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第82話「南瓜とセンコ国-12」

「ヒュロロロォォ!そろそろか……」

 モノキオたちが居たドームを抜けた俺は狭い階段を高速で飛んで地下へ向かって進んで行く。

 そして体感時間にして10分ほど飛び続けた所で階段が終わり、明かりに満ちた空間が見えてくる。


「ここは……」

 俺がその空間に入ると暗い所から急に明るい所に移った影響で一瞬視界が無くなるが、すぐに内部の様子が見え始める。

 そこは簡単に言ってしまえば火山の火口内部のような場所だった。


「すげえな……」

 まず入り口からその空間の中心部に向かっては石によく似ているが別の物質で作られた通路が伸びており、空間の中心部は同じ材質で作られた円盤状の足場が設置されており、それを支える様に材質不明な細い糸状の物体が何本も足場から壁に向かって伸びていた。

 また、この空間の壁だがこの場所の役目の関係なのか足場とはまた違う材質で出来ているようである。

 どれもよく分からない物体ではあるが、一見した感じでは足場と糸は魔力を吸う事によって強度を上げる素材であり、壁の方は特定の方向に限定して魔力を流す感じだろうか。


「これだけ集まってたら普通の人間にも見えるぞ……」

 だが、これらの物質よりも更に俺の目を惹く物がこの空間の底部には存在していた。

 それは魔力。

 恐らくは壁の特性を生かして周囲の大地から長年にわたって集め続けていたのであろう魔力が空間の底部に普通の人間であっても目で見ることが出来るほどの量と濃度で存在していたのである。


「ほう。侵入者と聞いてどのような者が来るかと思えば随分と奇天烈な輩が来たものだ」

「っつ……そういやそうだったな」

 入口に居た俺に向かって如何にも人を馬鹿にするような印象を伴った声が掛けられた事で俺は思考を打ち切り、空間の中心にある円盤状の足場に目を向ける。


「油断なされないでください。私の記憶が確かならアレは極東に三年ほど前に現れたスパルプキンとかいう者たちの長……竜殺しの魔法使いです」

「竜殺し……なるほど、いずれの兄上が送り込んで来たのかは知らないがこれはまた随分と大物を送り込んできたものだ」

 足場の上に居るのは二人の人間。

 片方は自らが神に使える者……神官であることを示す法衣に身を包んだ青い肌に黒い髪や爪を持つ種族名不明で黒い魔力を持つ男。

 もう片方は煌びやかではあるものの実戦で使う事を想定して動きやすさを第一とした軍服に身を包み、先端にいくつもの宝玉が付けられた杖を手に持つ貴公子。

 神官の方は今まで話にも上がっていなかった存在だが、貴公子の方はどちらかと言えば白系の魔力によくよく見れば王様や第一王子とどことなく似た雰囲気の顔を見る限りではこの人物こそがレイ・センコ第四王子なのだろう。


「さて、竜殺しよ。この場に何をしに来た?私の仲間になりに来たのだと言うのなら歓迎するぞ?上の広間に居た役立たず共よりは遥かに使えるのは確かだろうし、私に付けば金も地位も……それに研究のために必要なものだって思いのままだ。どうだ?ん?」

「…………」

 第四王子は杖を手にしてない方の手を上げつつ俺に向かって勧誘の言葉を向け、神官の方も嫌らしい笑みを俺の方に向ける。

 なるほど、金に地位に研究の補助か……確かに美味しいな。だがな……。


「馬鹿か」

「なに!?」

 はっきり言ってくだらない。


「お前に付けば全てが手に入る?馬鹿も休み休みに言え、いや、元々貴様は馬鹿で駄々をこねて自分の我儘を通す事しか考えない餓鬼だったな。馬鹿が行き過ぎて反乱まで起こした大馬鹿王子だ。だからこの際にはっきり言ってやるよ」

「……!?」

 第四王子改め馬鹿王子は顔を真っ赤にしつつ、まるで酸欠の魚の様に口をパクパクと開け閉めする。

 だが、上の状況を見てきた俺としては自分の言いたい事ははっきりと言わせてもらう。


「とっととママのおっぱいでも吸いに行ってろ馬鹿王子」


「きさ……」

「陛下!?」

 俺の言葉に馬鹿王子は大きく肩を震わせて何かを言おうとするが、怒りのあまり言葉が続かないようである。

 ああそう言えば王様が馬鹿王子の母親は四年ほど前に原因不明の爆発事件で死んだとか言ってたな。つまり母親に会いに行くなら死ぬしかなかったり。ま、俺の知ったことじゃないな。


「落ち着いてください陛下!アレはただの挑発です!」

「分かっている!分かっているとも……!」

 神官の言葉に僅かだが馬鹿王子が理性を取り戻す。

 だが、神官の口の端は馬鹿王子を気遣うようなその言葉に反して吊り上がっている。

 ふうん。と言うかさ、


「陛下陛下って、身分的にお前は僭王じゃねえか。正直腹が無いのに腹が痛くなるレベルで笑えるな」

「貴様ああああああぁぁぁ!『ラリップ・エルビシヴン』!!」

 俺のもっともな指摘に馬鹿王子がブチ切れて人の目には見えない何かの魔法を放つ。


「ふん!」

「なっ!?」

 が、魔力を視認できる俺にはバレバレなので、右手に魔力を集めて普通に殴り飛ばして破壊してやる。

 ちなみに僭王(せんおう)とは正式な手続きを経ずに王になろうとした者を指す言葉であり、基本的に王になれずに散った者を指す言葉でもある。本当にぴったりだわ。

 と言うか実力的にもヤバいのは馬鹿王子じゃなくてさ……


「バ、バカな……くそっ!神官!どんな手を使っても構わん!この無礼者を今すぐ殺せ!!」

「仰せのままに。ですが陛下?」

「何だ!早く殺せ……」

 馬鹿王子の後ろに居た神官が何処からともなく取り出した剣で馬鹿王子の背中から剣の先端が胸から出てくるほどの力で突き刺し、王子の手から杖が転がり落ちる。

 てか、やっぱり殺ったか。


「がっ!?な、何を……」

「邪魔ですから死んでください。この先貴方は必要ないので」

「そ……ん……な……」

 神官は馬鹿王子から剣を引きぬくと馬鹿王子の身体を足場から蹴落とし、足場から落ちた馬鹿王子の身体はこの空間の底部に溜まっていた魔力の渦に呑まれた瞬間に【オーバーバースト】を起こして弾け飛ぶ。


「殺しちまってよかったのか?」

 俺は神官にそう問いかける。

 と、同時にその動きをつぶさに観察する。


「あの馬鹿の役目は私をここに入れ、実験体兼生贄の兵士どもを集めてくれた時点で終わりですよ。本当は時間稼ぎの役目も有りましたが、貴方がここに来れたという事は時間稼ぎは失敗ですしね。儀式完了までもう少しなだけあって非常に残念としか言いようがありません」

 神官は狂気を秘めていると言ってもいいような笑顔を浮かべながら俺に向かってそう語る。

 なるほどな。やっとコイツの正体が分かったわ。


「お前、破壊神の信奉者か」

 俺の告げた言葉に対して神官はその笑みをより一層深くするとこう告げた。


「正解ですよ。創造神の走狗」

ここまでが前座で、これからが本番です

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