01B-04(01-10~01-11)
01-10
久しぶりに顔を見せた青年が今回は私だけでなく警護チームの同胞達にもと宇宙怪獣のお肉をお土産にくれた。
よしよし。みんな喜ぶぞ。成功経験を活かせる良い子はハグしてあげようか?
まあ一利用者のはずの青年とそこまで親しくしてるような素振りを職場で見られるのもまずい。
下手に距離を詰めようとして青年に避けられるようになっても困るし。それはもう困る。
いや、マジで余計なことしないんで今のままで居させてください。
そんな関係を続けていると、またギフテッド対策室の女共や脂ハゲが何か画策し始めた。
何度も叩き潰してるのに懲りないなコイツ等。ハビタットに侵入した一部の虫並にしぶとい。
しかし、再び、青年が、スパっと解決してくれた。
深宇宙の探索? 勿論お供しますとも。
今すぐ一緒に――くうっ……同胞達を捨て置くなど私にはできない……っ。
3日。3日下さい。
青年が誘いを撤回しようとしたところに畳みかけたのでちょっと罪悪感。
でも君の船に乗せてくれたらあらゆる手段をもって埋め合わせはするから許してね。はぁと。
『遠征に行くからお前俺の船乗れよ』って少なからずそういう意味合いが込められてるよね?
ボケてないでさっさと同胞への伝達と休職や長期家を留守にする手続き進めよう。
青年に対する恋愛感情的なアレはまだないものの、性格や外見に嫌いな要素は1つもないので好きになるつもりならたぶんあっという間のチョロインだからね。私も同胞達も。
私の場合は、自分の種族や体質や体型に不満なんてないけれど、色々な意味で趣味に合わないアンド興味を持てる可能性のない男に言い寄られてばかりで一度恋愛関係全般が面倒くさくなってしまって、でも今、青年なら前向きになってみようかなって思えているくらいには乗り気だ。
過去にあった私の趣味に合わない相手の例を挙げれば、胴体から触手が数十本伸びていて単眼がチャーミングなシャーグアン。
シャーグアンという種族に差別意識はないし、なんならシャーグアンと結婚した以前の職場の同僚に聞かされた惚気は羨ましくなることもあったし、あの体型ゆえの素晴らしいプレイはある種の文化であるとも思っている。私に好意を寄せてきた個人も悪いヒトではなかった。
でも私の恋愛的・性的指向に合致していない点は変えようがない。
私の趣味としてはピーマンの何もカスタムしていない素体っぽさに惹かれる。これからどんな改造を施していこうみたいな。改造なんてしないけど、改造の種類によってはアリ。
そう、青年はピーマンで、私が知る限りなんの改造も施していない。どう染めてくれようか。私が改造を薦めるつもりはないけどね。
なにより多少の趣味嗜好を無視させるギフト。それも飛びぬけて強力かつ生存能力の高い、稼ぐにも困らないトゥルーギフト持ちなんて、価値を理解する人間がいくらでも言い寄ってくるし、種族性別関係なくいくらでも選び放題好き放題できるレベルの優良物件。
正直今までろくな男が言い寄ってこなかったせいで青年程の超好条件ならあっしらころっといきやすぜ旦那。
01-11
いやー……油断してた。あのギフトの船で深宇宙へ乗り出すんじゃなかったんだねぇ。
巡洋艦だし私含めて11人は大丈夫とか思って押しかけたけど……。
≪金剛城≫だっけあの大きいアレ。1万倍の人数でも大丈夫そうだね?
巡洋艦の広さでどうやって年頃の青年の好きそうなハプニングを演出するかで盛り上がってたのに、あの広さはちょっとそんなの無理じゃない?
青年のモデリングセンスには触れない。
それにしてもさぁ……それぞれ専属の侍女アンドロイドとか……明らかに女性向け施設の各種とか……マジでこれで下心なさそうなのが心配になる。
私達の知ってる限り、青年のメディカルデータは健康そのものだったはずなんだけどなぁ……。
これ見てこの胸。結構自信あるのよ? どうよ? せめてこっち見なさい。
紳士的と言えば紳士的なのかなぁ……。
青年の下半身事情はさておき。
宇宙怪獣のお肉が特別美味しいってわけじゃなく、生育食材の料理ってこんなに美味しいんだね。いや宇宙怪獣のお肉はやっぱり特別美味しいかも。
生育食材の素晴らしさを知り、何人かの同胞と共に料理という沼にハマってしまった。
最初の内は切って焼くだけ。宇宙怪獣のお肉のポテンシャルに依存したものしか作れなかったが、≪金剛城≫のライブラリを漁って資料を手に入れ数日も練習を続けると料理と呼んでも差し支えないものが作れるようになった。
フフフ……待っていなさい青年……。料理を学ぶための資料を集めている最中に『男は胃袋を掴め』との格言を得た我等の策謀に飲まれるがいい……。
料理の件を別にしても≪金剛城≫は素晴らしい。この世の楽園とはここのことかもしれない。
御貴族様のお嬢さん方がエステに通うのも納得できる。あれはとても良いものだ。
衣服から小物から手持ちの物にちょっとした不満があれば≪金剛城≫の設備を使えばすぐに改善される。
痒い所に手が届くオーダーメイドがこれほど日々のストレスを低減すると知っていれば、もっと前からこうしておけば良かったと思ってしまう。
ギフテッド対策室の予備役としてそれなりの収入はあったものの、金銭感覚は一般庶民である以上どうしても市販品で済ませてしまっていたのが勿体ない。
なにより、私も同胞達も普段の職場からもギフテッド対策室からも解放されたのだ。
ついつい上がり切ったテンションで情報端末を≪金剛城≫製のインプラントデバイスに乗り換えたりもしてしまったが些末事だ。マジで何事もなくて良かった。
とはいえ、堕落した日々も良いけど、まあやっぱり日課のトレーニングをしないままだと体に良くないし、散々迷惑かけてきやがったギフテッド対策室の奴らに報復する仕込みはしていかないとね。
さ、やるぞー。
日常のタスクを再開しつつ、≪金剛城≫の表層のモデリングをしてみたり、しっかりとした料理を青年に振舞ってみたり。
あーもー≪金剛城≫降りたくないなぁ。