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第94話「輪廻の卵村の日常-2」

「えート、まず普通の農作物に関しては例年通リ。狩りの方は冬が近づいてきたせいでどの動物も積極的に動いているガ、いつも通り安全マージンを多くしてるから問題なシ」

「ふむ。スパルプキン畑は?」

 ゴーリキィの報告を受けて特に問題が無い事を確認した俺は通常の畑とは別に用意されている特別な畑……スパルプキン畑について聞いておく。

 で、スパルプキン畑が何なのかを語る前にスパルプキンの増え方について語っておこう。

 スパルプキンはまず初夏ごろに胸元で黄色い花が咲き、この花を別のスパルプキンの花にくっつけて受粉させると夏の中ごろに種が一つだけ入っている南瓜が出来る。

 そしてこの南瓜を秋と冬の間は暗室で保存して翌年の春になったら他の作物と混ざらないように管理された特別な畑……スパルプキン畑に植えて育てると夏には花が咲かずに果実が成り、それを収穫せずに来年の春まで育て続けるとスパルプキンになる。

 まあ、随分と特殊な育ち方だが、畑に植わっている状態を人間で言うなら子供時代、人型になってからを大人時代と考えればそんなに不自然ではないだろう。

 ついでに補足しておくとスパルプキン畑と言うのは他の畑から隔離されているだけじゃなくて防備や温度管理についても特別な畑であり、春になってから植える理由としては夏に植えて育て始めた場合冬を越せるか怪しいからと言う理由からである。


「スパルプキン畑についても順調に生育しているかラ、問題なく冬は越せるかト」

「ふむふむ」

「ア、それとデンレーから連絡が有っテ、街で育てている方はやっぱり成長が遅いそうでス。なのデ、成体になるのは来年の春よりもっと先かト」

「あー、やっぱりか」

 言い切ったと言わんばかりにゴーリキィが息を吐くのを見つつ、俺はどうして街……クヌキハッピィの方で育てている方の成長が悪いのかを考える。

 そして出た結論としてはクヌキハッピィとサンサーラエッグ村では土中の栄養分や水と言った要素以上に周辺環境に含まれている魔力量が大きく違う事が原因ではないかと思う。

 実際、一代目のスパルプキンにしても大気中に散っていた俺の魔力を吸う事で一気に成長したみたいだしな。


「そうなるとやっぱり基本はリーンの森で育てるしかないか」

「でス」

 で、ここで俺はミズキの方を向く。

 ミズキの担当は水や衛生関連ではあるが、もちろん農作物にも関係がある。


「ん?ああ、私の方は何の問題も無いわよ。魔力は滞りなく循環してるし、アンタの入れ知恵で村中の排泄物を一か所に集めて肥料にしてるお陰で衛生面も良くなってるから」

 ミズキは俺の視線に気づいたのか自分が関わっている部分に関する報告を上げる。

 ただまあ、報告を聞く限りでは何の問題も無いようだな。


「この前の意見をクレイヴたちはちゃんと受け入れてくれたみたいだしね」

「ま、世話になっているこっちとしては受け入れるしかねえし、そもそも拒否する意味も無かったしな」

「ふうん」

 ミズキの言葉に対してクレイヴは何でもないかのように答えるが、実際には他の冒険者と多少揉めていたのを俺もミズキも実は知っていたり。

 まあ、最終的にはミズキの「ゴミは一か所にまとめなさい!」と言う意見が冒険者の間でも全面支持されたわけだがな。誰だって汚いよりは綺麗の方が良い。


「問題が無いなら別にいいか。リーダーは?」

「ブンブブ?(私ですか?)」

 俺の言葉にリーダーが羽音と文字盤、それから魔力を利用した念話で報告を始める。


「ブンブブー、ブブッブンブ、ブブブブブ。ブンブ、ブブブンブブブ、ブブブン(住居、設備に関しては既に十分な数がありますし、補修用の建材も各種十分な数が揃っていますので問題は無いですね。冬籠りの準備も既に完了していますから例年より冬が厳しくなっても耐えられます)」

「問題が無いならそれは幸い」

 リーダーの言葉にこの場に居る全員がそれは良かったと肯く。

 実際サンサーラエッグ村の建築物の大半はリーンの森で回収した木や石にハンティングビーの蜜蝋を組み合わせて作り上げられた建物が殆どであるためハンティングビーの地位は村の中では人間とまるで変わらない。

 なお、最近リーダーの娘と息子たちが分蜂の形で村の外に出ていったが、そちらについては消息不明である。と言ってもスパルプキンの援護なしでも猪ぐらいなら狩れる戦力で出ていったので心配は一切していないが。

 あれだな。何年かしたらリーンの森と言う高魔力環境に慣れてハンティングビーとは別の種類の蜂になっているかもしれない。


「それじゃあ、次はタックスさんで」

「私の方は特に変わりませんよ。伯爵様からの指示はいつも通りですし、今年分の税も既に問題なく納めて頂いているわけですし。まあ、強いて言うなら春に来た新人がまだ半人前なので困っているところですが、こちらについてはスパルプキンたち共々ゆっくりと教育させてもらいますよ。と言うか、中央の事についてはパンプキンさんの方が詳しいのでは?センコノトまで行って来たわけですし」

「うん。了解。中央の事については……ぶっちゃけ俺の頭ではよく分からんかった。まあ、クヌキ伯爵が居るから早々不味い事にはならないだろうさ」

「まあ、それはそうですね」

 うん。タックスさんの方も問題なしか。

 とりあえず早い所政治や交渉に強い子が増えて欲しいです。魔法馬鹿な俺に政治なんて言う海千山千の猛者がひしめく伏魔殿は相性が悪すぎるしな。


「さて、それじゃあ残りは俺だな」

「うん?何かあるのか?」

 他のメンバーの報告が一通り終わったところでクレイヴが懐から数枚の羊皮紙を取り出して真剣な顔でこちらを見てくる。


「ああ、リーンの森の調査隊がちょいとばかし奇妙な物を見つけたって言う報告を上げてきたから、この場に居る皆の意見を聞きたい」

 そして、クレイヴが報告を始めた。

大体いつも通りな感じ


04/29誤字訂正

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