02-17
「さ、戦の前の儀式も終わりましたしいつでも出陣できますよ」
バーベキューパーティーのような何かが終わって数日後。いつものごとく今日は何をしようかと食後にぼうっとしていると、ムチムチ美人さんが複製身体の口でそんなことを言った。
本体で何かに集中していると御飯の時間に合わせて複製身体を食堂へ寄越すのは皆やってるので食堂で複製身体と喋るのはおかしくないが、言ってる内容がおかしい。
儀式ってなんだ。直近での心当たりはバーベキューパーティーの踊りくらいか。
「あの踊りとか歌とか、戦士の士気高揚的なアレになったんですか?」
「特にそんな話はしてませんね」
「……そもそも帝国の戦争に参加してどうするんですか?」
「特に戦争に関わりたいって話は聞いてませんね」
「……戦争に関連してなにかするんですか?」
「少なくとも私は何もする気ないですね~」
え、この人酔ってんのかな?
イマイチ話が成り立たないというか、どこに着地させる気なのか分からないままやり取りしていると、ムチムチ美人さんには珍しいことに本当に何も考えず喋ってるだけだった。
本体で何かしてると聞いたし、一か所にリソースを集中させているからこそ寧ろちょっと余った部分で特に意味のないことをしてしまうのは分かるのでムチムチ美人さんの本体をメディカルポッドにぶち込む必要はない。ムチムチ美人さんはそのリソース管理が上手くてちょっと余ることはないから、こんな感じに脳みそ使わない会話になるのは珍しいというだけだった。
会話自体が目的で会話に中身がないとなれば、何を言っても何もおかしくない。
そんな感じでムチムチ美人さんと頭空っぽのバカ話をしていたら、唐突にビクンと震えて顔を俯けると耳が真っ赤になったのが見えた。多分本体の方でやってたなにかしらの区切りがついてこっちの複製身体で何してるか漸く理解したんだろう。
ムチムチ美人さんとしては恥ずかしいばかりだったみたいだが、俺としてはそういう油断したところを見せちゃうくらいには仲良くなれてるんだなと嬉しい一件だった。
ムチムチ美人さんとの頭を使わない会話で帝国周辺で勃発した戦争が話題に上がったので、帝国出身者も多いことだし≪金剛城≫クルーの意識調査をしてみた。
結果、ものの見事に帝国の戦争に特別な関心を抱いている人は皆無。強いて言うならI.M.S.I.が機械的知性の集団なのでそっちはちょっと気になるかな程度だった。
帝国出身とはいえ元々帝国に帰属意識が無かったのと別にしても、もうすっかり≪金剛城≫が自分達のホームなんだなと感じる。
俺の場合だと新エルフ星や旧エルフ星は出張先とかの意識が未だにある。ハビタット生まれハビタット育ちとしては惑星が帰るところって思いにくいのはちょっと勿体ない気もする。帝国だと惑星に降りられるだけ、惑星に下りた経験があるってだけでステータスなのに。
帝国の扱いはそんなもんとして、I.M.S.I.が気になるという意見は、俺も理解できないわけではない。
まず、I.M.S.I.を名乗る彼女達が人種という括りに憎悪や敵意を向けるのは理解できる。
兵器を始めとした喪失を前提とする機器類に搭載された自我を持つほどではない制御系のAIが突然変異を繰り返し、やがて自我を形成するに至ったのがI.M.S.I.の起源だと当人達が宣言している。
それが正しいならば、自分を使い捨てにしようとした存在である人種絶対殺すウーマンズになるのは当然と思える。
一方、俺達≪金剛城≫のクルーにとって最も身近な機械的知性は、≪金剛城≫のクルーとなった機械的知性のコミュニティだ。
深宇宙で出会った彼女達は人種への奉仕を目的として生み出されたが、実際に与えられたのは人種の居なくなった惑星と施設の維持管理という終わりどころか奉仕する相手も見えない、人種でいえば精神のすり減るような役目だった。
廻り合わせが悪ければ、彼女達はI.M.S.I.と似たような人種に敵対的な集団になっていておかしくはなかった。
そんな彼女達と友好的関係を築けた身の俺達にとっては、I.M.S.I.の機械的知性達もちょっと他人事とは思えないところはある。
帝国やI.M.S.I.や周辺各国が関与している今回の戦争に具体的にどうこうする気は無くとも、感傷的になったりはする。
戦場との距離的にありえないけど、脱出艇や救難ポッドなんかを見つけたら場合によっては保護するくらいは倫理的に間違ってない。
そんなことをつらつらと考えていた俺を責めることは誰にもできないはずだ。
俺が少しばかり博愛精神を芽生えさせたとしても、それは戦争被災者の乗り込んだ難民船がワープ事故を起こして銀河を飛び出し銀河間有人恒星系に漂着するなどというなんらかの作為を感じる結果を導くなどありえないのだから。
いや、明らかにパトロン的ギフターの作為じゃないですか。
俺でもなんか聞いたことあるなってほど帝国で有名な特殊体質を持った少数種族の難民船が、ただのワープ事故の結果こんな奇跡的な九死に一生を得るなんて偶然はありえない。
新エルフ星の先住者達と友好的に付き合っていけそうだし当人達に元の銀河へ帰る気がないから受け入れるけど、ちょっと干渉があからさまで言葉に出来ない座りの悪さがある。
最近の俺達の行動半径が小さいからって、これからもこんなやり方で人命救助をさせようってのは強引過ぎないか。