食の側面がある。
あと多少の体型や、肌と体毛の質感と色も食べた金属の組み合わせで弄れるのでファッション的な意味合いもある。ツルスベさんの本体は俺の好みに合わせて基本はプライマリーヒューマンで髪質が金属っぽいくらいにしか種族的特徴はないけど、複製身体の方では肌が完全に金属だったり木目っぽい表面加工だったりと気分で遊んでいる。加工でいいのかなアレ。
俺より早くツルスベさんが今回のワームホールに関する調査報告を見ることができたのは、ツルスベさんの嗜好を鑑みた無機質美人のホログラムの配慮と思われる。
「そのワームホールは≪金剛城≫が通れそうな――」
「通れるって書いてあった。じゃあ行こう」
前のめり過ぎて心配になるツルスベさんからリーダーさんと先輩さんに視線を向けると、ぴったり同じタイミングで肩を竦められた。今のは絶対裏で合わせてたって言い切れる。
ツルスベさんに導かれるまま≪金剛城≫クルーを集め行動方針を話し合い、暫く採集活動に励むことが決定。安定化させたワームホールの寿命は1年ほどという見込み。
もしかしたら、異次元の収縮がある程度進むと異次元の相対距離的なあれが安定してワームホールも長いこと開きっぱなしになったりするのかもしれない……ってリーダーさんと先輩さんが雑談でこぼしてた。
≪金剛城≫で異次元へ乗り込むとアステロイド帯を過密にしたみたいな有様でびびった。事前調査通りに観測できる範囲に恒星はなく、惑星ほどではなくとも結構な質量が密集している所為で重力場に異常が起きたりしている。宇宙空間なのに液体の塊があるとか、下手な船でワームホールを超えたらひどいことになってただろうな。
「なんかすごいね」
「すごいですね」
「すごいです」
採集活動強化期間の発端の現場に居合わせたリーダーさんと先輩さんと並んで呆然とする。あの時一緒に居たというかこの件の主導者というかなツルスベさんは、安全確認が出来次第自分で採集船を操り飛び出すべくドックで待機していると聞いた。前のめり過ぎるんじゃないだろうか。
「あ、突然なんですけど今回の採集と全く関係ない話をしても良いですか?」
「俺は良いよ」
「私もかまいません」
3人並んでぼうっと壁面ディスプレイを眺めていたら、先輩さんが何かを思い出したのか当人の言う通りに唐突に話を切り出した。
「私の事じゃなくてエルフさん達のことなんですけど……」
言いにくいことなのかもにょもにょしつつ喋る先輩さんの話を最後まで聞いて要約すると、駐在エルフさんの姉妹さん達は次世代を増やす目的で≪金剛城≫に来たものの俺とそういう雰囲気になることが無い現状をどう改善すべきかと相談を受けたとのこと。
「うん。どうしようね」
「そういうつもりないのに受け入れたんですか?」
俺の他人事かのようなセリフにリーダーさんが咎めるような視線を送ってくる。ちょっと痛い。
「そういうつもりだっていうのは≪金剛城≫に来て暫く経って落ち着いてから聞いたんだよね」
あと新エルフ星だと≪金剛城≫を後宮って呼んでるらしいっていうのもその時教えてもらった。機械的知性達も基本は女性だと前に教わったし、確かに≪金剛城≫クルーは俺を除いて女性しかいない。教えてくれなくてよかった。
駐在エルフさんの姉妹さん達は後宮に入れて貰えたんだからそういうつもりなんだよねって認識だったそうだ。
「うーん……」
この場合の落ち度は誰にあるのかを悩み始めた先輩さん。
「貴方の数がもうちょっと増えれば万事解決しそうなんですけどね……」
リーダーさんは前向きなのかそうでもないのか分からないコメントをくれた。