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02-08

「私、≪金剛城(こんごうじょう)≫に乗ってる他の人達と比べて個性が薄いと思うんです」


 ある日、食後にいつもと同じく食堂隅のリラクゼーションスペースでごろごろしていたら駐在エルフさんがそんなことをおっしゃった。

 いやぁ、植物由来人種(ヒトしゅ)の存在しない銀河出身者としては、その種族だけで十分個性的だと思いますよ。


「確かに種族の希少性という面を見れば個性的ではあります。……しかし、≪金剛城(こんごうじょう)≫で種族がカブっているのは機械的知性を除けば私達植物由来人種(ヒトしゅ)だけなんですよ……っ」


「カブるって表現はやめなされ。そもそも貴女は姉妹が≪金剛城(こんごうじょう)≫へ来ることに乗り気だったように見受けられましたが、その辺りはどういった心境の変化でしょうか?」


 まともに取り合うと何かが削れていきそうだったので、ちょっと茶化す感じに言葉遣いを変えてみた。

 キャラが薄くて悩んでいるなんて相談に素面で乗れるほど人生経験豊かじゃないんだよ。スクール出てすぐ個人事業主として運送屋になったこともあって、狭い範囲に限られた社会経験しかないのもこういう相談を受けるにはふさわしくない気がする。【衛星圏内牽引船(トラクター)】の≪千亀(ちき)≫に久しぶりに乗ろうかな。


「私の親も枝分けでしか子供をつくらなかったので、彼女達は別の自分というか、年齢は違っても双子というか、4人なので4つ子というか……そういうものなので好みは似通うし、皆で同じ対象を好きになるのは仕方がないし寧ろ嬉しいというか」


「ありがとうございます」


 普段は色白の肌が段々と赤くなっていくのはとても良いものです。視線も落ち着かない感じなので高ポイント。ムチムチ美人さんのむちっとポイントも沢山もらえると思う。あのポイントがなんなのかは未だに知らないけど。


「いえ、こちらこそありがとうございます」


 何にお礼を言われてるかは判然としないものの、まあ流しておこう。


「まあ、初期から乗ってる人達は端的に言うと俺にハニトラを仕掛けるために選ばれた人達なので、アピールポイントがバラけていて当然っちゃ当然なんだよね」


 ハニトラ要員なのに忠誠心を植え付けられてなかった辺り、帝国がそんなこともできないほど斜陽なのか彼女達の自我が強固なのか。給料だか手当以外は良くない職場だったらしいので前者と見た。


「ああ、ギフテッドを取り込むための工作員的な感じで知り合ったのでしたか」


「そうそう。人格面にしろ外見にしろ、なにかしらで短期間の内に俺の興味を惹ける強みがある人達なんだろうね」


「興味を惹ける……」


 間。


「大きいのから小さいのまで随分と多趣味でいらっしゃる?」


「なんだろう。節操なしって聞こえた」


「結構な大所帯ですものね」


「貴女もその一員ですけどね?」


「ではもう少し多角的に親交を深めてみましょうか」


 そういうことになった。そして直後に駐在エルフさんの姉妹さん達が強襲をしかけてきて、とりあえず皆で疑似恒星光のサンルームへ移動してお菓子を食べた。駐在エルフさんの思惑通りに事が進んだのかは定かでない。


 駐在エルフさん当人には関係ない話として、頭の中でエルフエルフ言ってると植物由来人種(ヒトしゅ)って言われた時に一瞬誰の事かわからなくなるのは問題かもしれない。もう当人達にエルフっていう架空の種族が居てそれと似ているように感じるとか言ってしまおうか。




 ででん。 面白いものはないかなと≪金剛城(こんごうじょう)≫のデータベースを漁ってたらギフト化幼馴染殿が現れた。


「うーっす」


「うぃーっす」


「うぇーい」


「いつまで続けんの?」


「はーい私の勝ちー」


 俺は負けてしまったらしい。いつもと変わらない意味のないやり取りだ。


「変なデータ受信したんだけどね」


「うん?」


 歯切れの悪い感じに幼馴染殿が切り出した。


「すぱっと言っちゃうと、1年後くらいにこの座標に通過可能なワームホールが開くからって」


 幼馴染殿が室内の投影機を使ったホログラムウィンドウを手元で開いてこっちに飛ばしてきた。俺のインプラントデバイスは≪金剛城(こんごうじょう)≫クルーならある程度アクセス権を付与してあるし、これだけならAR表示の方がスマートじゃない?

 ささやかな疑問はさておき座標を確認すると、現在地から結構な距離があるし銀河間宙域なので目印になるようなものもない。


「データの送り主はギフター以外ないよなぁ」


 ≪金剛城(こんごうじょう)≫のパトロンみたいなことやってるギフター。


「私の方にも同様のデータが送られてきたので間違いないかと。それ以前にそちらの模造超人身体のセキュリティですと、この次元における技術力では不正侵入は不可能です」


 唐突に現れた無機質美人のホログラムの言葉はちょっと情報量が多い。

 視線を幼馴染殿に向けると相手もこちらを見ていた。なんとなく頷けば幼馴染殿も頷いた。意味は分からないが良し。


「宇宙を内包する次元は動き続けてるらしいし、その都合で誘導したい場所とつながるワームホールが開くのは直近だと1年後なのかね」


「全部スルーなの?」


 幼馴染殿が頷いたのは詳しく訊けというGOサインだったらしい。


「正直、細かいこと気にしても仕方ないなって」


「それは分かるけど」


「ああ、でもそのギフトの……ナントカ身体って≪金剛城(こんごうじょう)≫でも似たようなのが作れそうなのかな?」


「模造超人身体ですね。これは現在の≪金剛城(こんごうじょう)≫では作れませんが、複製身体の先にある技術ですよ」


「そう言われると、既にある身体を複製するのと理想的な性能の身体を作るのとだと同系統の技術っぽい」


「んー? そっか、今まで気にしてなかったけど、この身体って私の元の体を理想的な感じにした物かも? 全体的にバランスが良くなるように調整されてるし」


 そう言われて意識してみると、確かに顔の印象は変わらないように微妙に整えられてるような気がしなくもない。


「ちなみに、顔の造形は変わっていませんよ」


 無機質美人のホログラムに頭の中を見透かしたかのような注釈をつけられ、幼馴染殿から呆れたような視線を向けられた。

 理想に近づけるのに手を加える必要がない顔面を生まれながらに持ってたってことなのか、幼馴染殿は自分の顔面の造形にこれっぽっちも不満がなかったのか。どっちでもすごいわ。

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