第79話「南瓜とセンコ国-9」
「やれやれ、第四王子の切り札ってのは随分と趣味が悪いな」
「グフグフグフ、貴様も見た目だけならば似たようなものだろう」
俺は俺を取り囲む連中を一通り見て思わずそう口走るが、連中の中の一人が間髪入れずに返した言葉に内心で「確かにな」と思う。
「お生憎様。俺のは天然物だし、お前らの様に堂々と表に出せない程醜くはねえよ」
「あんだと!」
「ふざけんじゃねえぞ!」
「気持ち悪い姿なのは手前もだろうが!」
「へいへいそうですかー」
ただ、俺の身体はタンゴサックが精魂込めて作った南瓜が元になっていて、貴様らの様に一目見ただけで吐き気を催すような姿はしちゃいない。
尤もこいつらを表に出せないのは見た目以外の方に主因があるだろうが。
「さて、お前らは第四王子の手の者って事でいいんだよな。どういう方法でそんな姿になったかは知らんが俺の邪魔をしないなら見逃してやるぞ。弱い者いじめは趣味じゃない」
「「「グヒャヒャヒャ」」」
「「「ゲガガガガ」」」
「「「キュルキュルキュル」」」
俺の言葉に俺を取り囲んでいる連中がその異形の身体を大きく振るわせて嘲笑する。
「グガガガガ!随分と舐められたものだな……一人で俺たち全員を相手に出来るとでも思っているのか?それにここを通すわけも無いだろうが」
「だろうな」
俺の正面に立っている額から二本の角を生やした男……まさに鬼と称すに相応しい姿をしたそいつは俺を睨み付けつつ、交渉が決裂したことを示す言葉を発する。
「クックック、むしろ、ここで貴様を殺せばその恩賞でここから出してもらえるかもしれん」
「キヒャヒャヒャ、そいつはいい。外に出れればこの力で何でもやりたい放題だ」
「ゲボゲボゲボ、いいねぇいいねぇ。外に出たら俺は若い女でも食ってみてえわ」
「キュココココ、なら俺はガキだ。逃げ回るガキを少しずつ追いつめてよぉ……」
「キシシシシ、いい趣味してるねぇ。だが、若い男の肉ってのも歯ごたえがあって中々に良いとは思わないか?」
それどころか、聞いているだけで胸糞悪くなるような願望を叶えられて当然と言った様子で表に出す。
どうやら、人の姿を捨てると同時に人の知識と言葉は残しても心は失ったらしいな。うん。手加減をせずに済むってのは楽でいいな。
と言うわけでだ。
「ところでお前ら?」
「「「ああん!?」」」
「俺にこれだけの時間を与えていいのかな?」
俺はそう告げると既に共鳴魔法が発動する直前になったそれを取り出して発動と同時に一閃。
「【共鳴魔法・牛蒡細剣】」
「「「ふせっ……ギイアアアァァァ!!」」」
振るわれた魔力の刃はその進路上に居た異形共を寸前で気づいて回避した者を除いて悉く切り裂き、その身体を悲鳴を上げさせつつ上下に二分割する。
【共鳴魔法・牛蒡細剣】は今が旬の牛蒡を使った共鳴魔法で、触媒である牛蒡を覆う様に俺の意思に応じて魔力の刃を作り出す魔法である。
似たタイプの共鳴魔法である【共鳴魔法・胡瓜刀】との違いは刃の強度や威力、射程など色々あるが、最大の差は単発か、効果時間がしばらく有るかだろう。
「「「あぐがぁ……」」」
「くっ、なんてふざけた魔法を使いやがる……」
「「「痛えよぉ痛えよぉ……」」」
「このチート野郎がぁ……舐めやがって……」
「俺の脚がああぁぁ!」
「キュッキュッキュ、危なかったねぇ」
「ふうん。三人残ったか」
俺は身体を上下に寸断されてもまだ生きている異形共の生命力に感心しつつ、【共鳴魔法・牛蒡細剣】を避けた三人の方に目を向ける。
一人は俺の正面に立っていた鬼。
一人はそいつの隣に立っていた赤い棘を全身から生やした巨漢の男。
一人は赤い棘の男の肩に乗っていた栗鼠のような姿をした小男。
どうやらこの三人は他の有象無象よりは出来るらしい。
「よくもやっ……ゲギャ!?」
「【トルネイドブラスト】。さて、お前らが上に行って何をする気なのか分かった以上見逃すわけにはいかねぇなぁ」
「くそがっ」
「チート野郎の分際で」
「キュッキュッキュ」
下半身を失って破れかぶれになった奴が上半身の力だけで飛びかかってきたところで俺はそいつの頭を握って粉砕しつつ、【トルネイドブラスト】でまだ息があった連中にトドメを刺し、残りの五体満足な三人には逃がす気が無い事を告げる。
実際コイツらが上に行ったら間違いなく罪も無い人をその力を生かして襲うだろうしな。俺としては見逃す理由が無い。
「ああそうだ。一応聞いておくがこの先で第四王子が何かをしているって事でいいんだよな?」
「ハン!誰が教えるか!そうだろぉ、カラムジ、トリリス!」
「ああそうだ。言えるはずが無い。モノキオ」
「と言うか喋ったら殺されるでやんすよ。二人とも」
ちっ、流石にこのテンプレに乗るほどの馬鹿ではなかったか。あの三馬鹿なら……ん?あの三馬鹿?
カラムジ……トリリス……モノキオ……。
「あああぁぁぁ!?お前らあの三馬鹿か!!」
「「誰が三馬鹿だぁ!俺は違う!!」」
「見事に被ってるでやんすよ。二人とも」
俺の驚きの声に鬼……モノキオと赤棘……カラムジが反応して大声を上げると共にその二人に対して栗鼠……トリリスがツッコミを入れる。
「へぇー、あー、うん。姿が変わり過ぎてて気づかなかったわぁ……と言うかお前らあの後しっかり生き残ってたんだなぁ……ふーん」
「てか、思い出したぞ!手前あん時(エントドラゴンの時)俺たちを吹き飛ばした奴じゃねえか!」
「クソがっ!手前のせいで俺たちはクヌキ領に居られなくなってこんな所まで身を堕とす事になったんだぞ!責任取りやがれ!」
「ハッ!責任を取れだぁ?なら責任を取って……」
どうやら向こうも俺と顔見知りであったことに気づいたらしい。
でもなぁ……あの時の落とし前をつけたいのは俺も一緒なんだぜ?それを理解してお前らは言っているのか?ああいや、別に理解していなくていいや。どちらにしたってだ俺のするべきことは変わらない。
俺のするべき事は……
「お前らも俺がリーン様の御許に送ってやるよ!」
三馬鹿の容姿説明を見ればニヤリと出来る人はニヤリとするかもしれません