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第90話「南瓜と事後処理-1」

「パンプキンさん失礼します」

「ロウィッチか」

 部屋の中に猫を被った状態のロウィッチが入ってくる。

 さて、各種隠蔽工作をした俺は第一王子の軍に保護され、センコノト城の比較的無事だった一室で1週間ほど療養生活を送る事となっていた。

 療養については偽装とは言えそれなりの傷を負ったのだからしょうがない。本音としてはとっとと人質救出分の報酬だけ貰ってサンサーラエッグ村に引っ込みたかったけど戦後報酬とか事情聴取とかその辺の諸々の問題もあったしな。

 まあ、破壊神本体が召喚されるよりはマシだったと言う事で第四王子の切り札を潰すのに失敗した件はお咎め無しになったからいいとしよう。


「て、何だ。パンプキンしか居ないのか」

「俺しか居ないと分かった途端にその口調か」

「別にいいだろ?この方が楽なんだし」

 で、部屋の中に俺しか居ないと分かったところでロウィッチがその少女姿に見合わない男っぽい口調になる。

 ロウィッチがこういう奴だってのは一年ぐらい前に偶然知ったけど、この変わり身の早さにはやっぱり慣れないな。


「傷の方はどうだ?」

「都合よく南側の壁が崩れてるお陰で日光浴がし易くてな。あっという間だよ」

「相変わらず便利な体だこと」

「まあな」

 ロウィッチは部屋の中にある机に腰掛けると何度か指を動かして魔法を使う。

 んー、感覚的に隠蔽とか撹乱とかそんな感じか?微妙に違っている気もするけど。


「それで用事は何だ?わざわざ隠蔽魔法を使ったって事はリーン様関連の何かだと思うが」

「まあ、簡単に言ってしまえば支払い要求だな。ほれ」

「ん?」

 そう言うとロウィッチは一枚の紙を俺に渡してくる。

 内容は……んー、よく分からんが何かの請求書っぽいな。


「と言うか、俺が見て意味があるのか?これ」

「お前の目を通して依頼主にも伝わってるはずだから問題なし。ついでに言えば支払いもお前の位置情報を利用して送ってくるはず」

「ふうん?よく分からんがまあい……」

『請求を確認しました』

「!?」

「ほら、ちゃんと伝わってるだろ」

 と、ここで突然部屋の中にリーン様の声が響き渡る。

 どうやらロウィッチの言うとおり、何かしらの方法でリーン様には本当にこちらの状況が分かっているらしい。


『支払いについてはこれを送りましょう。パンプキン。手を前に』

「あ、は……い!?」

「おっ、来た……か!?」

 俺が蔓の手を前に出すと、掌の上に何処からともなく現れたリボンが落ちてくる。

 そして俺とロウィッチがリボンを観察した瞬間……俺もロウィッチもリボンに込められている魔力の量に思わず固まる。

 リボンには破壊神の腕の時に受け賜った杖ほどではないが、それでも俺たちの頬を引き攣らせるには十分な程の魔力が込められており、推測だがこのリボン一つ身に付けていれば大抵の魔法は防げる気もする。


『このリボンは私が数十年ほど常用することで魔力と加護を纏わせたリボンです。対価としては十分でしょう』

「え、えと……お納めください」

「う、承りました」

 リーン様は何でもないかのように出しているけど、たぶんこれって報酬過多になっている気がする。

 だってロウィッチの頬の引き攣り方が半端ないし。俺もだけど。


「じゃ、じゃあ俺は失礼するな」

「お、おう元気でな」

『今後ともよろしくお願いします』

 で、ロウィッチは何かの魔法を使って姿を消す事によりこの場を後にした。恐らくは何かしらの転移魔法を使ったんだろう。

 そしてそれに伴ってリーン様の声と気配も遠ざかる。もしかしなくてもロウィッチの隠蔽魔法があったからこそあんな簡単に出てこれたんだろうな。


「とりあえず日光浴しながら寝るか」

 そう呟くと俺は傷の治療に専念するために日光を浴びながら寝ることとした。



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「ん?もう夜か」

 気が付くと夜になっていた。

 壊れた壁から外気が入ってくるため多少肌寒い。

 と、誰かが部屋に近づいてくる足音がする。


「パンプキン殿よろしいでしょうか?」

「どうぞ」

 そして足音は部屋の扉の前で止まると二度ノックをしてから中に居る俺に声をかけてきたので、俺は返事をして声の主を部屋の中に招き入れる。


「私、アキト陛下並びにサク第一王子の使いで来た者ですが、今宵は晩餐会とのことでパンプキン殿の案内をしに参りました」

「あー、俺は飯は食えんし、その手の堅苦しい場は苦手なんだが……それに怪我人でもあるし」

 案内をしに来たと言う兵士に向かって俺はそう言うが、俺の言葉を聞いた兵士は一度首を横に振るとこう言葉を続ける。


「それでも顔を出すぐらいはしてください。今宵の晩餐会は戦勝会と皇太子の任命式と婚約式も兼ねていますので、サク第一王子が今回の件で雇った貴方が出ないと言うわけにはいかないのです」

「むう」

「逆に言えば一度顔を出してしまえば面目は保たれますし、後はどうとでもなるかと」

「まあ、言われてみれば確かにそうなんだけどな。しょうがない、諦めて顔出しにいくらかの飲み物を貰ったら引っ込むつもりで行くか」

「御足労をおかけいたします」

 そうして俺は身なりを整えると兵士の先導の元、晩餐会の会場だと言う大広間へと向かった。

リーン様にとっては日常生活で使うようなアイテムでも南瓜と海月にとっては手に取るのも怖い神話級のアイテムだったり。

神様ってのはこれだから……

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