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02-05

 ワームホールの向こう側で拾った特型2番コンテナにパッケージされていた【近接戦闘特化巡洋艦スクィラ】は≪蝦蛄之進(しゃこのしん)≫と命名した。

 完成した船が蝦蛄(しゃこ)とそっくりな船だったのは、きっと≪海老介(えびすけ)≫などの海老シリーズと似たようなコンセプトだからだ。しかし海老シリーズと同じように大きさ違いで蝦蛄(しゃこ)型の船があるかと探してもデータベースにはなかったのが残念だ。蝦蛄(しゃこ)は海老ほど種類がいなかったりするんだろうか。


 蝦蛄について教えてくれた海月由来人種(ヒトしゅ)のゆるくてふわふわさんはプールで泳ぐでもなく漂っていることが多いし、生育食材による料理も魚介類に絞って腕を磨いているので種族的にそういうものが好きなのかと聞いてみたら個人の好みだと返されてしまった。なんでもかんでも大きな枠でくくるのはダメだね。


 反省すべきではあるもののそれは一旦横に置き、猿由来人種(ヒトしゅ)の自分は種族的なものが思い浮かばないなあと話題を振ってみたら、君は猿由来人種(ヒトしゅ)じゃなくてプライマリーヒューマンでしょってゆるくてふわふわさんに言われた。≪金剛城(こんごうじょう)≫の医療系設備で調べたら本当に俺はプライマリーヒューマンだった。


 俺今まで自分の種族を勘違いしてたという衝撃の事実が発覚するも、そういうこともあるよねって感じでクルーの女性陣に驚かれることはなかった。

 自分の種族を勘違いしてるせいで困ったこともなかった以上、今更気にするものでもないと思い至ったのですぐにどうでも良くなった。


 強いて言えば、俺の種族の母星に昔あったって理由で≪金剛城(こんごうじょう)≫のデザインを決めたけど、それはあくまで猿由来人種(ヒトしゅ)のつもりだったからなのでちょっと居心地が悪い。

 プライマリーヒューマンという種族がどこから来たのか分からないらしいというのは俺でも知ってる話だ。


 俺の種族というどうでもいい話はさておき、≪蝦蛄之進(しゃこのしん)≫だ。

 異次元干渉技術というどでかい手土産をもってやってきた大型新人。


 【近接戦闘特化巡洋艦スクィラ】という宇宙船のくせに何を言ってるんだという種類の船の≪蝦蛄之進(しゃこのしん)≫の特徴は、亜次元干渉技術によるシールドを物ともしない短射程高威力の一撃を繰り出すウェポンアームだ。ウェポンアームっていうかそのアームがウェポンっていうか。


 実験では、帝国の大型軍艦用シールドは軽くぶち破り、≪金剛城(こんごうじょう)≫由来の中型船用シールドはかろうじて一撃で叩き割った恐ろしいやつだ。前者は船体に致命傷というか真っ二つに引きちぎったものの、後者は装甲表面に傷をつけるにとどまったのが救いか。

 どこからともなく持ってきたデータで帝国の大型軍艦用シールド発生装置を再現した無機質美人のホログラムも恐ろしい。こっちはとりあえず俺を害することが無いのが俺にとっては救い。


 ≪金剛城(こんごうじょう)≫の一番頑丈な部分のシールドも時間をかければ割れるそうなので、蝦蛄みたいな船を見かけることがあったら近づけさせないように気を付けよう。

 短射程の表現通り精々100メートル程までしか届かないのが救いだ。


 自分で≪蝦蛄之進(しゃこのしん)≫に乗るなら射程の短さは嬉しくなくとも、そもそもこんなピーキーな船は十全に活かせる気がしないので乗る予定はない。なんの問題もない。

 相対速度が秒速数キロメートルとかになる敵船との距離を100メートルに縮めるなんて、艦船制御補助AI任せでも俺には無理だ。




 異次元干渉技術を得て何か変わったかというと、特段何も変わらなかった。

 通過可能なワームホールが見つからないので、異次元間超小型ワームホール式通信も実際にワームホールの向こう側と通信できるのか試せていない。


 すぐにやるべきこともないので疑似恒星光のサンルームで芝生に転がってダラダラしていると隣に誰かがやって来た。

 薄っすら目を開けて確認すると、恐竜由来人種(ヒトしゅ)のぎしゃーさんだった。

 しなやかスレンダーさんとぎしゃーさんはサンルームでの日向ぼっこ仲間なので、サンルームで転がっていれば顔を合わせてもおかしくない。


「ぎしゃー」


 相手も薄っすら目を開けていたのか、俺の方に顔を向けてダルそうに吠えなすった。

 テンションが高い時にぎしゃーと言うぎしゃーさんがぎしゃーと言うからにはテンションが高いのだろうが、目が開いてるのか居ないのか分からない表情だとどう反応すればいいのか困る。

 少し悩んで、程よい日差しで溶けてるかのようにでるんでるんなぎしゃーさんをちょっとひっぱって、抱き枕にして寝ることにした。サンルームは昼寝に丁度いい環境を整えているので思考能力の低下はやむを得ない。


 次にふと目を覚ましたらサンルームが人で埋め尽くされていた。

 軽く見渡した範囲ではだいたい皆いた。

 俺のも含めて複製身体もほとんどが転がって眠っている。

 うん。もうひと眠りしよう。


 あとから無機質美人のホログラムに聞いたところによると、彼女がサンルームに人を集めたそうだ。

 本体の俺がサンルームで昼寝を始めたころにタイミングが重なったのか複製身体の俺もどんどん眠り始め、それに引っ張られてそれぞれの俺と一緒にいた人達も眠り始めた。目の前で寝てる人が居ると眠くなるのは何もおかしくない。

 俺とは関係なくそれぞれの生物時計的に睡眠をとっていた人も含めて最終的にクルーのほとんどが眠ったので、本来この時間に眠っている人は生体時計が狂わないように遮光シールドを展開してなんとなくサンルームに詰め込んだそうだ。その時点で寝てない人には声を掛けたら自分の意思でここへ来たとのこと。


 たまにはこんな日もあって良いんじゃないかなと思う。


 こんな日でふと気づいた。俺が帝国出身とあって今までは≪金剛城(こんごうじょう)≫の基準時間は帝国に準拠していたけど、もうほぼ帝国と関わり合いはないし≪金剛城(こんごうじょう)≫独自の基準時間を設けるか、旧エルフ星や新エルフ星の自転や公転周期に合わせた基準時間を設けるべきだろうか。どこかで思い出したら誰かに相談してみようかな。

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