03-30
なんだかんだも特になく、皇女さん達は≪金剛城≫クルーとなった。
ただ俺だけ気づいていなかったが、保護した皇女さん達は皇女だけでなく皇女さんに保護されていたという帝国出身のギフテッドが1人含まれていた。
その人の持つ電子戦関係のギフトを活用することで、帝国宙軍総旗艦【強襲戦艦オルシャネウス・オルシア】を操作しようとか余計なことはしない方がいい判断したそうだ。あとは俺たちと接触したときに、自分の持っているギフトよりも性能が高いギフトを持っているギフテッドが俺達の側に居るので帝国総旗艦を掌握していない状態では明確な上下関係が存在すると判断するきっかけとなったらしい。
皇女さん達の件はもう完全に終わったのでさておき、食堂でご飯食べてたら無機質美人のホログラムが何やら真剣な表情で対面に座った。いつも俺の斜め後ろとかにそっと立ってるのでかなり珍しい。というか食堂で座ってるのは初めてみた。
「実は私、ただのAIじゃないんです」
「あ、はい」
思いつめたような顔で何かと思ったら凄まじく今更な告白だった。ごまかす気が残っていたのかという方に驚きだ。
他の誰もいないときにそんな俺の手に余る話を振らないでもらいたい。でもこの時間帯の食堂に俺以外の誰も居ないっておかしいから、多分話がついてるんだろうな。
「この身体も、厳密にはホログラムではないんです」
それは聞けてちょっと安心した。
触った感触があるのは俺のインプラントデバイスを介してそういう感覚を作ってるのかなで納得できるが、飲み食いできてるのは明らかにホログラムじゃないし、ふとした拍子に難度も気になってたことだ。
「大したことではないので先に身体の方の説明をしてしまいますが、端的に言うとナノマシンの集合体です。各部屋に専用のナノマシンを収めたタンクがありまして、移動先で身体を構成することで移動時間を省いたりしています。飲食した物はナノマシンに搭載した極小採集器で分解し体液に作り変えていますが、余った分は身体を分解した際に回収し成分ごとに再利用しています」
大したことないって言ったのに思いの外長かった。口頭の説明だけでなくホロウィンドウで文章化してくれなかったらたぶんもう一回聞き直していた。
俺的には知りたかったことを教えてもらってすっきりしたが、無機質美人のホログラムとしては本題を切り出す前の前準備が終わっただけと思われる。そんなに言い難いことは聞く方も覚悟が必要そうだ。
「次に……本題と言いましょうか、私がAIではないならばどういった存在なのかについてですが」
ヨシ来い。
俺が聞くつもりになったのを見て取って、無機質美人のホログラムが頷く。……ホログラムじゃないらしいけど、今更だし脳内呼称はこのままでいいよね。
「正確とは言い難い表現になりますが、言うなれば、私はこの今いる次元よりも高次の次元の住人です。信じられないでしょうけれど、この宇宙に生きる人種がギフターと呼ぶ存在の1つでもあります」
信じられないかもしれない、と気にしてるのがどの辺りなのかが分からない。
日々一緒に生活していて、多分そうなんだろうなーと思っていた通りの自己紹介をされても新鮮味に欠けるなって……。
「いや、皆気づいてましたよ」
俺がぱっと思い出せる根拠は2つ。
まず紫色の水晶みたいな梱包材の時。別系統のギフトに連なる技術とか、少なくとも帝国周辺国家では用いることのない言い回しをしていた。
しかも、≪金剛城≫のデータベースで調べてもわからないものなのに、直接触っても害は無いみたいな感じでヒントはくれたし。
「ええ、はい……。裏で管理用の権限を使って引っこ抜いたデータに基づく助言をついぽろっと……」
まあ、紫色の水晶みたいな梱包材の件だけでは根拠として弱い。≪金剛城≫クルーには触れられない記憶領域があるとか言われたら納得できる程度だ。
もっとあからさまだったのが、先日の帝国宙軍総旗艦【強襲戦艦オルシャネウス・オルシア】の時。
あの船から渡されたデータを見て、お姉ちゃんのIDって思いっきり言ってた。話の流れ的にそのIDって元の船の所有者を示すものだろうし、元の船の持ち主ってギフターだったらしいので。
「ええ、はい……。お姉ちゃんがこの次元に一時期入り浸ってたのも国を興して満足したのも知ってたんですけど、まさか私に置き土産があるとは知らなかったのでついぽろっと……」
「ちょいちょいポンコツだよね」
あ、言っちゃった。
「自覚はあります。でも、元の意識そのままだと低次元に意識を置いた際に発狂しかねないので適応化処理が施されているんですけど、元の私よりもそういった面が強調されているのは明らかなので私が悪いわけじゃないんです」
いつになく感情が込められた早口なその言い分は、根っからのポンコツを自覚しているとの自白にしか聞こえない。
無機質美人のホログラムの中の人がポンコツだったのは確定として、真剣な顔で何があったのかと思えば、重要は重要でも平穏な毎日に大きな影響のない告白でよかった。人間味? が増したくらいに考えておけばよさそう。
いつぞやの既知外生命体でも侵略してくるんじゃないかとか、ちょっと物騒な想像しちゃったわー。
フリじゃないので絶対に来ないでほしい。
「なんであれ、トラブルとかじゃないなら問題はないよね」
「否定はしません。でも皆さん同じような反応でしたし、もっと他にないんでしょうかね」
コレを伝えるためだけに私がいくつの資格を取得しなければならなかったと思ってるのかとか言われても、そういうの必要なんだね以外にどんな反応をしろと。
今や滅亡寸前らしい帝国でも、帝国所有の未開惑星を調査するには専門の資格を取得しなければならないとか規則があった気がするので、次元に高低の違いがあっても人種は人種なんだろうと感じるのは面白いけども。
「あ、そうだ」
「何かありました?」
説明したがりさんかな? 俺を除いた≪金剛城≫クルーは自分の知識を伝えるのが好きな共通項でもあるのかもしれない。
「そっちからすると、この次元は文字通り低次元なんだよね?」
「語弊のある表現ですが、そうですね」
「なんでこの次元に来たのかなって。何かやりたいことがあるとか?」
「う……」
そんな言い難いことだったのかな。
暫く視線を泳がせていた無機質美人のホログラムだが、溜息を吐くとこっちを向いた。
「……ぶっちゃけ特殊な性的指向でして……この次元で言うところの『2次元にしか恋ができない』みたいな……それで恋人と出会うべくと色々努力した結果ですね……」
あ、あー……実際にディスプレイに飛び込んだ的な……。
「……うん。改めて、これからも末永くよろしくお願いします」
「はい。改めて、よろしくお願いします」
高次元の存在でありながら低次元の存在にしか恋愛ができない無機質美人のホログラムの性的指向も、この次元じゃ特殊でも何でもないので何も問題はなかった。
これからも山無し谷無しの宇宙スローライフをともに行くパートナーということで。宇宙における山や谷は何が当てはまるのか気になったものの、深く考えると無機質美人のホログラムに現地まで誘導されそうなので考えないことにした。
人生平穏無事が一番ということで。
なので今≪金剛城≫内ネットワークで会議し始めた宇宙における山や谷の定義と、それらの存在する宙域へ遠出する計画はちょっと見直しましょう。
――03_Club-CrabClub_完――