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02-02

 ワームホールとはなんなのか。

 俺やムチムチ美人さん達の出身地である帝国で調べてみると、すぐにその答えは出てくる。


 あらゆる観測によるデータが取得できていないよくわからないもの。

 両面どちらからでも進入できるが戻って来た記録がない円形の平面空間。

 現行文明よりも発展した技術力の産物がたまにこちら側へやってくる際の出口。


 この場合の現行文明とは、帝国の存在する銀河にその時点で存在する文明を指す。

 帝国所有の資料によれば3000年くらいの間ずっとワームホールの研究は進展がなく、認識は変わっていない。3000年ってちょっと理解しがたい長さだ。


 つまり遥か古代における雷みたいなもの、と古代文明の研究を趣味にしてる集団のところから聞こえてきた。

 しかしその古代における雷の扱いが分からないので、結論ぽくまとめたその表現のあとに注釈を求める声が相次ぎ二度手間となった。


 雷が落ちるとそこは豊作になる反面、火事なんかも発生するので天の恵みであり災害みたいなものという意味だそうで、ハビタット生まれハビタット育ちしかいない帝国出身者の大体にとっては分かるような分からないような。

 旧エルフ星出身者はうんうんと頷いていたので惑星居住者にとってはそんなもんなんだろう。


 ワームホールとはなんぞやという認識を統一した後、皆でわーわー言いながら無理矢理気分を盛り上げて、ギフト由来の技術をふんだんに搭載したワームホール強行観測船をデザインした。

 ワームホールを発見したり、ワームホールのこっち側からあっち側をちょっとだけ観測出来たり、いっそ使い捨て前提で突入させる全長30メートルのコルベット。

 超小型人工ワームホール式通信装置も搭載したので何も得られないことはないと思う。同じワームホールなわけだし。


 それでも万が一を考慮して機械的知性は搭乗させない。

 喪失を前提とした機械的知性に由来する敵対的機械知性の集団であるI.M.S.I.との対立を続けている帝国を始めとした周辺諸国家の現状を見れば、今回のような危険の大きい調査にAIを放り込むことはよろしくない。多すぎる立候補者達には、機械的知性を含む人種(ヒトしゅ)は絶対にワームホール強行観測船に乗せないと周知した。


 複製身体を使って人的損失リスクなしに調査を行えれば一番いいのだが、複製身体の操作は星系内くらいの制限がある。ワームホールを超えるとなると自発呼吸するだけの肉の塊になるのは明らかだ。複製身体と魂の接続が強制遮断された場合の危険性も無視できない。


 そんなこんなで準備を整え、探し始めてすぐに発見したワームホールをこちら側から調べて危険なものはなさそうだと判断。

 ワームホール強行観測船を突入させると通信途絶と相成った。

 超小型人工ワームホール式通信もだめだったのは予想外と言うべきか、予想通りというべきか。皆が皆、一応乗せておこうって言ってたし予想通りか。


 ワームホール強行観測船は≪金剛城(こんごうじょう)≫との通信が行えなくなった場合に自身の航路を逆にたどって戻るよう設定してあったのでしばらく待ってみることにした。

 本音を言うと戻ってこないと思う。でもだからこそ戻ってきそうという微妙な内心で5日経過し、戻ってきちゃった。戻ってきちゃったか。


 帝国史初かも知れないワームホール往復はさておく。

 置かないといけない。

 ああ、何人かの瞳が虚無を湛えている。


 ワームホールの向こう側に関する諸データはどこにもなんの危険性も見られなかった。

 寧ろ怖くなった。

 そして危険性が見出せなかった所為で、安全ならば良いじゃないかと機械的知性達の突き上げを食らい、有機械的知性船によるワームホール往復実験が遠からず行われると決まってしまった。


 今回を含めて当分のワームホールでは、無人かつ無機械的知性のワームホール強行観測船の往復を繰り返して通過に関するデータを集め続ける。

 そのうちそのうちと先延ばしにできる限界はどのくらいなのかを実地で試すことになった。




 有機械的知性船のワームホール往復実験は関係者全員の予想を大幅に超えて伸び伸びになった。

 危険を先延ばしに出来たのは嬉しいが、その間発見したワームホールでことごとく強行観測船を失っているとなると喜ばしくない。


 初のワームホール往復が成功したワームホールは消滅までじっくりと観測を続け、その後すぐに次のワームホールを探した。

 幸い1ヶ月もかからず次のワームホールを発見し、ワームホール強行観測船でこちら側からの調査を始めた。


 予想外だったのは、ワームホール強行観測船による調査では向こう側の危険性が通過即死みたいな物騒なものだったこと。

 失敗時のデータも取っておこうということで10日に1回の頻度で強行観測船を通過させ続け、結局ワームホール消滅までに一隻も帰ってこなかった。


 その後も発見するワームホールは全て通過即死みたいな調査結果ばかり。

 今までは指示がないままご都合主義的お膳立てが完璧だったんだけど、今回に関してはギフターの誘導に従っているのに捗々しくないのは初めてなのでみんなで困惑した。

 無機質美人のホログラムは最初の一件以来特に指示を受けていないそうなので、予定が変わったか気が変わったか。愉快犯でも気まぐれって印象ではなかっただけに不思議だ。


 結局、ワームホールの調査を開始して1年が経った頃に漸く通過可能なワームホールを無人の恒星系で発見。

 今回も安全確認の為に無人無機械的知性船での往復をくりかえすが、3回目の通過可能ワームホールを見つけるのがいつになるのかちょっと不安だ。

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