01-20
深宇宙に繰り出して2年目を折り返そうかというある日、俺はとうとう見つけてしまった。
≪海老介≫と名付けた【自律汎用巡洋艦プラウン】の同系統艦の設計図を見つけてしまった。
大型化して小さめの鋏を得た【自律汎用巡洋戦艦クレイフィッシュ】。
更に大型化して大きい鋏を手に入れた【自律汎用戦艦ロブスター】。
どちらの設計図も無機質美人のホログラムというか真球っぽい何かがそのデータを持ってきたらしい。
最初に手に入れた巡洋艦の≪海老介≫すらほとんど使ってないのにさらに大型で同系統の船なんて作っても使う機会はほぼない。
使う機会はないけど、3隻を並べたりしてみたい。
使うことが無いと分かり切っている物を作ってしまうか否か。
とても悩む。
使わないといえば≪金剛城≫を作る時に作った採集船とか輸送艦もドックに入れてもう2年以上放置してるのか。あれもどうしよう。
誰にも見つからない様にこそこそと作り続けること3ヶ月。
実のところ女性陣には明らかに何かあると気付かれているし俺も誤魔化せる気がしないので秘密の一言で力押しを通した日々だった。
完成しちゃったし見せないとだめだよな。
「【自律汎用巡洋艦プラウン】の≪海老介≫はハビタットから≪金剛城≫の移動で乗ったから皆知ってるよね。その隣が同じコンセプトで火力も求めた【自律汎用巡洋戦艦クレイフィッシュ】の≪海老蔵≫。最後にそのまま発展させてより強くより大きくした【自律汎用戦艦ロブスター】の≪海老宗≫。こうやって並べてみると≪海老介≫は巡洋艦だけあって小さく見えるね」
出来る限り朗らかに言ってみた。
「巡洋戦艦と戦艦を作れるんですか……いえ、作ったんですね。既に目の前にあります」
ムチムチ美人さんがおでこに右手を当てて目をつむった。
さりげなくさっきこのドックへ入るために使った通路の方を確認するとレディアマゾネスSPさん達の内2人が腰の後ろで手を組んで俺と通路の間を塞ぐように立っていた。
他のレディアマゾネスSPさん達は静かに俺の周りを囲むように移動している。
「この際です。なあなあにしていましたが、この≪金剛城≫はどんな分類の船だったか覚えていますか?」
レディアマゾネスSPさん達の誰かを買収してトイレとかテキトーな理由でドックの外へ連れて行ってもらえないかなと考えていたらムチムチ美人さんがこの場に関係ないことを聞いてきた。
もしやムチムチ美人さんは俺の味方だったのか。
「船なのかな? 拠点がどうとかって名前だったはず」
「拠点……」
貧血かな。ムチムチ美人さんがふらっとした。
「生産……防衛……? ああ、【生産研究型防衛拠点テストゥーディニダエ】だ」
「ぼうえいきょてん」
ムチムチ美人さんが崩れ落ちた。
おっと具合が悪そうだ。医務室に連れて行かないと。
「帝国においてはっ」
立ち上がるのに手を貸してあわよくばそのままこの場をあいまいに流してしまおうとしたら骨が軋むくらい力強く手を握られてしまった。
ムチムチ美人さんてば情熱的……。
「今も私たちが一応所属している帝国はですね、民間人の所有が認められている宇宙船は小型船のみです。知っていますよね?」
手の骨が軋むっていうか手の肉がぎちぎちいってる。
「はい。中型船は法人かつ有資格者の管理の下で運用が認められています」
「所有に関して抜けていますが今は良いでしょう。では大型船に関しては?」
あ、手が。手が。
「えー……厳しい審査がさらに必要でしたっけ?」
「まるで足りていませんが間違ってはいません。そのうえで言います。戦艦は、大型船です」
ちぎれる。ちぎれる。
「大きいですもんね」
「戦艦の方はもうこの際何も言いません。私の職責の範囲内で便宜を利かせることができます」
「結構偉かったんですね」
「しかしっ」
話を逸らせな痛い。ムチムチ美人さんが一層手に力を込めながら息を吸う。
逃げるのはそろそろ諦めよう。
「防衛拠点は建造物に分類され、建造物は行政となんらかの形で提携した業務に必要な物のみ所有が認められます」
「いや、でもここ帝国じゃないし帝国に持ち込むつもりないし」
「なによりもっ」
「はい」
「≪海老介≫と同系統でさっきの言い方からするに後の世代ですよねこの2隻。つまり、ギフトとして成り立つくらいに現行技術とはかけ離れた技術で作られた巡洋戦艦と戦艦なんです。フリゲート艦1隻で大問題に発展した話を忘れているようなのでその辺りからじっくり説明を始めましょう」
まともに乗るつもりはないと言っても存在していること自体が問題だと正論を返されたのでその後は静かに受講者一人に講師11人の特別講義を受けた。
危機管理について大変ご指導頂いた。
海老3兄弟の一番の特徴がコンテナ式プラント各種を組み替えることによる汎用性にあると言ってもそれぞれのサイズ相応の戦闘力はあるので気軽に乗り回していい物じゃないのは分かるので大人しく話を聞き続けた。
いや、帝国内で乗り回すつもりは最初からありません。
≪海老介≫の兄弟を内緒で増やして叱られて新しく何かを作るのを自主的にひかえる1ヶ月を過ごした。
あの件のすぐ後に戦闘力が有るものを作るのは憚られるのでフィルターをかけて除外する。
【強襲資源採集型無人機ローカスト・プレイグ】ってなんか強そう。
戦闘力はない物の一覧を見ているのになんか強そうってどういうことだろうか。
無機質美人のホログラムに俺でも理解できるよう簡易にまとめた仕様書を出して貰い目を通した。
資源を採集したい場所へコイツを放つと内蔵した小型採集器で資源を集めて自分と同じ子機を製造するらしい。
他の採集ドローンと何が違うんだろうか。
資源をコンテナみたいな容器で回収するか、資源が自分で飛んでくるかの違いだろうか。
戦闘能力はないらしいし作ってみれば分かるかな。
【強襲資源採集型無人機ローカスト・プレイグ】は製造指示を出す前にシミュレーターを思い出して確認したので結局作らずに終わった。
なんて恐ろしい物を設計したのかと驚き元になったという Locust plague(※検索注意)の参考資料として添付されていたホログラム映像を見てしまったため密集恐怖症を発症した。
蝗害の恐怖の一端をホログラム映像で知ってしまい癒しを求めて海老3兄弟の更に上に存在した姉である【自律汎用母艦モンスターロブスター】の設計図を見つけ、船もないのに≪海老緒≫と名付けてしまった。
特型艦だけあって≪金剛城≫をもってしても完成まで6ヶ月を要し、そんな工期とは関係なく建造の指示を出して1時間とかからずムチムチ美人さんやレディアマゾネスSPさん達にバレた。
母艦だし船自体の戦闘能力は高くなかったのでと正当性を訴えたもののムチムチ美人さんやレディアマゾネスSPさん達には当然通じなかった。
全長50キロメートルの巨体で≪海老介≫よりもはるかに強固なシールドを展開できるなら体当たりしてハビタットを吹き飛ばしたりできるもんね。
しかし、蝗害の恐怖を語りその根拠となるホログラム映像を見てもらうことで熱心な指導をどうするかはあいまいなまま話を打ち切れた。
料理を趣味とする人達の内何かに目覚めてしまった一部のメンバーが作った佃煮は見た目はともかく美味しかった。