第91話「南瓜と事後処理-2」
えー、晩餐会はつつがなく進んでいる。
サク第一王子が皇太子になってその際に異母兄弟であるはずのリオとの婚約を発表して会場全体が酷く乱れたが、それでもつつがなく進行していると言ったらつつがなく進行している。
あれだ。リオもサクも幸せそうだったし、王様も納得していたようだし、会に参加している貴族たちも大半はしょうがないかと言う顔で、残りは微妙な感情が籠った目で二人を見ているが、微妙な目で見ている方はどうせ娘とか姪とかを王子に嫁がせたかった連中だろう。
何か有るなら王様たちが対応するだろうし俺の気にする事ではない。
ご勝手にどうぞだ。
「あー、ワインが美味い……」
それよりもだ。
俺はワイングラスに根を一本入れてワインを吸い上げつつ、会場全体を見回す。
するとこの場にはクヌキハッピィにも居たヒューマン、エルフ、バードマン、リザードマン、ドワーフ以外にも王様の様に獣の特徴を持つ人間や、肌が黒くてヌメリのある人間、凄い福耳な人間、額から一本白い角を生やした人間など実に様々な人種が存在しているのが分かる。
全員それなりに立派な服をしているから貴族、または騎士とかなんだろうけどな。
なお、兵士たちはほぼ全身鎧で種族が分かりづらい。
「この世界ってこんなに多彩な人種に溢れてたんだなぁ……」
俺は会場に居る人々を見て思わず感想を漏らす。
いやまあ、希少種族と言う括りで言うなら俺もその内の一種として扱えるんだろうけどな。
それでもこれだけの人種がいると言うのは前世の記憶で単一の種族が支配していた世界しか知らなかった俺としては驚きである。
ただそれでも気になる事がある。
何でヒューマンであるはずのサクやリオの父親である王様に獣耳が生えているのかと言う点だ。
なにせ、今までこの世界で暮らして見てきた限りはヒューマンの親は必ずヒューマンであり、エルフの親は必ずエルフで、リザードマンの親は必ずリザードマンだった。
いやまあ、外見的に近い種族なら異種族間でも子を成せるのかもしれないが、何となくそれは無い気がする。
「えーと、伯爵は何処だろうな?」
と言うわけでその辺りの事情を調べるためにクヌキ伯爵を俺は探す。
クヌキ伯爵ならその辺りの事情も知っているだろう。
「おっ、居た居た」
「ストロン伯爵の指揮は実に素晴らしいものでしたなぁ……」
「復興の方もマドサ侯爵殿のおかげで順調ですし……」
「ハーベス子爵の支援も良かったですぞ……」
そして俺は何人かで固まって談笑をしているクヌキ伯爵を見つけて近づく。
が、近づくだけで自分から声を掛けたりはしない。たぶん、今クヌキ伯爵が話している相手は同じ爵位である伯爵かそれに近しい人物であり、少なくとも貴族なのは確かだろうしな。迂闊に話しているところに割って入って問題が起きるのは困る。
「ああ、失礼。どうやら知り合いが来たようだ」
「おお、そちらが噂の竜殺しの魔法使い殿ですか」
「この度は側室の救出にクーデターの首謀者への対応、随分とご活躍なされましたなぁ」
「いやはや、貴殿の様な力ある者が味方になってくださり真に感謝ですな」
「あーはい。ありがとうございます」
と、クヌキ伯爵の言葉と共に周囲に居た他の貴族たちが俺に声をかけてきたので、一応頭を下げて出来るだけ低姿勢で対応する。
で、そうして対応している間にクヌキ伯爵が俺の横に来て全員に聞こえる様に俺へ声をかけてくれる。
「ところで君は私に何か用事があったのではないのかね?」
「ああはい。ちょっと聞きたい事が有って」
「ふむ。そう言う事ならすまないが私は一度彼と一緒に失礼させてもらうとしよう」
「そうですな。他の者には聞かれたくない事も有るでしょうし、それが良いでしょうな」
「では、我々は失礼すると致しましょうか」
「すみませんな」
そして俺とクヌキ伯爵は人が居ないバルコニーの方に移動し、他の貴族たちも何処かへと散っていく。
「さて、私に聞きたい事があったようだがどうかしたのかね?」
「あーはい。陛下に関してなんですが……」
バルコニーに移動した所で俺は質問を始める。
で、俺の質問を聞いた後にクヌキ伯爵は一度顔を俯かせて何かを考えてから俺の顔を凝視する。
「君は確か転生者だったな。君の記憶には陛下の様な人間は居なかったのかね?」
「覚えている限りでは居ませんでした」
「ふむ。それならば疑問に思うのも不思議ではないか……」
俺の答えに納得したのかクヌキ伯爵はそう言いながら頷くと一度王様の方を見る。
ただ、話して良いか悩んでいる感じでは無くて、どう話せばいいのか分からなくて悩んでいると言う感じだな。
もしかしなくてもこの世界の人たちにとっては常識だったのかもなぁ……まあ、分からない物は素直に聞いておくに限るんだけどな。
「分かった。教えておこう。陛下の耳は……簡単に言えば先祖還りだな」
「先祖還り?」
「ああそうだ。恐らく先祖にそう言う特徴を持つ者が居たためなのか我々ヒューマンの中には時折……と言っても大都市に一人居ればいいぐらいだが、陛下の様に獣相が現れる者が居てな。そういう者はビースターと呼ばれ、総じてヒューマンに比べて高い身体能力と魔力を持っていると言う特徴があるのだ」
「なるほど」
高い身体能力に魔力ね……まあ、魔力に関してはウリコの方が上な気もするけどウリコと他の人間を比べるのは無粋か。
と、ここでクヌキ伯爵は俺に顔を近づけると周りの人間に聞こえないように囁く。
「ついでに言えば陛下の子沢山っぷりを見れば分かると思うが、ビースターはヒューマンに比べて性欲が強い」
「……。それも何となく分かります……」
そして、呟かれた内容に納得して俺は思わず頷いてしまう。
実際子沢山過ぎるよな。あの人。
「ああ、性欲云々の話は黙っておいてくれ。貴族の間では周知ではあるが……な」
「それは分かってます」
やがて宴は徐々に収束していき、俺もそれに合わせて引っ込むことにした。
確か明日には報酬を受け取れるはずだから、受け取ったらとっとと帰らないとなぁ……予想以上に時間をかけちまった。
ビースターは本当に突然ヒューマンの間で生まれます