01B-03(01-06~01-09)
01-06
運送業を再開したはずの青年が宙賊を生け捕りにしてその船ごと持ち帰るようになると、『手続きやらを任せてお仕事増やしてしまっているから……』と青年があれこれ差し入れしてくれるようになった。
青年のくれる差し入れは自分で買うのは躊躇うお値段設定のちょっとした食べ物ばかりで嬉しい。
その差し入れを職場の同僚に配ることで新しい職場での円滑な人間関係を構築できるようになったのでとても嬉しい。
嬉しいだけでいられたら良かった。
確かに私は種族特長的に無駄な肉が付きにくいし、この件においては取り込む栄養素が高質なので運動負荷を増やさずとも上質な筋肉に化けてくれる。
でも多い。私の体質が許容できる摂取カロリーにも限度がある。
それより大きいのがお礼の頻度が増えすぎたことを気にしたのか1回当たりの差し入れのランクが上がって同僚の視線が痛くなってきていること。
『あの人ちょっと貢がせすぎじゃないの?』って視線が痛い。
青年とはしっかり話し合い、結果として私が趣味でちまちま集めていた植物の長期保存パッケージを合法的かつ職場の同僚には分からないルートで私の家へ送ってもらうことで話が付いた。
今度は家がちょっとした植物園みたいになりつつあるのは些細な問題でしかないのだ。
その程度、クレジットで謝礼を支払われる恐ろしさなどとはくらべものにならない。さすがにクレジットでとなるとギフテッド対策室を頼っても法的手続きを熟すのが難しい。監察局のお世話にはなりたくない。
青年との話し合いが済み、もう問題はないと思っていたのに……っ。
近場の大したものは得られないアステロイドベルトへ採掘しに行ったお土産が、一市民が所有していると御貴族様のお嬢さん方に知られれば数時間後には行方不明になりそうなとっても綺麗で希少なお石様なのはなんで?
そんなものあそこで採掘できないよね?
更に言えばなんで原石とかじゃなくてカット済みなの?
原石は採掘できたとしてもカット済みのお石様が採掘できるって何?
ギフトの船は存在しないものを生み出すことすら可能なの?
また眼鏡の上司に小言言われるうううううう……。
01-07
青年が深宇宙の探索を視野に入れ、その予行練習をするため不可触領域の探索をしたいと言うので資格の取得をサポートした。
深宇宙かー。ロマンだよね。なんたって深宇宙での拾得物を最初に売買する時には税金がかからない。無税ですよ無税。
帝国から直接行けるところはないけど、帝国は銀河の外縁部に近いから国をいくつか超えればすぐだしね。
移住可能惑星なんて発見した日には惑星一つ丸ごと私有地だよ。普通は国に売っぱらって既存の有人惑星に土地買ってそっちに住むとはいえ、惑星一つ私有地って字面がヤバイ。
深宇宙はさて置きその前に不可触領域。そうそう。そういうことをやってもらえるとギフトが有効活用されている感じがしてサポートする側としてはやりがいがあるのよ。
あと不可触領域の探索なら1回あたりに必要な時間が大きいので私の心に平穏な時期が訪れる。戻ってきた時の1発は重いかもしれないけどそんなもん知らん。
だから本気で言いますが、お土産は気を遣わないでください。
青年が不可触領域の探索に出かけて以後、ギフテッド対策室へ無意味に呼び出されることが増えた。
原因は明らかだ。彼が暫く帝国を離れることになったため一部関連部署で行われた人事異動がマズイ。
青年と帝国の友好関係を築いた眼鏡の上司が栄転し、青年の担当というか正確には青年が一応の本拠地としているハビタット周辺の担当に配属された油蛙由来人種の脂ハゲ野郎がもうどうしようもない。
私と同じような予備役のうち彼の担当に選ばれなかった女どもに転がされた脂ハゲは本当に無意味な呼び出ししかせず、そういう女達の憂さ晴らしのために部署内における交流とか言う名目で部屋に閉じ込められる。
挙句に担当を代われだの、贈収賄でブチこむだの、青年のくれた物を換金してこっちに流せだの……。
レーザーをてめぇらにブチ込むぞ。
脂ハゲは脂ハゲで下手なことはするなだの、何をしてでも他所へ行かせるなだのと気持ち悪い視線を向けてくる。
下手なことってなんだよ余計なことは何一つしてないっつーの、何をしてでもってハニトラの基礎も知らない出来るはずもないテメーに言われたくないっつーの。
流石にギフテッド対策室のセキュリティは固くて脂ハゲとその後ろにいる女共を一掃する証拠になるデータを抜けないがどうしたものか。
外から内部ネットワークにもぐりこめれば確実に消してやるのに。
私の方は精神的なハラスメントばかりだが、なにやら警護チームを編成していた同胞も同じような、というか物理的な危険という意味では私よりもキツイ目に遭っているようだった。
同じように嫉妬なのか欲に目がくらんだのかわからない集団に、実戦訓練を名目としてもっと直接的に罵倒されたり殴り倒されたりしてると愚痴をこぼされた。
何か手を打たないとちょっとマズイかなぁ……。
01-08
ドゥッドゥウェーブ・ボレルド!
種族に伝わる魂の喜びを示す言葉が私の口から飛び出す日が来るとは。
青年が持ち帰った不可触領域の数か月に亘る観測データを脂ハゲの頭越しに上へ送ったらほとんど解決したぜひゃっほう。
あのデータは帝国のどっかのお偉いさんにとって良いお土産になったようで、上機嫌なお偉いさんを言いくるめてギフテッド対策室から私と同胞たちのセクションを切り離してやったぜ。
受け取ったときには仕事がズドンと増えてちょっと良くない顔しちゃったのは今度埋め合わせしないとなぁ。青年には悪いことしちゃった。
しかしそれにしてもこの宇宙怪獣の肉がおいしいしお酒に合う。
御裾分けがてらの祝勝会に参加した同胞達が職場での集団ハラスメントから解放されたのと合わせてはしゃいでいるのも仕方ない。
宇宙怪獣の肉なんて高級品を食べるために必要な道具を調べたり揃えるのに結構出費したりしたのも全部許せる。
01-09
不可触領域の探索が楽しいのか青年の顔を見る頻度がくっと減ってるなー。
むちっとしたお姉さんのこともうちょっと思い出したりしても罰は当たらないと思いますよー?