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02-03

 2例目となる通過可能ワームホールでは予定通りに行動。消滅までの2ヶ月間は無人無機械的知性船による往復を延々と繰り返して、通過時及び向こう側のデータを集めた。

 危険は何一つ見られなかったが、ワームホール強行観測船の機器では恒星を1つも発見できなかったのはとても気になる。

 恒星が1つも発見できないってどんな宇宙なのか。

 不安が増すばかりだ。




 3例目の通過可能ワームホールを発見したのは2例目が消滅して10日後。それも隣かつこれまた無人の恒星系。先住者と折衝したりの手間はかからないし助かったけど作為を感じる。ギフターの方で発生していたトラブルが解決したのかもしれない。


 機械的知性の乗り込んだワームホール強行観測船がワームホールへと着々と近づいて行く。

 俺は恋人というか奥さんというかな関係にある小さい方のダブルで一番さんを抱えて食堂隅のリラクゼーションスペースに座り込み、ハラハラしながらモニターを眺めている。


 小さいのと大きいので一番の彼女は、元レディアマゾネスSPさん達の内最も小柄かつ体型比では一部のパーツがクルーの女性の中で最も大きい鼠由来人種(ヒトしゅ)だ。

 俺に抱えられる感じでくっつくのが好きなので精神安定を目的としてくっついてもらっている。俺がお腹に腕を回すと胸部のウェイトの負担が軽減されるらしい。


「もうちょい体の力抜いてリラックスしよー? でももうちょいぎゅーってして良いよー?」


「いくら反論できなくて実験を許可したって言っても下手したら死んじゃうんだし心配なものは心配でしょ」


 早口になるのも仕方ない。なのでぎゅーっとする。

 頭に顎を乗せるような姿勢になると、いつものごとく薄くて大きい耳をぐいんと上に伸ばして顔を両側からペチペチされる。このペチペチは未だにどういう意味なのか分からない。


「だーじょーぶだってー」


 発音的に正しいのかも怪しい言い方で不安をくすぐるのはやめてほしい。


「初めて会った時のきりっとした感じで言ってくれたら安心できる」


「だーじょーぶだってー」


「表情はきりっとしてるのにその脱力しきった声が出るのはなんかすごい」


 わざわざ手鏡で顔を見せてくれた上で声と喋り方はそのままなのは器用だ。

 待ってなんで鏡? 普段から携行してるカメラを自分に向けてその映像を俺のインプラントデバイスに飛ばせば良くない?

 どうでもいいことに意識を取られたらちょっと落ち着いてきた。


「あ、ほら。突入しますよ」


 3人分の飲み物なんかを取りに行ってくれていた大きい方のダブルで一番さんが僕の後ろから二人まとめて抱え込んでモニターを指差す。


 大きい方のダブルで一番さんは、背丈も一部のパーツの質量も≪金剛城(こんごうじょう)≫クルーの中で一番大きい牛由来人種(ヒトしゅ)。一部のパーツの体格との比率は僅差で2位。

 俺の両肩にその大きいパーツを片方ずつ乗せるため、服装の形状にこだわっている。


「あ、あー……行っちゃった……まだ戻ってこないの? 大丈夫? 通信もうできないんだよね? ちょっとくらい繋がったりしない?」


「だーじょーぶだってー」


「大丈夫ですよ。だいじょうぶ、だいじょうぶ」


 大きい方のダブルで一番さんの胸部パーツで俺の顔の両側が占有されたため前に回った耳で顔をぺちぺちされたり、後ろから抱えられているままあやすようにゆらゆら揺らされつつ頭を撫でられたりしてるが、落ち着かないものは落ち着かない。

 落ち着かないのは本体だけではなく、俺という中身が同じ俺の複製身体もあっちこっちでそれぞれ皆に囲まれて気を遣われて居る。


「よし。より激しいスキンシップに意識を集中させて、調査に関しては一旦棚上げしてもらいましょう」


 唐突に叫んだムチムチ美人さんの声に賛同した一部の女性陣に複製身体ごと連れられて場所を移し、より激しいスキンシップの波に呑まれた。

 一応聞きますけど、ムチムチ美人さんの趣味だけが理由じゃないんですよね?


 なお、有機械的知性船は予定通りワームホールの向こう側に到着後、出来るだけ早く戻ってきてくれた。

 俺は女性陣の波に沈んだ後だったので迎えられなかった。




 ワームホールは2度通過というか1往復するとその船は暫くワームホールに弾かれると判明したため、これまた予定通り有機械的知性船の往復実験は搭乗する機械的知性を変えたり変えなかったりしつつ複数隻のローテーションで行われた。

 ワームホール突入の度に毎度毎度コントロールルームでソワソワしていたら、途中から特定のスキンシップの為に用意した部屋から出して貰えなくなった。これ発案したのって、むちっとした人だよね多分。


 3例目となる通過可能ワームホールを調査した成果は大凡2つ。次は有人船で往復実験をしても良いんじゃないのかなって感じのデータと、ギフトの特型2番コンテナ1個。

 床全面がベッドみたいな部屋へと全俺が連れ込まれている間にワームホールの向こう側で発見され、現場を預けていた無機質美人のホログラムが回収を指示した特型2番コンテナ1個は今回の調査における成果であり余計な荷物などではない。ちょっとうへーって思ったりなどしていない。


 加えて、この特型2番コンテナ1個はギフトである。

 帝国式な定義で言えばギフトはワームホールから飛び出して来るなんかすごいものだが、それはあくまで帝国式の定義である。

 無機質美人のホログラムが断言したのでこのコンテナはギフトである。

 ワームホールの向こう側で発見したものであろうとも、結果的にワームホールのこっち側に来たのでギフトである。

 

 ワームホールの向こう側で拾得したものがギフトなら、『ワームホールから出てきたなんかすごいもの』という帝国周辺におけるギフトの定義はいつになるかは知らないがそのうち見直されるのかもしれない。

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