02-09
エルフさん達にエルフの登場する作品を薦めてみたら、思いの外気に入ってもらえた。
ただ、植物由来人種の彼女達をエルフさんと呼ぶ件については『樹木に由来するならドリュアスの方が近い気がする』と言われてしまった。
うーん……細かいことは気にせずもうエルフって呼び続けよう。
「さて、パトロン的なギフターから通達された1年後に開くワームホールの調査に気乗りしない人はいますか?」
半分くらいがそろそろと手を挙げた。勿論俺もしっかり挙手した。
「はい。ではそれとは別に、調査に反対の人はいますか?」
誰も手を挙げない。俺も手を挙げていない。
「意志の統一はできたようなので、1年後のワームホール調査は行いたいと思います」
微妙な感じの人もいるけど賛成の拍手を得られたので良し。
「じゃ、それまでの1年でやってみたい事とかやっておかなきゃいけない事って何かあるかな?」
俺は思い立って始めた宇宙船の大量建造が順調なので特別何かしたいことも今はない。
≪金剛城≫のドックを埋めていた≪金剛城≫建造の為に作った採掘船や輸送船は一部を残してほとんどを新エルフ星の衛星を改造したドックへと移してあり、今回建造した沢山の船は全部≪金剛城≫に詰め込むことができる。
≪海老介≫と同型船の【自律汎用巡洋艦プラウン】を新たに19隻。≪海老介≫と併せて20隻になる。
≪海老蔵≫と同型船の【自律汎用巡洋戦艦クレイフィッシュ】を新たに9隻。≪海老蔵≫と併せて10隻になる。
≪海老宗≫と同型船の【自律汎用戦艦ロブスター】を新たに4隻。≪海老宗≫と併せて5隻になる。
≪蝦蛄之進≫と同型船の【近接戦闘特化巡洋艦スクィラ】もおまけで≪海老介≫と同数の19隻を追加。≪蝦蛄之進≫と併せて20隻。
さすがに≪海老緒≫と同型船の【自律汎用母艦モンスターロブスター】は自重したが、≪海老緒≫に搭載する艦載機として≪金剛城≫のデータベースで見つけた【鹵獲用艦載爆撃艇エイセティス】をめいっぱい製造中なので何も問題はない。
≪海老介≫と≪蝦蛄之進≫が巡洋艦で、小型中型艦船用ドックに入れるので小型中型艦船用ドックの使用は40基。
≪海老蔵≫も巡洋戦艦で一応は中型船ではあるもののドックの内寸ギリギリで整備やらに手間取ることになるので大型艦船用ドックに入れるし、≪海老宗≫は戦艦なので当然大型艦船用ドックに入れるので、大型艦船用ドックの使用は15基。
≪海老緒≫は俺が持っている船で唯一の特型艦船で、特型艦船用ドックの使用は1基。
≪金剛城≫に残したままの採掘船や輸送船を含めても、ドックの使用率は50パーセント以下だ。
こうなると小型艦船も作ろうかなと言う気になる。機械的知性の船外活動用艇とか、≪金剛城≫が移動するときに前を走らせる先行調査高速艇バージョン2は船ではあるけど自衛能力すらないし。
「誰かがどこかと戦争でもするように戦闘艦船を大量建造してる件は後程追及するとして、私は美味しい宇宙怪獣の養殖事業試行を提案します」
ムチムチ美人さんがチクリと言葉で刺してきたが、正座させられるのは今ではないようなので良し。
しかし、宇宙怪獣の養殖とかこの人は何を言ってるんだろうか。
「育てたのを帝国の宙域に放ってテロでも起こすのー?」
小さい方のダブルで一番さんが真っ黒なことを宣った。何人かがなるほどって顔で頷いてるのは闇が垣間見える。皆さんもうすっかり帝国が嫌いですわー。嫌う理由があって好きになる理由がないなら嫌いになって当然だな。
しかし、旧エルフ星は回遊性宇宙怪獣によって滅んだも同然の状況まで追い込まれたとてもセンシティブな話題だと思いますので、チャレンジャーな皆様にはもっと自重して頂きたい。さっき頷いていた中にエルフさん達も含まれていますけどね。
「大きな問題は3つ。餌はどこから調達するのか、どうやって逃がさないようにするのか、宇宙怪獣なんて育ててどうするのか」
リーダーさんが至極真っ当な指摘をしてくれた。
「では皆様、お手元の資料をご覧ください」
先輩さんがそれぞれの手元にホロウィンドウを展開してくれた。先輩さんはムチムチ美人さんの側か。
軽く内容に目を通したら俺ではちょっと理解に時間のかかるものだったので、そっと資料から目を逸らす。ムチムチ美人さんでも眺めよう。
「まず、餌に関して。≪金剛城≫の最新設備により、宇宙塵から特定の宇宙怪獣の食べる物質を精製できます」
視界の端でツルスベさんが自慢げに胸を張っているので、その設備か技術を見つけて実用化したのは彼女なのだろう。
「次に、育て始めた宇宙怪獣を囲い込む柵に関して。異次元干渉技術を解析し亜次元干渉技術に反映したことで大規模かつ高強度のシールドを展開できるようになりました」
今度はゆるくてふわふわさんが立ち上がって自慢げに両腕を掲げてあっちこっちにアピールしている。
意外と関わってる人多いなあ。
「最後に、何を目的として宇宙怪獣を育てるのか」
大事なことなのか、ムチムチ美人さんが一人一人と視線を合わせていく。俺とも目が合ったのでぱちっと片目を瞑って横ピース。
「んどぅふっ……ん゛ん」
ちょっと苦しそうだがムチムチ美人さんは建て直した。ガンバレ。
「私たちが養殖を提案する宇宙怪獣は、美味しいアレです」
ぎしゃーさん、しなやかスレンダーさん、ふわふわヘアーさんの視線と雰囲気が鋭くなる。
美味しいアレで通じる宇宙怪獣は、皆がもう美味しいアレとしか呼ばなくなったくらい俺達の中で浸透した存在であり、一部の面々の大好物となっているのでさもありなん。
反応が顕著だった3人の他もだいたい乗り気になっている。まあ、美味しいもんね。
「でもさ、まだ残ってるやつあるんだし、それを培養して増やせば良いんじゃ?」
そうだよね。養殖よりも培養の方が楽だし早いよね。ギフト化幼馴染殿に俺も賛成。
「何言ってるんですか! 培養より養殖! 養殖より天然! 我々は生育食材を食することで食の真理を、一端とは言え解き明かしたではありませんか!」
「あ、はい」
ムチムチ美人さんの分かるような分からないような主張に、というか勢いに圧し流された幼馴染殿。
「というかー、理論を構築できたのでー、実用してみたいんでーす。良いですよねー?」
ゆるくてふわふわさんがとんでもない形で話をまとめてしまって、ムチムチ美人さんが背中から刺されたみたいな表情をしたのが面白いので可決。
「じゃ、反対の人も居ないみたいなので、十分に安全に配慮して宇宙怪獣の養殖をしてみよう」
脱走とかされそうになったら、俺の用意した海老蝦蛄船団で捕獲または駆除するってことにした。
俺の趣味で大量に作られている船も役に立つことが決まったので正座はなくなり、ちょっと自慢げにしたらムチムチ美人さんによる正面からのハグで窒息させられそうになった。