第99話「遺跡調査-2」
「ふうむ……やはり珍しい建築様式ですね……」
翌日、俺は他の冒険者数人に連れてきた学者の一人とPTを組んだ状態で件の建物の近くに来ていた。
なお、クレイヴは拠点にて待機しており、アンクスは俺たちとは別のPTを組んで俺たちとは逆回りに建物の外周の調査をしている。
PTを分けている理由としては拠点の防衛役が居ないと森の動物に荒らされるのと、人数と時間の関係上二手に分かれて調査をした方が都合が良かったと言う点からである。
「外見だけで詳しい事は分かるのか?」
「と言うか、木とかすげえな……」
で、現在俺たちの前には所々から木の枝や葉がその姿を覗かせている四角い箱のような建物が存在しており、それを見た学者は云々と唸り、俺以外で初見の冒険者たちは唖然としている。
「詳しくとはいきませんが大体の事は分かりますよ。建物の外観と言うのはその時代ごとの特色が大きく出ますから」
「ふうン」
「なるほどねぇ」
学者の言葉に俺は肯く。
正直、俺にはよく分からない話ではあるが、考えてみれば俺たちだって一人一人種族や装備、能力が違うのだからそれと同じように建物にだって差が有るものなのかもしれない。
「ついでに言えば、こうして建物と一体化するように木が成長しているのなら、木の生長具合からその建物が放棄されてからどれだけの年数が経っているのかを推測することも出来ますよ。尤も今回の場合は周辺の魔力濃度が高すぎて使えませんが」
そこまで言うと学者は昨日建物の近くにまで到達した時に魔力酔いで倒れた事を思い出したのか、微妙にバツが悪そうな顔をする。
「昨日のは気にしなくていイ」
「そう……ですか?私としては冒険者の皆様に多大な迷惑をかけてしまったと思っているのですが……」
「いや、考えようによってはしっかりとした拠点を準備する時間を得られたとも見れるしなぁ」
「だな。拠点班の連中なんて今日以降が楽になったとか言ってたぐらいだしな」
「そうそう。俺たちだってしっかりと移動の疲れを癒せたしな」
「良い絵も描けましたしね」
「ブンブブブー」
「ほれ、ゴーリキィの相棒もそんな感じの事を言ってる」
「だな」
「すみません……いえ、ありがとうございます皆さん。なら私はしっかりと自分の仕事をさせていただきます」
が、そこで俺たちは全員で学者を励ます。
実際、他の冒険者も言っていたようにあそこで学者たちが倒れたこと自体は別にそこまで問題ではない。
重要なのはいかに安全第一で効率よく調査をするかであり、学者たちが魔力濃度に慣れるまでの間に想定よりも良質な拠点を作れたのだから総合的に見ればプラスぐらいだと思う。
と言うか重度の魔力酔いになられると本当に命が危うくなるから俺も含めて体調面については細心の注意を払うべきだと思うし、それを危惧して実際に調査をするPTには必ず一人はスパルプキンを入れて魔力濃度を確認するようにしている。
「そういや学者さんの話で思い出したんだがこの辺りの魔力濃度ってどうなんだ?ヒューマンの俺だと特に何も感じないんだけど、スパルプキンの目には魔力が見えてるんだろ?」
と、ここでPTの一人が俺に声をかけてきて、この辺りの魔力濃度についての質問をしてくる。
「この辺りは拠点と同じくらいの濃度。たダ……」
「ただ?」
「あっちの方は凄く濃イ」
そう言って俺は建物の中心部の方を指差す。
俺が指さした方は今俺たちが居る場所よりも明らかに魔力濃度が濃く、俺たちスパルプキンの様に魔力を視認できる目で見ればまるで陽炎のように魔力が立ち昇り揺らいでいるのが分かるだろう。
と言うかあれだけ濃いならよほど感知能力が低くない限りはスパルプキンでなくても何かあるのは分かると思う。
「あーやっぱりそうなのか。道理で妙な気配がすると思った」
「威圧感と言うか、嫌な感じと言うか、とにかく何か近寄りがたい雰囲気は確かにあるなぁ」
で、やはりと言うべきなのか他のメンバーも魔力を感じていたらしく、口々に何かの気配を感じていたと言う。
「中心部……少し待ってくれ。遠見の魔法を使ってみる」
「あー、アレか。便利な魔法だよな」
と、ここで冒険者の一人が手持ちのポーチの中から小ぶりの杖とレンズのような物を取り出すとブツブツと俺には聞き取れない呪文のような何かを呟く。
「『ロンレンサイト』……あー、駄目だな。大気中の魔力濃度が高すぎるのか何も見えねぇ」
が、結果は芳しくなかったらしく微妙に落ち込んでいる。
「どういう事だ?」
「詳しい理論は省くが、この魔法が想定していた魔力濃度よりも見ようとした場所の魔力濃度が濃すぎて妙な干渉が起きているみたいだな。こりゃあ俺たちでも迂闊に近づいたら魔力酔いを起こすかも」
「うへぇ……なんだよそれ……」
「どんだけだよ……」
遠見の魔法を使った冒険者の言葉に全員がダルそうな顔をする。
まあそうだろうな。俺たち冒険者って言うのは魔力濃度が濃い場所に行ったり、魔力濃度が濃い物を食べたり、修行をしたりで普通の人間よりも体内の魔力量は多いが、その俺たちですら魔力酔いを起こしかねない魔力濃度がある場所と言われたらどれだけの厄介事が潜んでいるか分かったものじゃない。
「と言うか、私みたいな人間が行ったら死にませんか?それ」
「命の保証が出来ないのは確カ」
そして、そんなに魔力濃度が濃い場所に一般人レベルの魔力しか持たない人間を連れて行ったら重度の魔力酔いを起こす可能性は高い。
まあ、いずれにせよそんな危険な場所に学者さんを連れて行くわけにはいかないので今回は調査対象外にするべきだと後で提案しておこう。
その後、数日かけて建物の外周部と外観について調べた俺たちは調査結果にいくらかの素材と共に本格的な冬が始まる前にサンサーラエッグ村へと帰る事になった。
冒険者や魔法使いの間では魔力酔いは割と常識になり始めて来ています。
【オーバーバースト】はあまり知られてませんが