01-21
もうそろそろとなりの銀河につくとあってなんとなく女性陣がそわそわし始めたころ≪海老緒≫が完成し、皆で軽く見て回っていると付近の惑星から発せられる微弱な救難信号を受信したと無機質美人のホログラムがより通達された。
艦船が救難信号を発するならともかく惑星が発信源というのは状態がちょっと想像できない。
あとなんとなく無機質美人のホログラムというか真球っぽい何かを拾った際のワームホールと同じように作為を感じる。
ギフトくれた人が何かしてるのかもしれないが、それが理由で俺に害のあるような事態には今のところ陥っていないので悪いことにはならないかもしれない。
コイントスで表が出続けているだけという理屈もあるので裏が出た時には取り返しがつかないとも言える。
皆で話し合い、救難信号を出すくらいの事態が生じている以上人道的に見過ごせないというもっともな意見は全員に共通するものだったので発信源へ針路をとった。
泥沼に足が入ってるような落ち着かない気分はいかんともしがたい。
救難信号に導かれてというべきか、無機質美人のホログラムに導かれてというべきか、ギフトをくれる顔の分からない誰かに導かれてというべきか……道先案内人が誰なのかはさておき、宇宙から俯瞰して惑星を眺めるとこれもう生物は住めないんじゃないのってほど歪な形の惑星に≪金剛城≫は到着した。
信号を発信する装置が稼働してるだけで救助すべき対象は残ってないとかだったら救われないななんて不安は杞憂で済み、受信した信号に合わせて救助に来た旨を惑星へ送ってみると簡潔かつ分かり易く事情と要望をまとめたデータが送られてきた。
曰く、惑星がアステロイドと区別がつかないような有様になっているのは回遊性宇宙怪獣の襲撃によるものである。
曰く、生命的及び物的損害は甚大であり惑星の生存環境もほぼ壊滅した。
曰く、母星に見切りをつけ、なけなしの資源をかき集めて恒星系間移民船団を構築し送り出した。
曰く、現在惑星に残っているのは数百年を生き、数の限られた新天地への椅子を後進に譲った数万の古木である。
曰く、救難信号を発していたのは旅立っていった船団との約束故であり、ある程度のところで解除する予定だった。
曰く、恒星系間移民船団の成功は信じているが、もしもに備えてできれば数人ほどをこの惑星が存在した証としてそちらの船でどこかの人類圏へと送ってほしい。
曰く、願いを聞き入れられるならば、ほとんど何も残っていないが惑星に存在するものは全て進呈する。
途中の古木ってなんなのか疑問に思ったが、どうやら今惑星に残っているのはほとんどが植物由来の人種らしい。
外見的特徴と一部の生態から俗な言い方をするとエルフだった。
帝国のある銀河じゃ植物由来人種は見つかってないのであっちに連れて行くと控えめに言って面倒なことになるので移住先はじっくりと協議しよう。
何よりもまずはいつ崩壊するかわからない惑星上の居住地から数万の人種とそのほかもろもろを≪金剛城≫へ運んでしまおう。
となると、完成した後はドックにしまわれているだけの予定だった≪海老緒≫が活躍できる。無駄じゃなかった。
巡洋戦艦の≪海老蔵≫と戦艦の≪海老宗≫が何かの役に立つかは棚上げしたままにしておこう。少なくとも今回は使わないし。
≪海老緒≫にありったけのコンテナと作業用ロボット詰め込んで惑星に降下させたところ、1ヶ月ほどエルフさん達の要望を聞きつつ≪金剛城≫に2基ある特型艦船用ドックの片方を仮設居住区に改装したり、≪海老緒≫に乗り込んだ順に検疫をしていたら≪海老緒≫の収納空間の半分も使わず救助作業を終えた。
5万人ほどのエルフさん達自身は別として、回収してほしいと頼まれた物品なんて文化や文明データのバックアップや動植物のサンプルに日々の生活に必要な品々を作る小規模プラントくらいしかなかった。
それだけ宇宙怪獣の襲撃が凄まじかったのと、恒星系間移民船団に出来る限りをつぎ込んだということだろう。
俺のやる気とエルフさん達用に割り当てた空間が余り気味だったのでふと目に着いた歴史のありそうな建造物なんかも回収しようか聞いたら辞退されてしまった。