02-18
アナザー・プレーン・レジデンツ。亜次元適応人種。
彼ら彼女らは先天的な特殊体質を持つことで有名な少数種族だ。俺でもそういう人達が居るくらいは知ってた。
なぜ有名なのかと言えば、その特殊体質は現状における帝国やその周辺国家の技術では再現が不可能だから。
そう。人種が生身で亜次元を観測する体質は、現行の科学では未だ再現できない領域にある。
なお≪金剛城≫のデータベースによると一部の宇宙怪獣も同じ体質を有する。
あと≪金剛城≫には肉体を改造して後天的に同じ体質を得られる技術がある。
そりゃあ≪金剛城≫の技術力は現在の帝国と比べれば魔法と勘違いしそうなくらいかけ離れてるけど、神秘の一つが解明されてたと知るのはちょっとさみしいものがある。
ムチムチ美人さんの目だって虚無を湛えてしまうってものだ。
いや、ムチムチ美人さんの反応は今回の戦争の一部の原因は亜次元適応人種の争奪戦だって難民の人達から聞いてしまった所為か。
亜次元適応人種と呼ばれる人種は、分かっている限り亜次元適応人種の母星でしか子供ができない。
加えて、その母星で生まれた他の種族が同様の体質を獲得した例は存在しない。あと亜次元を観測できる体質がないまま亜次元適応人種の母星で生活していると自然発生する亜次元断裂に呑まれて行方不明になるそうだ。こわい。
他にないユニークな特徴を持つ亜次元適応人種とその母星はだからこそ隣国に狙われた。
しかし、帝国がある銀河全ての国家が実質的に批准を強要される戦時法は、宇宙空間から惑星への直接攻撃を基本的に禁止している。宇宙怪獣の小さくて弱い奴や宙賊から惑星を護る艦隊は戦争への参加や敵軍との接触が厳密に定められているので、本来であれば惑星の領有権が軍同士の争いという形で奪い合われるだけだ。惑星の居住者が丸ごと難民化するなんて事態にはそうそうならない。絶対にないとは言わない。
惑星の居住者丸ごとの難民化。言葉にするとなんだかなじみがある一文。
亜次元適応人種達を含む住民の全てが惑星を脱出しなければならなくなったのは、戦争の騒がしさに好奇心をくすぐられた宇宙怪獣が戦場に乱入した後ついでとばかりに惑星を含む恒星系内の一定以上の大きさを持つ物体を壊して回ったからだ。食事が目的ではないのでエルフさん達とはちょっと事情が違う。
そういった経緯でもって居住惑星が破壊され生存者が難民化した船団の内、亜次元適応人種の船のみが新エルフ星近傍の宙域へ漂着した。
亜次元適応人種だからこそ亜次元干渉技術を用いたワープの事故から生還できた可能性はあるが、やっぱりパトロン的ギフターが何かしたんだろうと思うのは俺の妄想ではないと信じたい。≪金剛城≫の技術があれば亜次元適応人種はどこでも繁殖できるらしいし。
新エルフ星の住人は増え続けているが、トラブルは俺の想像よりはるかに少ない。機械的知性のカウンセラーを通した意識調査では、移住者は共通して母星の喪失を経験しているからだそうだ。
別の見方をするなら、先住者の機械的知性達もエルフさん達も惑星が俺個人の所有物だとの認識なので、後から移住してきた海老蝦蛄さん達や亜次元適応人種さん達もそういうもんなのかと彼ら彼女らの移住に協力した俺へ配慮してくれてるのが大きい。
一番は俺という個人に帰属するらしい機械的知性達が惑星のライフラインを完全に管理しているからだと俺は思う。
まあ、居住可能な人種人口の上限が200億くらいと算定されてる新エルフ星の現在の人口はまだ50億くらいなので、物理的な余裕が内面的な余裕に繋がってるのかもしれない。
そうじゃなくても30年後くらいにはエルフさん達の一部が旧エルフ星へ入植するので、それに参加する人達もいるだろうという見込みで閉塞感とはほど遠い。現段階でもエルフさん達と仲良くなって旧エルフ星への入植に前向きな人が一定数居るそうだ。
将来的に人口が増えるとかして対立が深刻化しそうなら、宇宙開発を進めてハビタットを建造するなり、100年くらい先になるかも知れないが海老蝦蛄惑星再構成プロジェクトのシメにそっちへ移住させることで解決ですれば良い。
それでも住むところが足りないならまた惑星を作るのも可能だと俺から言ってあるので、その辺りちょっと楽観的ともいえる空気が惑星居住者の指導者層にある。おおらかで気の長いエルフさん達に感化されている側面がないとは言えないけど、だとしても特に問題もないのでそのままにしておこう。
パトロン的ギフターが送ってくる難民で新エルフ星の住人は更に増えるのかなー。増えそうだなー。しかも何か特殊な事情なり背負ってるんだろうなー。
そうなっても俺は特に頑張ることもないので、苦労することになる人達の為に控えめであるように祈っておくか。