02-13
「アバター娘ちゃん聞いてよー」
海老蝦蛄移住計画の折衝を一手に引き受けてくれているムチムチ美人さんがぐったりしていたので、随分な大仕事を任せている自覚のある俺が労うべく近寄るとなんか面白い単語が聞こえた気がする。隠れよう。
俺に気づいた無機質美人のホログラムには気にしないようにと身振りで頼み物陰に潜んでいると、やっぱりムチムチ美人さんが無機質美人のホログラムをアバター娘ちゃんと呼んでいる。
ははーん。ムチムチ美人さんのネーミングセンスは俺と同類だな。
なんか優しい気持ちになったので予定よりもずっと優しくムチムチ美人さんを労うことができた。
面倒な役割を受け持ってくれてありがとうございます。
海老蝦蛄移住計画は実際に≪金剛城≫で新エルフ星へ送るのみとなった。
海老由来人種と蝦蛄由来人種を併せて精々40億くらいの人数なので、異次元間超小型ワームホール式通信で新エルフ星とやりとりして新エルフ星で全員受け入れてもらえることになったらしい。
長距離旅客輸送用にカスタマイズした特型9番コンテナを特型艦船用ドックいっぱいに敷き詰めたら何人運べるんだったかな。
ふと思い立って数字を拒否する頭で頑張って計算していたら、その辺はもう算定が済んでいて大型艦船用ドックに急遽食料生成プラントをはじめ必要なものを詰め込んでいる段階だと先輩さんからデータを貰ってしまった。
数字がいっぱい過ぎて頭が痛くなった。一つ一つの桁が大きすぎる。
40億人を管理するのって大変なんだなと実感し、頑張ってくれてる人達へのお礼を考える。
……考える。
…………考えたけど、何も思いつかない。
衣食住に娯楽まで、≪金剛城≫で自給できないものはあんまりない。
足らないものも無機質美人のホログラムが張り巡らせた超小型ワームホール式通信を介して帝国や帝国の周辺国家でクレジットを稼ぎ、そのクレジットを使って合法的に欲しいもののデータを購入して≪金剛城≫で作ったりしていると聞いている。
つまり、クルーの皆は物質的には大体満たされている。
困った。もう、首にリボン巻いて俺がご褒美のプレゼントだよとかやっちゃいそうなくらい困った。
≪蝦蛄之進≫と一緒に拾った異次元干渉技術によりワームホールの寿命を調べることができるようになったので、ワームホールが消滅してしまう前に海老蝦蛄移住計画を完遂するべく皆頑張っている。
俺を例に挙げると、長距離旅客輸送用特型9番コンテナで大量製造したり、大型艦船用ドックを各種プラントに改装したり、並行して周辺宙域で資源採集に励んだり……する許可を無機質美人のホログラムに出してぼーっとする日々。
≪金剛城≫クルーの他の皆は、新エルフ星と連絡を取り合って海老蝦蛄さん達との折衝を熟してくれているらしい。新エルフ星に先乗りして居住地の選定をしたりしている海老蝦蛄さんや、その協力をしてくれているエルフさん達もいると聞いている。
さすがに一人だけ全然忙しくないのも居心地が悪いので何かできないかと悩み続け、閃いた。
海老蝦蛄さん達が移住してしまうなら、この異次元の資源を回収できるだけしてしまってもかまわないのではないだろうか。異次元が収縮しきったら消滅してしまう可能性もあるって無機質美人のホログラムが言ってたし。
俺にしては珍しく冴えてると自画自賛して、≪金剛城≫のドックに積んでいた採集船や輸送船を放ち、ついでに新エルフ星の衛星に置いてきた採集船と輸送船をこっちに運んで資源を回収して欲しいと機械的知性達に頼んだ。
俺の冴えた閃きにより俺がすべきことは、あれこれ機械的知性達に任せたら終わってしまった。
これはもしや人の仕事を増やしただけなのでは……。
そんな一幕を挟みつつ4ヶ月ほどで≪金剛城≫の受け入れ態勢が整い、1ヶ月ほどで≪金剛城≫への海老蝦蛄さん達の収容も完了。
惑星から≪金剛城≫までの移動は【自律汎用母艦モンスターロブスター】の≪海老緒≫を出動させたが、蝦蛄由来人種達の勿論同じくらいの蝦蛄型宇宙船もありますよねって視線が辛かった。設計データが見つかったら蝦蛄みたいな特型宇宙船も建造しようかな。
海老蝦蛄さん達が居た異次元と俺達のホームとでも呼ぶべき次元を繋ぐワームホールはあと半年ほど維持できるそうなので、めいっぱいの時間を活用してあっち側で資源採集に励む計画が立てられている。
異次元間の距離が離れることによるワームホールの消滅はどうにもならないが、ワームホール安定化の技術により長ければ1年ほどワームホールを維持できると実地で確かめられたのは結構な収穫だと思われる。誰かがそんなことを言ってたのできっとそうなんだろう。
しかし、消滅する可能性がある異次元とはいえ、他所の異次元から資源を大量に運び出すってなんか火事場泥棒みたいだよな。