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01-05

 【自律汎用巡洋艦プラウン】≪海老介(えびすけ)≫に乗ってみて一番驚いたのがムチムチ美人さんの講習で受けた一般的な巡洋艦との操縦方法の違い。


 この国の技術で建造された巡洋艦も動かすだけなら1人でも動かせるとはいえど、その場合は一部スラスターのオンオフを切り替えたりろくに狙いも付けられず弾薬をまき散らすだけで本来の性能の10%も発揮させられない。


 それが≪海老介(えびすけ)≫なら操縦者の技術が伴えば1人だけで100%の性能を発揮させられる。


 なにより操縦席に座って船に意識を向ければ脳内のインプラントデバイスと≪海老介(えびすけ)≫が接続することすらなく船体を自分の身体と同じ感覚で動かせる。

 元の自分の身体に意識を戻しても変な癖がついていたり違和感があったり切り替えで酔ったりもしない。

 慣れれば船体と自分の身体の両方を同時に動かせると端末のマニュアルテキストには書いてあったのでどんな感覚なのか楽しみになっている。


 ≪海老介(えびすけ)≫に乗り始めて数日は本拠のハビタットから離れすぎない程度に慣熟訓練を繰り返した。


 ≪海老介(えびすけ)≫の係留は組み立てるために貸してくれた特別ドックをそのまま使っていいというので、いっそのことすっぱり生活環境を変えてしまおうとハビタット内で借りていた物件の契約を解除して居住場所を≪海老介(えびすけ)≫の生活スペースに移した。

 中型以上の大きさの船を持つならその船に住むのはよくある。なんなら小型でもちょっと工夫したりで住んでる人はいる。


 俺がムチムチ美人さんにそうしたい旨伝えた時も二つ返事で手続きを手伝ってくれたうえ、補給の際に特別ドックまで配達ラインの設定まで教えてくれた。

 特別ドックに停めた≪海老介(えびすけ)≫から出なければSPの手配要らないもんな。レディアマゾネスSPさん達も心なしか安堵してた。

 ムチムチ美人さんだけは継続して俺の担当につけられたようで多分その話を伝えられたであろう翌日はちょっとやつれてた。


 本音としては護衛ロボット用意するとか戦闘訓練するとか少しくらい自衛できるようにしてほしかったりするだろうに言ってこないのはなんだろう。

 まあ、深宇宙へ探索しに行ったら自分で資源を集めてコンテナ式汎用製造プラントに入ってる設計図から色々作ってみるつもりで居るし、身を護るためのものもあったので予定に入れておこう。


 ≪海老介(えびすけ)≫の扱いにはすぐに慣れたので1ヶ月のつもりだった慣熟訓練を前倒しで切り上げて運送業を再開した。


 ちょっと抜けてたのが、今まではトラクターを使った手続きの早さを売りのメインにしていたので≪海老介(えびすけ)≫を使うとハビタットの出入りの検閲で他と同じように時間と手間を食うようになると忘れてた。


 トゥルーギフトを理由に≪海老介(えびすけ)≫の検閲や通関スキャンが厳しくなったりしなかったのはそもそも管制官にはトゥルーギフトだと認識されていないからだろう。


 偽装用のデータを用意するので入港や臨検の際にはそれを読み込ませるようにしてくださいとムチムチ美人さんに言われた時は面倒を避けるために別にいいかとしか思わなかったが、急ぐ必要はないが目を通してほしいと渡されたデータにオートパイロット中の暇つぶしに目を通していたら、こういった処理を施していなければ宇宙空間などでの無断スキャンを始め入港や臨検での船体とシステムへのスキャンすら電子的物理的に反撃を受けると実例付きで書かれていてびっくりした。


 無断スキャンはこれまたムチムチ美人さんにアドバイスされ≪海老介(えびすけ)≫をロックした段階で相手に警告を発するよう設定してる。

 無断スキャン後トラブルになったら警告の有無で行政の介入度合が変わるそうだ。


 無断スキャンは文字通り船の持ち主の許可なく船体やそのシステムやカーゴの内容物を調べる行いなので一応違法ではないがそんなことされて気分のいい奴はきわめて少数派だ。

 そして無断スキャンを受けた船の持ち主がそのデータを共有する匿名コミュニティへ言えば誰でも確認できる無断スキャン常習犯の社会的信用が著しく低いのとは全く関係ないが、別の船の兵装の暴発が運悪く無断スキャン常習犯の船に直撃することが多いとムチムチ美人さんが言っていた。

 不思議な話だ。


 荷物の運送中に唐突なスキャンを受け、そんな無断スキャン常習犯かと思っていたら砲撃を受けた。


 ≪海老介(えびすけ)≫のシールドはそれ単品でもギフトであるシールドジェネレーターによるものなのでちょっと過剰なくらい頑丈で同じ砲撃を1秒以内に100発撃ち込まれても問題ないのだが、それはそれとしていつも通りの1日を過ごしていたら何の脈絡もなく殺されそうになったのでものすごいびびった。


 初めての事態で若干パニックを起こしつつ砲撃してきた船をスキャンして出港前に更新した危険船舶のデータと照合するとヒット。端的に言って宙賊の襲撃を受けているということだ。


 巡洋艦に関する各種資格を取るため一通り学んだのにいざとなると頭から必要なことが出てこない。

 あわあわしている間も砲撃が続いていて、それでも微動だにしないシールドにちょっと安心してものすごく今更ながら宙賊と遭遇した際のマニュアルを急いで開く。


 ムチムチ美人さんにアドバイスされて緊急で即座に開けるよう設定していたのが功を奏して必要なデータをすぐ開けた。

 そのデータの手順に従い砲撃を受けつつ交戦に関する警告をオープンチャンネルで発して嘲笑というか下品なバカ笑いを返され、流石にいらだちが混乱を上回ったところで「面倒になったらとりあえず相手の船のスキャンデータとったら撃墜して良し」という注釈が目に入った。まあ宙賊だもんな。


 マニュアルの注釈に従って今すぐレーザー砲で吹き飛ばそうとしかけて考え直し、万が一のために出来るだけ穏当に済ませようと全速力――ではないけど結構な速度で宙賊船に≪海老介(えびすけ)≫を寄せて海老の髭っぽい多機能フレキシブルマニピュレーターで捕まえた。

 そのままざくっとマニピュレーターを刺して船内ネットワークへ物理的に強制接続をして船の制御を乗っ取った。


 常に展開している全天球汎用センサーでその光景を見ていたが、宇宙船の戦闘っていうか宇宙怪獣の捕食シーンだった。

 ≪海老介(えびすけ)≫は海老だし多分問題ないな。


 宙賊船を生け捕りにしたので船内の空調システムを強引に弄って内部の生物を昏倒させた。

 俺の「こうしたい」ってイメージをプログラムにしてウィルスを作るとは≪海老介(えびすけ)≫ってすごい。


 突発的に宙賊の襲撃を初めて受けてかなり慌ててしまい≪海老介(えびすけ)≫じゃなかったら今頃沈められてたが、とりあえず自分は無事で≪海老介(えびすけ)≫も汚れ一つない。


 生け捕りにした宙賊船はこのまま曳航してハビタットに持っていってムチムチ美人さんにアドバイスを貰おう。

 宙賊に襲われたのが本拠への帰路で良かった。往路で襲撃されてたら知らない人相手に宙賊を処理する手続きをしないといけないところだった。

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