02-07
クルーの一部がチームを結成して異次元干渉技術の解析を進めていたらしく、現状のワームホール調査の停滞は仕方ないものだろうとの推測が為された。
そも、俺達というかスポンサー的なギフターがくれている様々なギフトの技術体系において定義される異次元というのは、重なり合っていたりいなかったりとかどうとか。3次元的に表現するなら泡が近いとか。3Dペイントソフトで複数の球体を描いてオブジェクトを相互に関連付けていない状態で移動させているだとか。
俺にはよく分からない。
俺に理解できたのは、全ての異次元というか次元というかは常に動き続けているので、俺たちの今いる次元と俺達が進入できる異次元とが接しているとは限らないという結論だけだった。
ギフト化幼馴染殿も身体がギフト化したことでスペックは向上していようと理解力の面では相変わらず俺と大差ないので、説明を受けている最中はぼうっとしていて最後だけうんうん頷いていた。仲間が居れば寂しくない。
異次元干渉技術を活かすことで、超小型ワームホール式通信が異次元間の使用に対応できるようになったり、ワープやシールドの亜次元干渉技術を用いている物もバージョンアップが施された。具体的に何が変わったのかは説明を理解できなかったが、より良い物になったのは理解できているので問題はない。
意外だなと思ったのが、≪金剛城≫のエネルギージェネレーターが次元歪曲偏差炉とかいう空間を歪めることでずっと落下し続ける物体からエネルギーを取り出す方式だったので、異次元干渉技術の導入により取り出せるエネルギーが増えたことだろうか。
≪金剛城≫ってそんな感じで動いてたんだなと思って初めて知ったとこぼしたら、ムチムチ美人さんに正座させられた。
いや、でも理解できない技術って関心持てないじゃないですか。≪金剛城≫の各種パーツ決めるときも、だらーっと並べてできるだけ各項目の数字が大きくなるように選んだだけですし。
ワームホールの調査が足踏み状態なのはどうしようもないと割り切ったことで、本日ものびのびと過ごせるというものだ。
「ここの関節すごいすり減るんだけどどうしよう。下手に硬いのに入れ替えたら他のところで不具合出るし、電磁式に入れ換えるとエネルギー配分見直すことになっちゃうよね」
重力式関節を見つけたと誰かが言ってたものの、電磁式以上にエネルギーを食うそうなので今回は選択肢に入れない。
「うーん……どうしようもないなら電磁式しかないと思いますけど、構造材を変えるんじゃなくて、逆にクッションジェルでも噛ませてみますか? 冷却剤兼用のジェルを誰かがデータベースから発掘してましたよ」
山羊由来人種の先輩さんに相談しつつマイ人型ロボットの改良をちまちまと進めてみる。
先輩さんは皆の先輩だ。
元レディアマゾネスSPさん達の警護チームが結成される際、選抜された順に指導を受けたとかで先輩さんは他の面々よりも早くギフテッド対策室であれこれ教わったので元レディアマゾネスSPさん達全員にとって先輩だ。なお選抜されたのは1日だけ早かったもよう。
ムチムチ美人さんとは同じスクール出身で先輩さんの方が年上なので先輩になる。なお在学中の付き合いは皆無だったとのこと。
駐在エルフさんが≪金剛城≫に乗ることになって世話を焼いたのが先輩さん。
あとは旧エルフ星出身の3人が≪金剛城≫に来た時も先輩さんが面倒をみてたし、駐在エルフさんの姉妹3人が来た時も駐在エルフさんではなく先輩さんが面倒を見てた。駐在エルフさんはぼうっとしてたら疑似恒星光のサンルームで10日くらい経ってたと供述した。
「今触ってみたら関節の駆動部に使うような金属じゃなかった。多分合金の配分に失敗してるよ。確認してみたらどうだろう」
すぐ近くで自分のマイ人型ロボットをいじってた鉱物由来人種のツルスベさんが、金属に触れるとなんとなくどういうものかわかる種族的体質を活かしたアドバイスをくれた。
鉱物由来人種はその体質を活かした工業関係に進む人が多く、ツルスベさんも実際にその系統のスクールを出ている。しかしなぜかその後警備関係に進路を変えて今は≪金剛城≫のクルーとなった異色の経歴の持ち主だ。
まあ、≪金剛城≫のクルーってだけで異色の経歴と言えばそうだけど。
「確認してくれてありがとう。……パーツ作る時の指定でもミスったかな」
「ここ。ここの数値指定間違ってる」
「こっちのパーツはそもそも選んだ合金の特性があってないかもね」
俺が自分で製造ログを見直し始めたら、だらーっとホログラムウィンドウに文字列を流してた先輩さんとツルスベさんそれぞれから指摘を頂いた。
今の速読って早さじゃなかったのになんで読み取れるのか不思議で仕方ない。こういうところでこの人達はエリートだったんだなと実感するわー。
「ありがとう。じゃあちょっと正しいパーツでシミュレートしてみる。合金の特性があってないっていうのは……ああ、これまだそもそも作ってないパーツだ。見直してみますハイ」
そんなこんなでマイ人型ロボットをいじっていたら、気付けばお隣のドックでそれぞれがカスタマイズしたそれぞれのマイ人型ロボットによる近接戦トーナメントが開催されていた。
イマイチ機体に特色が見えない堅実オブ堅実2トップの片割れ、豚由来人種のムチムチ美人さん。
基本形より小さくしたうえに子機を同時に複数操作する、鼠由来人種の小さい方のダブルで一番さん。
堅実にパワーイズパワー2大巨塔の片割れ、牛由来人種の大きい方のダブルで一番さん。
人型の後ろに足が2本追加されて人型っていうかケンタウロスみたいになってる、馬由来人種のリーダーさん。
軽量化で機動力を突き詰めた、豹由来人種のしなやかスレンダーさん。
フレキシブルアームが明らかに触手な、海月由来人種のゆるくてふわふわさん。
やられる前にやるパワーイズパワー2大巨塔の片割れ、恐竜由来人種のぎしゃーさん。
4腕グラップラースタイル、翼手目由来人種のデビごっこさん。
大体は人型ロボットだけど腕をメカニカルウィングに換装した、鳥由来人種のふわふわヘアーさん。
イマイチ機体に特色が見えない堅実オブ堅実2トップの片割れ、山羊由来人種の先輩さん。
球体に手足が生えたような見た目のやっぱり人型ロボットとは言い難い、鉱物由来人種のツルスベさん。
なんか唐突に巻き込まれてとりあえずデフォルトで組んだだけの、元はプライマリーヒューマンでも今は生物なのかもよくわからないギフト化幼馴染殿。
駐在エルフさんを始めとした旧エルフ星出身7人と俺を併せた8人はど派手な人型ロボットのド突き合いを眺めながら、精密には動かせない有線コントローラーで掌大の人型ロボットを操作してリングから落とし合うという全く別のトーナメントを開催。
コクピット以外スクラップが前提のあっち側にベーシックな人型ロボットで混ざってる幼馴染殿は本当すごい。「これがギフトの力だ」とかわざわざ艦内ネットワークを介して音声通信を繋げてウッキウキに叫んでる。気づけばバトルロイヤルに発展してるのを見ると、ギフト化幼馴染殿と同じくらいのスペックが俺にあっても俺は絶対に混ざりたくない。
両トーナメントの景品はやはり俺の1日独占権なので平和的な方のトーナメントで優勝した俺は参加者からブーイングを頂き、そのまま俺を除いた面々で第2回人型ロボット格闘技会有線コントローラーの部が開催される運びとなった。