01B-01(00-00~01-02)
00-00
隣接する複数の有人恒星系における宙賊一斉撃滅作戦は、一部を除いた関係者が当初予想していた通り6割強のクズ共を取り逃がすという費用対効果は考えたくもない結果に終わった。より正確には終わったことになった。
そりゃあ確かに宇宙の藻屑に変えられたクズ共の絶対数で言えば、子供でもできる思い付きを立案して有能な部下に主導させたボンクラも胸を張って良いとは思う。
その結果のために消費された時間と労力と金銭と物資に目を瞑るならば。
そもそもそのクズ共を非合法な目的のために便利使いしてる奴らがどこの誰なのかを考えれば政府主導による大規模な宙賊撃滅作戦なんて誰もしない。
人種が人種である限り本質が変わらないなんて、それぞれの種族が発祥惑星内でくらいあっていた頃から皆知っている。
それこそトンデモ論者達が楽しそうに語らう『今我等が存在する下位次元から抜け出し一つ高みへ進んだ敬愛すべき先達』とかいう架空の人種くらい進化しなければ集団を構成した際の腐敗はどうにもならないと、個人的には思う。
職場での思想調査等は公人として臨むので、私人としてどんな主義主張を抱いていようと何も問題はない。
01-01
宙賊一斉撃滅作戦の終息が宣言されたのにもかかわらずなぜか一向に減らない関連タスクを処理する日々を送っていると、控えめに表現して人生で二度と顔を見る機会は無い方が嬉しい緊急時における直属の上司に呼び出された。
「さて用件は分かっていますね」
すでに目元がどす黒くなって髪の毛にも肌にも健康的な艶が無く、更に服装にも内面の疲労が滲みだしているかのように煤けて見える上司が思いの外回りくどく話を切り出した。
相も変わらずこの時代にわざわざ眼鏡型デバイスを使用しているのは意識誘導かなにかなのだろうか。
眼鏡上司の見た目はもう限界はすぐそこみたいな印象を受ける。
しかし、見た目ほど切羽詰まってなかったりするのかもしれない。
そう。人員の選定における1次面談を受けている可能性はまだ存在する。
「分からないと言ったら私に対する用はなくなりますか?」
「勿論です。今まで受け取っていた特別手当を返上し、研修の過程で知りえた知識の消去処分を受けるだけで何の問題もありません」
満面の笑みで退路はないと念を押された。
毎月支払われるギフテッド対策室予備役としての、控えめに言って本来公務員としての私が受け取る給料の数倍にあたる特別手当の、それも受け取り始めてから数年が経っている全てを丸ごと残しているわけがない。
なにより記憶消去措置なんて完全な安全性が確立されておらず、施術対象は確率的に社会復帰できない方が多い。
そりゃあね、このハビタットに設置されたギフテッド対策室の室長に呼び出された時点で理解していましたよ。
でももうちょっとウィットに富んだやりとりがあっても良いんじゃないかなって思うわけですよ。
「今までの手当分は仕事をして下さいね」
私が対策室に予備役所属するのは百年間の基本契約。
その期間中に、帝国中を対象としても何人いるかどうかかって頻度で現れるギフテッドの首輪とリード役を務めるだけ。
他は精々研修程度で通常時のお仕事がほぼ増えない。
そんなローリスクハイリターンな副業は大変すばらしいものでした。
私が今回ハズレを引くことにならなければ。
世の中オイシイ話ってないものですね。
細かいことは全てこれに、と渡された指先程の超小型メモリーキューブを支給されている専用端末にセットしてその場で検める。
どこにでもいる一市民って感じの青年が、有人惑星の衛星圏内という人口密集宙域でこんな危険なブツを拾ってしまうなんて……。
あらー……なんというか……運が良いのか悪いのか……。
01-02
翌日、私と同じようにギフテッド対策室に予備役として所属していた人員で構成された警護チームと合流。
警護チームの全員が私と同じ何とも言えない表情だったことになんとなく癒され、ついでに打ち合わせを済ませた。
いざ件のギフテッドと対面。
今回目出度くギフテッドとなった青年はなんというかもう……感謝したいほど何の問題もない人物だった。
こちらの立てた予定に疑問があれば尋ねるだけで、感情だけの反発や自身の特異性を鼻にかけたハラスメントなど1つもない。
そうハラスメントがない。
ギフテッド対策室予備役というのは端的に言ってハニートラップ対策を兼ねたハニートラップだ。致死性がない生け捕り系な感じの罠。
つまり、予備役として登録というかこういう副業あるけどどう? って話を持ち掛けられる以上は何らかの形で外見的な魅力がある。
警護チームの人達なんて背丈やら体のパーツやら、大きいのから小さいのまで揃ってより取り見取り。
私だって種族的に体質というか体型が一部の人達に大変魅力的なのは自覚している。
なのにハラスメントっていうかそれ以前に性的な視線が向いてこない。
なんでよ。
いや、紳士的だよ? 紳士的だけど、そういう視線を向けるくらいはあっておかしくないんじゃない?
視線くらい仕方ないと思うよ? 私だって警護チームの人達だって視線くらい仕方ないって思ってる。
当人には言えないけど端末の中のあっはんなコンテンツは把握したうえで私達が選抜されたんですからね?
私達は全員がその辺を仕事の一環として受け入れているわけですし。
私達だってこんなあからさまな色仕掛けはしたくないんだよ。こっちから下手に仕掛けると安売りすることになるもん。
したくないんだけど、だって他にきっかけがない以上どうしようもなくないこれ?
だからそのちょっと同情的な視線はやめてください。寧ろ傷つく。
『分かってる分かってる。仕事なんでしょ? 大丈夫』って顔をやめろ下さい。
青年が規則正しく毎日ほぼ同じ時間に就寝後、不満なのかそうでもないのか分からないモヤモヤした気持ちを警護チームの休憩してる人と分かち合い、着実に絆を深めていった。