第72話「南瓜とセンコ国-2」
「まずは名を名乗らせてもらおう。私の名はセンコ国第一王子……いや、今の状況では元王子と言うべきかもしれんが……まあ、とにかく名前はサク・センコだ」
「へぇー、王子……王子?」
俺は青年が名乗ったその名に思わずコウゾー爺さんとクヌキ伯爵の方を向く。
そんな俺の行動に対して二人は首肯で肯定する。
へー、王子……王子様なんだ……。
「すみません。急用が出来たので……」
「もう遅いのう」
「税率やスパルプキンたちへの対応をどうしたものやら」
「ぐっ……逃げられない。けれど絶対にこれもう面倒な事態になるのが確定してるじゃん!そんなのはもっと忠誠心溢れる方々に回してくださいよ!ヤダー!」
「貴様!王子の依頼を受けないと言うつもりか!!」
「落ち着け隊長」
「しかも隊長付きなのにこんな場所で話す事になるとかもう最悪の事態しか見えてこないんですけど!?」
「ふぇふぇふぇ、諦めるんじゃの」
「諦めろ。私たちにはもう他の道は無いのだ」
「シクシク……」
で、王子様が関わっていると分かった時点で逃げようとしたのだが、この部屋に入った時点でもう関わらないと言う選択肢は封じられたらしい。畜生……チクショー!
「さて、話を進めさせてもらって構わないかな?」
「構いませぬ」
「うう……」
絶対にこれエントドラゴンの件よりも遥かに面倒な事態だよ……。
でも、聞くしかないんだろうなぁ……こうなった以上は……
「さて、パンプキン君だったかな。君はこの国の事はどの程度知っているかね?」
「あー、国と首都の名前ぐらいしか知らないですね。田舎者なんで」
「分かった。それなら始まりから説明するとしよう」
そうして王子様によるセンコ国に関する説明が始まった。
「まずこの国、センコ国は大まかに言ってしまうとトップに国王を置き、その下に公爵から男爵までの貴族階級、更にその下に平民が居ると言う階級制度を取っていて、貴族には平民たちから税を受け取る代わりに魔獣や盗賊などの脅威を討ち払う義務が存在している」
「ふむふむ」
今更ながらセンコ国って割としっかりとした身分制度があるのな。
不敬罪については……すみません。後で謝るんで今は許してください。礼儀作法とか村長レベルの人間にはほとんど分かりません。
「現王の名はアキト・センコ。少々好色家で正室を持たずに側室や妾を多く持ち、異母兄弟をたくさん作ってしまった事を除けば身内であるが故の贔屓を抜きにしても良い王であり、良い父と言えるだろう」
「それはまあ、何となく分かるかな」
好色家の部分はリオの件で、善政を布いているのはクヌキ領の様子を見れば何となく納得できる。
「さて、ここからが本題だ」
「……」
俺は王子様の放つ気配が変わったのを感じて居住まいを正す。
「事が起きたのは1週間ほど前だ。私の異母弟に当たるレイ・センコ第四王子がクーデターを起こし、その時城に居た父と私の異母兄弟たち、それに側室たちを捕え、自分こそが次の王であると名乗ったのだ」
「ふうむ」
「そしてそれと同時にレイに協調した貴族たちが挙兵し、レイの要求を断った貴族たちを武力で持って排除しようと動き始めている」
何と言うかそれはまた……うーん。こっちの勢力次第ではかなりキツいか詰んでいるかもな。
後、王子様がここに居るって事はクヌキ伯爵は断った組なんだろうな。たぶん。
ああでも、一応どういう要求だったのかぐらいは聞いておくか。
で、それを訊いたら。
「レイの要求か。正直、初めて聞いた時は私はこんな要求をする愚か者と半分血が繋がっている事を一瞬嘆きたくなったぐらいだった」
と、言った上で俺に一枚の羊皮紙を投げ渡す。
どうやらこれにその要求とやらが書かれているらしい。
「えーとだ……」
で、一読して、有り得ない物が目に入った気がしたので確認のために再読して、それを事実だと認識した所でしばし思考停止し、それから一言漏らす。
「馬鹿だろ……」
「私もそう思う」
俺の呟きに全員が頭を前後に振って同意を示す。
まああれだ。要求については色々とゴチャゴチャ書かれていたので要約するとだ。
1、匿っている王族を突き出せ(リオの様な庶子も含む)
2、人質としてお前らの娘と妻を寄越せ(明らかに性的な目的も見えている)
3、税を10倍以上に引き上げろ(咄嗟に暗算した感じでは今の5倍以上に税を上げられたら絶対に普通の人間たちは飢え死にする)
4、新しい宮殿を作るから人夫を出せ(賃金や交通費は勿論なし)
5、新王を讃えるための貢物を出せ(普通に領地経営が厳しくなるような量を要求してきてる)
6、逆らったら滅ぼしてやる(説明不要)
と言ったところか。他にもまあ色々と細かく馬鹿な要求があったりするけど。
とりあえず1についてはまだ分からなくもない。少なくても相手さんの立場からして現王と第一から第三王子に生きててもらったら困るのは間違いないし。
ただ他は……特に3以降は……うん。とりあえず首都に【共鳴魔法・核南瓜】を撃ち込んでも許されるかな?これ。
「流石にそれは勘弁してほしいのう……現王たちまで巻き添えになってしまう」
「アレを国の真ん中で撃たれたら国が亡びる」
「あっ、声に出してたか」
どうやらあまりにも馬鹿な要求に思わず魔力と一緒に独り言を漏らしていたらしい。
「まあ、そんな訳でな。あの馬鹿の手から逃れた私は親衛隊の隊長であるツヨシと一緒にあの馬鹿に対抗するために昔からの知り合いであるクヌキ伯爵を頼ってクヌキ領に来たのだ。勿論、元から協調していなかった領主たちは軒並みこちらに付いている」
「なるほど」
何て言うかな……うん。これって手の込んだ自殺じゃね?
名前被りは「削」と「朔」で偶然でございます