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第86話「南瓜とセンコ国-16」

「ぐあぁ!」

 私の前で胸を剣で切り付けられた一人の兵士が大量の血を流して倒れる。

 私はその光景に一瞬思わず目を逸らしそうになるが、目を逸らしている間に何をされるか分かったものでは無いと思い、その光景をしっかりと見続ける。


「リオ。無理に見なくてもいいんだぞ?」

「私は大丈夫です。これが戦いですから」

 その事に対して今しがた兵士を切り捨てたサクが私に声をかけてくれるが、私はその気遣いを嬉しく思いつつもそっけなく返す。


「それにしても、ここまで腐っている兵士が多かったとはな……」

 外から聞こえてくる雨音を耳にしつつサクは悲しそうな瞳を切り捨てた兵士に向ける。

 きっと国を継ぐ者として思う所が色々とあるのだと思う。


「それにしても例の第四王子が居ませんね」

「ああ、レイの性格や父上の言葉からして必ずセンコノトの何処かに居るはずなのだがな」

 私とサクは数人の護衛役である騎士を連れてセンコノト城の中で今回のクーデターの首謀者であるレイ第四王子を探していた。

 なお、私たちがたった数時間でセンコ国の外れであるクヌキ領から首都であるセンコノトまで来れたのは、私たちに味方をしてくれる領主の領地にある転移魔法陣を乗り継いだからだけど、私は転移魔法の余波として起きる転移酔いと言うものになって色々と酷かったので、正直に言って出来ればもう使いたくない。


「しかし、パンプキン殿の魔法は凄まじいな」

「街に張られた防御魔法も無視して街中の人間を眠らせる魔法……使い方次第では文字通り戦いが変わりますね」

「と言うよりも対策が無ければ殆どこれだけで戦いが決まるぞ。現に今の俺たちは何の苦労もしていない」

「宮廷魔道士の連中は今頃頭を抱えてんだろうなぁ……」

 護衛役の騎士たちはサクの言葉に思い思いに返す。

 実際、今の私たちは何の苦労も無く城の中にいた兵士たちを倒す、もしくは捕えられていることを考えると、護衛の騎士たちの言うとおりパンプキンさんの魔法は殆どそれ一つで戦いを決する力を持っていると言ってもいいと思う。

 そして私たちが次の部屋に向かおうとしたところで突然……


「きゃっ!」

「くっ、大丈夫か!」

「な、何だ!?」

「地面が揺れているぞ!」

「何かに掴まれ!」

「何が起きてる!?」

 王城全体が揺れ始め、城が揺れる中で私はよろけて倒れかかったところをサクに支えてもらい、他の騎士たちもある者は私たちに軽い防御の魔法をかけ、またある者は周囲の壁や家具が倒れてこないかを警戒してくれる。


「こ、この辺りってこんなに揺れるの?」

「いや、私の覚えている限りではこれほど揺れたことは無かった。それにこの揺れは何かがおかしい。これはそう、まるで下から何かが……!?」

 サクは私を抱えながらそう言うとおもむろに下を向く。

 そしてそこまで言ったところでサクは何かに気づいたかのような顔をする。


「総員身構えろ!下から何か来るぞ!!」

「「「!?」」」

 サクの言葉が私たち全員に伝わったその瞬間。私たちは下から上がってきた何かによって吹き飛ばされた。



■■■■■



「ロウィッチだ。スパイン聞こえるか?」

『聞こえてるぞロウィッチ』

 俺は特殊な事態に備えて用意してあった衣装に着替えた状態で箒に跨り、クヌキハッピィにある『ウミツキ文房具店』からセンコノトに向かって空を飛んでいた。


『封印解除Lv.1を申請するなんて一体何があったんだ?』

「偽神及び中級神級の何かが活動している反応を検知したから、現地に向かっている。が、流石に中級神と相対するのは普段の俺じゃ自殺行為だからな」

『なるほどな。ついでに正体の隠蔽も兼ねてって事か』

「まあそう言う事だ」

 俺はレースや宝石が付けられて普段の古典的な魔法少女装束よりも豪勢な見た目になっている魔法少女装束を指でつまみながら、通信先のスパインの言葉に応じる。


「と、そろそろ見えてくるな。必要が有ったらまた連絡するから社長への連絡準備をしつつ待機しておいてくれ」

『分かった。流石に中級神相手だと何かあった時が怖いしそうさせてもらう』

 スパインとの通信を終わらせた俺は正面に見えている雲を突っ切ると、センコ国の首都であるセンコノトとセンコノト城そしてセンコノト城を突き上げる様に生えた巨大な腕を見た。

 アレが偽神の反応源……恐らくは破壊神だろう。となればアレは大して問題にはならない。


「あそこか……」

 俺は俺が問題とすべき相手……中級神の反応を首を巡らして探す。

 そして反応があったのはセンコノト上空にいっそ不自然と言っていい形で発生している雨雲の中だった。


「行くか」

 俺は自分の装備を確かめてから雨雲の中に突入する。

 雨雲の中はやはり不自然と言っていいほど静かだった。やはりこれは自然に発生したものでは無く誰かが意図的に生み出した物なのだろう。


「っつ!?」

 そして雨雲を抜けた俺は自らの視界に映ったその光景にまず驚愕する。


「【リプレッション】」

『なぜ潰れぬ……』

 何故ならば確かパンプキンと名乗った男がボロボロの身体で周囲に膜の様な物を張り巡らし、破壊神の拳を空中で押しとどめていたのだから。

 だがそれ以上に驚くべきはそのパンプキンが身に纏っていた力とその目に宿る意思の色。


「海月ですか。様子見にでも来ましたか?」

 その力と意思は明らかにパンプキン以外の何ものかであった。

役者が集まって来ています

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