第69話「南瓜と風精霊-1」
「コイツは凄いな……」
俺は目の前に広がる光景を見て思わずそう呟いてしまう。
「おお、風が強い強い。しかし、こりゃあ確かに……」
正面から吹きつけてくる風を感じながら俺は改めて周囲を見回す。
そこは断崖絶壁と称す他の無い場所であったが、存在している土地などの点からそこにあるのは明らかにおかしい地形だった。
ここはかつてリョーコさんにその存在を教えられたクヌキ領領都クヌキハッピィの北に聳える山脈を越えた場所にある破壊神の力を持って行われたと考えても辻褄の合わない破壊痕の残る場所。
サンサーラエッグ村が出来てから三年が経過し、村の内政が安定したために俺は単身急峻な山と凶悪な魔獣を退けてこの地に来ていた。
ちなみに現在の季節は秋。食べ物的な意味でも、触媒的な意味でも色々と美味しい季節である。
「とりあえず休憩しつつ考察と栄養補給でもしますかね」
俺は地面に着地するとこの山に生息していたブラッディウルフと言う狼から採取した血を啜りながら考え事を始める。
まず、主観を出来る限り省いてこの地がどういう場所なのかを表すとだ。
1、断崖絶壁と称したが山を越えてすぐにこうなっていた
2、崖下まではおおよそだが1000m以上で、底には海が来ていた
3、どうやらU字型に大地を抉り取るようにこの断崖絶壁は広がっている模様
4、幅についてはキロ単位で表すぐらいの幅で削られている
と、言ったところか。
「うーん。一応地形の形だけを見るなら自然になったとも考えられなくもないが……」
ただ、正直に言って俺自身この地形が自然に出来たとは思っていない。
なぜなら断崖絶壁とは言ったが、風化によって生じたと思しきものを除けば崖の表面にはほぼ凹凸が無く、これは自然の崖では有り得ないと考えたからだ。
しかし、これが何かしらの力に依って作られたと考えると……
「それはそれで有り得ないよなぁ……」
俺はかつて使った【共鳴魔法・核南瓜】の威力を思い出す。
アレも威力としては俺の使う共鳴魔法の中では桁違いの代物ではあるが、一発では精々直径1km前後で深さもそれなりのクレーターしかできなかった事を考えるとこの場の有り得なさが更に際立つ。
と言うかだ。このレベルになると最早個人の魔力でどうこう出来るレベルじゃないよな。それにこのレベルの現象を起こせる存在がその魔力を隠しているのなら、それは相当の錬度で魔力操作技術を磨いていることに他ならない。
何と言うかこの現象を起こした相手と戦う事になったら事前準備を徹底的にやって、一方的に嵌め殺すつもりぐらいでないと詰む気がするな。
「うーん。どうしてこうなったかの情報がまるで足りない……どっかに事情通でも居ないのかねぇ」
俺は居ない事は分かっているが、あまりの情報の無さに思わずそう言って笑ってしまう。
まあ、当然のように返事は無いのだが。
「それにしてもこうして高地にやってくると如何に今まで俺が活動していた範囲が狭いのかがよく分かるな」
俺は崖に背を向けてクヌキハッピィの方を向く。
すると見えてくるのは大小様々なサイズの都市に森や平原、河川などの自然。
リーンの森も地平線の彼方に僅かに見えているが、未開の地だけあってそのサイズは他の森と比べると非常に大きい。
と言っても今までの俺の活動圏はそのリーンの森のごく一部にクヌキ領にあるいくつかの街や村ぐらいだったわけだが。
ちなみにこの場所からでは他の山々に阻まれて見えないが、センコ国の首都であるセンコノトはここからだいぶ西に行った場所にあるらしいので、ゆっくり観光する場合の話だけどもう何年か経ってサンサーラエッグ村の全てをスパルプキンたちに任せられるようになったら是非とも行きたいものである。
「ん?」
と、時間も時間なので今日はここで寝るつもりで野営の準備をし始めていたのだが、そこで視界の端に人影……と言うか黄色い魔力の塊が複数見えてくる。
うん。もしかしなくても精霊だな。
ちょっと接触を計ってみるか。
「ヒュロロロォォ、ちょっといいかいそこの精霊さんたち」
「南瓜だ」
「空飛ぶ南瓜だ」
「南瓜って空飛ぶんだ」
で、空を飛んで接触したら出会いがしらにこう言われた。
いや、普通の南瓜やスパルプキンは空を飛びませんからね。精霊さんたちよ。
ま、話の本筋には関わらないから訂正も何もしないが。
ちなみに三人の精霊だが、少年風が二人に少女風が一人であり、全員綺麗な黄色の魔力で体が構成されており、性別の差は有れどその容姿は非常に似通っている。
「俺の質問に答えてもらってもいいか?」
「んー、いいのかな?」
「んー、リーン様とも水の精霊とも関わりが有るみたいだし……」
「んー、いいんじゃない?」
後、性格もそっくりのようだ。何と言うか三人で一人な感じがする。
と言うか流石は精霊だな。俺の身体から漂ってる魔力の残滓とかその辺から普通にリーン様の事とかミズキの事に気が付いたよ。
「それで何を訊くの?」
「何を尋ねるの?」
「何を知りたいの?」
「そうだな……」
てか、三人一組の喋り方って凄く聞き取りづらいな。誰に注意を向ければいいか分からない。
まあ、そこら辺は情報を貰う側として諦めるけど。
「この場所がどうしてこんな地形になったのかを教えて欲しい」
そして俺は三人の精霊に質問を投げかけた。
ちなみに以前の等級で言うならこの破壊規模で第三級になります