02-14
無くなってしまう可能性のある異次元から出来る限り資源を持ち出そうという俺の熱意は衰えを知らず、ワームホールが消滅するまでになんだか凄まじい数の採集船と輸送船を建造したし、貯蓄資源もなんかすごいことになっていた。
≪金剛城≫が新エルフ星に辿り着いてすぐに海老蝦蛄さん達を詰め込んだ特型艦船用ドックと各種プラントに改装した元大型艦船用ドックをまとめて≪金剛城≫からパージして、用意しておいた別のドックを接続するなりそのまま異次元での採集活動に戻ったのはちょっとやりすぎだったかなと思わなくもない。でもワームホールの寿命っていう期限があったし仕方ない。
まあ、全て終わった後だからこそ言えることだ。溜め込んだ資源も無駄になるわけじゃない。
≪金剛城≫のデータベースに存在しない物質だっていつかは役に立ってくれるさ。危ないものじゃないことを祈る。
過去の事はともかくこれからの事を考えよう。具体的には異次元で採集してきた莫大な資源。量が量というか、質量が質量なので新エルフ星や旧エルフ星のある恒星系に運び込めるわけもなく、宇宙怪獣の養殖場そばの何もない宙域に集積するしかなかった。
≪金剛城≫に乗ったままずっと異次元で採集器を振り回していたので今更になって初めて集積所に来てみたが、対策しないと恒星系内の重力に影響が出る程の質量っていうのは見た目がもうすごい。ホロウィンドウで3Ⅾモデルを並べると≪金剛城≫がミニチュアに見える。
亜次元干渉技術を利用した重力をどうこうするフィールドがないとなんか危ないらしいっていうのも、あの絵面だけでそりゃあそうだと納得できる。
海老蝦蛄さん達の母星も全部分解して回収したので、なんなら新エルフ星や旧エルフ星の恒星系に惑星を再生するプロジェクトを皆に提案してみるのも面白いかもしれない。
流石に何もないところに惑星を作るとなると100年単位になるので、老化防止や寿命延長の処置を施していても実際に生きた年数が大したことのない今の俺にとっては気の長い話になりそうだ。
「惑星を? 1から? 何もない宙域に?」
皆で集まった食後にちょっと話をしてみたら、珍しく駐在エルフさんが皆の声を代弁したみたいになった。
普段こういう場合に代表することの多いムチムチ美人さんとかは、とうとうかやるのかみたいなちょっと感慨深げな顔をしている。惑星を作る技術に前から興味があったんだろうか。今回は多分一度採集器で分解しつくした資源を使って元の惑星を再構成する感じなので、厳密には1から作るわけじゃないけどそれでも良いかな?
「技術的な詳しい資料はこちらです」
無機質美人のホログラムが全員の手元に紙媒体チックなホログラムを展開してくれた。
前も紙媒体書籍をホログラムで作ってたし、無機質美人のホログラムの趣味だろうか。
いつの間に惑星丸ごとのスキャンをしていたんだとか、惑星を作るための専用機材があるのかとか、惑星の自然環境を完全に再現するより多少なり手を加えた方が良いんじゃないかとか皆結構楽しそうだ。
資料を見ながらの雑談を聞いていると、このプロジェクトをやるとしても≪金剛城≫がかかりきりになるとまたパトロン的ギフターが何か干渉してくるんじゃないかと思えてきた。
ふむ……惑星を作る前に、各種機能に特化させた防衛拠点を複数建造して≪金剛城≫から役割を分けておくのも良いかもしれない。
「さて、皆さん乗り気なのは結構ですが、この資料に目を通しただけでは何よりも大事な疑問が解決されません」
誰よりも高速で資料をスクロールさせていたムチムチ美人さんが一通り確認し終わったのか口を開いた。
無機質美人のホログラムの資料に手落ちがあるなんて珍しいというか、初めてじゃないだろうか。
「作った惑星は何に使うんですか?」
一斉に視線を向けられる。
確かに気にして当然の疑問だった。当然その答えは用意してある。
「考えてませんでした」
海老蝦蛄さん達の惑星を再構成してみようっていうのは、大量に資源があるしとりあえず大量に使ってみようくらいの考えが基にある。あえて言うなら惑星を作ることそのものが目的じゃないかな。
誰も何も言わない。なんかよく分からない緊張感が漂う。
皆の視線が俺とムチムチ美人さんを行ったり来たりし始めると、ムチムチ美人さんが一つ頷いた。
「考えなしに惑星作っちゃおうなんて言う人にはオシオキが必要だと思います」
「異議あり」
オシオキって。いや、でも、惑星作ったって誰も損しないし皆楽しそうだし良くないですかね。
異議ありとか言ったものの論戦でムチムチ美人さんに勝てるはずもないので、誰か助けてくれないかと見渡す。
皆の表情で理解した。これ裏でとっくに結論出てるやつだ。当事者を除け者にするのは良くないと思います。
「明確な反論がないようなので行きましょうか」
「はい……」
欠席裁判反対とか胸の内で叫びつつ、ムチムチ美人さんの言うオシオキだしいつものようにスキンシップがしたいのかなと思ってたら違った。
スキンシップはスキンシップでも、皆それぞれの好きな学問分野を付きっ切りであれこれ勉強させられた。
面白いことばかりなのは否定できない事実だが、ちょいちょいどの程度理解しているかをテストされるのはスクール時代を彷彿とさせて辛かった。
マンツーマンだったり、多いと先生側が3人になったりの勉強会を送る日々はとても濃密だった。
ある日唐突に勉強会が終わりを迎え、良く分からないまま翌日になり、海老蝦蛄さん達の惑星再構成プロジェクトは俺の賛成があれば開始できる状態になっていたと知った。
結局皆乗り気だったんじゃないか。オシオキという名目で勉強させらえていたのは何だったのだろうか。面白かったけど釈然としない。