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01-26

 人型ロボットで組体操ができるように各部の強度や設計をいじったり、誰かがいつの間にか敷き詰めていた超高反発マットを使い人型ロボットで床体操をしてみたり、体操繋がりで人型ロボットで器械体操をしたりしていたら先行調査高速艇バージョン2からワームホールが消滅した所に遭遇し何らかの人工物が残っているとの報告を受けた。


 3回目ともなるともう偶然じゃないのは確実って言える気がする。

 明らかに作為だ。


 仕方ないのでギフトと思われる人工物を拾った。

 結果は分かり切っていたものの機械的知性を含めてクルーの全員に拾得して見ないか聞いたら案の定俺が回収することになった。


 というか実質最初に接触したのも実働して拾ってきたのも機械的知性の操縦する作業艇で拾ったなら機械的知性が一個の自我としてみなされる文化圏においては機械的知性に所有権が付与されるべきではないだろうか。


 当人に尋ねたら彼女達は特定の個人または集団に従属する事を存在意義としているので≪金剛城(こんごうじょう)≫のクルーとなった機械的知性の拾得物は俺に帰属するのが当然だそうだ。

 そうか。当然なのか。


 ギフトらしき人工物を回収して一応無機質美人のホログラムに解析してもらったら中身入り脱出用ポッドの類とのこと。

 ボーイミーツガールが始まりそうなギフトだ。


 開けて確かめてみるまではギフトらしき人工物で仮置きすべきか悩んでいたら無機質美人のホログラムがギフトだと断定したのでギフトということになった。

 でも中身の入った脱出用ポッドがギフトなら所有権は中身の方にあるんじゃ……あ、嫌な事に気づいてしまった。


「久しぶり……なんだけど、そっちにとっても久しぶりなのか? その前に俺のこと覚えてる?」

「久しぶり。覚えてるに決まってるじゃん。覚えてるか疑問に思うのも分かるけどね。見た目は同じでも見えないところはめっちゃ変わってるみたいだし……お互いに」


 ワームホールから出てきたギフトの脱出用ポッドを開けたらスクール時代の親友が入っていた。

 しかも見た目はそのままでも現行技術では模倣すら難しい隔絶した技術による身体で。

 別室で待機している無機質美人のホログラムによると他に同様のギフトが確認されていないのでトゥルーギフトだった。


 親友がトゥルーギフトになってた。


 わけがわからないよ。


 どうしようもないことはとりあえず棚上げが身に着いたと思ってたのに思考が空転してどうしたらいいのか分からない。


「体、動かせるか?」

「あー……うん。自分の体みたいに動かせるよ」

「じゃあ、一旦起きてくれ。色々説明しよう……お互いに」

「そうだね。お互いにね」


 皆に言われて複製身体でギフトの脱出用ポッドを開けたので、本体やクルーの皆が一緒にいる部屋へ向かいトゥルーギフトになった親友を連れて歩き出す。


 移動中に何を話せばいいのか頭が回らないので本体の方で無機質美人のホログラムに頼んで親友が故郷のハビタットを旅立って以後の足跡を追いかけてもらったところ、彼女が引っ越し先である程度の期間を過ごした後に半年ほど前に別の恒星系へ旅立ちその途中で宇宙船が突如発生したワームホールへ突入したことで実質沈没扱いの行方不明として扱われていると分かった。


 現在宙域の遥か遠くでワームホールの向こう側へ行った人物が半年後にトゥルーギフトの身体になって親友のそばに発生したワームホールの向こうから現れた。

 ギフト配ってる存在の作為が明らかだな。


 親友は母親の再婚で交易に来ていた男性のホームへと引っ越していった。

 母親の再婚相手と折り合いが悪く……というか母親のいないところで襲われ撃退し母親に訴えたが再婚相手の肩を持ったので慰謝料に金目の物を徴収して家を出た。

 住み心地が良かったし他に当てもないので出身地のハビタットに戻る途中ワームホールに呑まれた。

 ワームホールの向こうに関しては一切を喋れないように身体の機能にロックが掛かっているので何も説明できない。

 一番大事なのが――


「私の身体がトゥルーギフトでその所有権が君になってるんだけどナニコレ」

「嫌な予感が当たっちゃったなー……」


 中身の入った脱出用ポッドがギフトでその所有権が俺にある。

 つまり中身の方はギフトの所有権を持たない。

 もし中身もギフトだったらその所有権は、と連想してしまったのはついさっきだ。


「私の所有権を持ってるのが嫌なんだ?」


 さも心外だと言わんばかりの表情を作る親友殿。


「お前の所有権じゃなくて、さっきの言い方からするにお前の身体の所有権が俺にあるのが正しい表現だろ」

「同じような物でしょう? 別に身体があって乗り換えられるわけでもないんだし」

「別の身体か」


 複製身体は一つの自我というか魂で複数の身体を扱うための技術を使っていたはずだ。

 もしこのトゥルーギフトになった親友の魂を身体から取り出せるなら何の問題もなくなるのでは?

 ムチムチ美人さんやレディアマゾネス元SPさん達に駐在エルフさんと無機質美人のホログラムを交えて俺の閃きを検討してもらうと、多大な賛成を得られた。

 今日の俺は冴えてるらしい。


「それは無理みたいだわ。魂がこの身体にロックされていて移植が出来ない……らしい。ん……どこかのネットに接続された…? 船名が≪金剛城(こんごうじょう)≫? 今いるここって船だったんだ。それで……なるほど。この船の設備より私の身体の技術レベルの方が上だからロックを外せないんだ。そういうことみたいね」

「俺の冴えわたる頭脳が弾き出したイカしたアイデアは技術的な問題で廃案だな。となると俺に所有権のあるトゥルーギフトの身体を使ってもらうしかないわけだ。お前を監禁してるみたいでやっぱり気分は良くないなぁ」

「ワームホール事故に遭遇して生きてるだけ上々でしょ」


 肩を竦めてさっぱりと諦観なのか達観なのか分からないことを言うトゥルーギフトになった親友。


「でも正直なところ、私達と大差はありませんよね。私達は肉体はありますけど≪金剛城(こんごうじょう)≫という箱の中で場所を借りて生活していて、貴方の所有する器の中で生きているという表現なら彼女と私達に違いはありませんよ」


 控えめな雰囲気でやりとりを眺めていたムチムチ美人さんが私達のところでレディアマゾネス元SPさん達や駐在エルフさんを示し、貴方のところで俺を示してなんとなく納得できるようなことを言った。

 そう言われればそんな感じか。


 機械的知性も今や≪金剛城(こんごうじょう)≫産の機体で統一されているのもトゥルーギフトになった親友や他のクルーと同じ立場と言えるかもしれない。


 ふと気づくと結構な時間を物思いに耽っていたのかトゥルーギフトになった親友がクルーに囲まれて楽しそうにしている。

 彼女も辛い思いをしたようなので≪金剛城(こんごうじょう)≫のクルーと上手くやれそうなのは安心材料だ。


 当人の意思は別に考えるとしてもワームホール事故に遭遇した人物がトゥルーギフトになって帰ってきましたってのは控えめに表現してトラブルの火薬庫みたいな。

 俺もクルーの皆も当分帝国へ行く気は無いものの、先々の事を考えると親友殿を穏便に連れて行く方法も検討しておくべきか。


 とりあえず今は、楽しそうな会話に俺も混ぜてもらおう。

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