02-24
【自律汎用巡洋艦プラウン】の≪海老介≫に比べ、同じ巡洋艦でも【近接戦闘特化巡洋艦スクィラ】の≪蝦蛄之進≫はやっぱり扱いが難しく、通り一遍のスペックを確認した後は殆ど放置されているのも座りが悪いので何か良い使い道はないかなとホロウィンドウに表示した動作シミュレーションを眺めていて気づいた。
動きがなんか格闘技っぽいし、そういうのが上手い人ならもしかしたら宇宙での近接戦もできるんじゃないだろうか。自分の体を動かすような操縦感だしきっといける。
「安直……なんでもない」
「気を遣わなくて大丈夫。俺も安直だなって分かってるから」
「そっか」
そんな訳で声をかけた相手はぎしゃーさん。
電子戦アリVR格闘戦はしなやかスレンダーさんの一強な≪金剛城≫だが、格闘戦だけに限ればしなやかスレンダーさんと大きい方のダブルで一番さんとぎしゃーさんの3強らしいので思い立ってすぐ都合のついたぎしゃーさんに協力をお願いしてみた。ちょっとかわいそうなものを見るような視線を向けられたけど快く頷いてくれた。
いくら自分の体を動かすように船を動かせる便利な制御系でも慣熟訓練もなしに実機を使うのは危ないし、とりあえずシミュレーターをぎしゃーさんに動かして貰ったら面白いくらい簡単に敵船を叩き潰してくれた。俺じゃ主武装の蝦蛄拳の射程まで接近することすらできなかったのに。
「安直って言ったりバカにするようなこと言ってごめんなさい」
ぎしゃーさんとしては苦労なく動かした結果シミュレーションを最高成績で終了。そのため動かすの別に難しくないんじゃないのって感じだったので俺が試した時のデータを見て貰ったらしょぼくれた顔で謝られた。
「安直なのは事実だし、俺が下手な可能性も十分あるから」
「うん……」
あんまり納得できてないようだったが、一緒に疑似恒星光を浴びるついでに昼寝の抱き枕になってもらって水に流してもらった。気にしないで欲しいのは俺の方だったので水に流してもらうで合っている。
俺とぎしゃーさんだけじゃサンプルは少ないってことで、手が空いているのを見つけた順にギフト化幼馴染殿としなやかスレンダーさんとゆるくてふわふわさんを捕まえてシミュレーターを試して貰った。
「私がやって、意味はあったのかな?」
「意味は誰かが見出してくれるでしょ。たぶん」
超人うんぬんとかいうギフトになった幼馴染殿は大概のことを体のスペック任せでどうにかできるし、【近接戦闘特化巡洋艦スクィラ】の操縦も難なくカタログスペックを発揮させていた。
「格闘戦で言えば大差ないし、こんなもんだね」
「順当な結果ってことは方向性は合ってるっていう裏付けになるよね。ありがたい」
しなやかスレンダーさんはぎしゃーさんと同じようなシミュレーション結果となった。当人が言う通り、殴り合いの分野では同じくらいらしいのでやっぱり【近接戦闘特化巡洋艦スクィラ】の操縦は格闘技に習熟しているのが良いらしい。
「もうちょっと自由に脚が動けば好いんですけどねー」
「それは今回の主旨からは外れるので次回以降に持ち越していただきたい」
ゆるくてふわふわさんは触手系統に適性が高いのを活かして蝦蛄拳以外の脚を器用に動かしていた。格闘技的にはぎしゃーさんやしなやかスレンダーさんと差がある
ので、俺よりはるかに上手いものの今回協力してくれた他3人ほどシミュレーションのスコアは伸びなかった。俺の評価を1としてギフト化幼馴染殿を100すると、ゆるくてふわふわさんが70くらい。
やっぱり【近接戦闘特化巡洋艦スクィラ】を上手く扱うには格闘技をやれば良いと分かり俺は満足。
余禄と言うのか、≪金剛城≫や【自律汎用巡洋艦プラウン】の≪海老介≫、【近接戦闘特化巡洋艦スクィラ】の≪蝦蛄之進≫と言ったギフト関連の船の操作において、インプラントデバイスを介して脳で操作するのではなく、複製身体を操作するのと同じような船と魂を接続している事実も判明した。
俺には魂で操作するのは便利だなってくらいしか感想を抱けなかったこの魂がどうこうの技術に関して、他の人達は何か思いついたことがあるのかもうちょっと早くギフト関連の船を弄り回していれば良かったとちょっと悔しがっていた。
そういえば皆船それ自体を自分で動かしたりって事はあんまりやってなかった。皆で船を弄ったのは先行調査艇を改造したボートレースくらいだったかもしれない。あのレースで使った宇宙艇は操縦桿での操船をインプラントデバイスにより補助するものだから、確かに≪海老介≫や≪蝦蛄之進≫の操船とは別物だ。
この一件の後、一部の≪金剛城≫クルーは体に改造を施さないまま宇宙船でのドッグファイトを楽しむようになった。俺には無理だった。