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第67話「南瓜と徴税官-3」

「フンフフーン♪」

 さて、タックスさんが来てからしばらく経った頃、何時の間にやら族長の家として扱われるようになっていた家の中で作業していた俺の機嫌はだいぶ良かった。


「いやー、タックスさんが来てくれて本当に良かったわ」

 と言うのもだ。タックスさんなのだがこちらの予想以上に優良な人材だったのだ。

 まず第一に俺、ミズキ、リーダーのサンサーラエッグ村の舵取り役三人全員に欠けている常識がきちんとあると言うのが大きい。

 いやさ、俺はまだ生後満二年未満だし、リーダーはハンティングビーだし、ミズキは精霊だしと二人とも人間の常識にはどうしたって疎いんだよ。

 そんなわけで人間たちの常識を俺たちやスパルプキンに教えてくれるタックスさんは貴重な存在なのである。


「しかも、農作業関連の知識とかもしっかりあるしなー」

 で、ついでに言えばタックスさんは税務官としての責務をこなすためなのか、農業や狩猟、商業についての知識も一通り持ち合わせており、この知識のおかげでサンサーラエッグ村の発展は明らかに進んだのである。

 うん。本当にタックスさんありがとう。


「私としてはあの人の目から逃れるのが面倒でしょうがないんだけどね」

「ミズキか」

 と、ここでミズキが家の中に入ってくる。

 その表情はどう見ても不機嫌である。


「前々から疑問に思っていたんだがどうしてミズキはそんなに人間に自分の存在を知られたくないんだ?」

「ああそう言えばその話をしてなかったっけ」

 ミズキはそう言うとタックスさんの気配を探っているのか周囲を見回してから床に座る。

 どうやら話してくれるらしい。


「精霊が自然の権化だって言う話は前にしたっけ?」

「覚えてないけど多分したと思う」

「うん。じゃあ話を進めるけど、正確に言えば精霊って言うのは自然界の均衡と循環を守る存在なのよ」

「ふむふむ」

 ミズキの言葉に俺は頷いて理解している様子を見せる。

 それにしても均衡と循環を守る……ね。均衡ってのはミズキが俺とリーダーは助けても他の個体は助けない辺りとかそうだろうな。

 元々、精霊ってのは特定の種族に肩入れしたらいけないらしいし。

 循環については……まあ、自然てのは常に変化し続けていくのが正しい姿だしな。それを考えたら当然と言えば当然か。


「で、パンプキンに質問。人間は自然を守る側?」

「いや、どっちかと言えば壊す側」

 ミズキの質問に俺はノータイムでそう返す。

 前世でもそうだったが基本的に文明の発展と自然の保護と言うのは両立しない物である。

 植林とかも有るが、そういうのはもう人の手が入る事も自然の一部として扱われているわけだしな。

 ちなみに俺やリーダーなんかは生活や魔法の関係で自然第一なのでミズキに一応認められているっぽい。


「でしょ。しかも精霊ってのは魔力の塊で強力な魔法を使えるからそれを自分の物にしようとする馬鹿もいるしさぁ……」

「あー……なるほど……」

 そう言うミズキの顔は至極面倒そうである。

 実際、去年エントドラゴンと戦った時にミズキが見せた魔法などは雨によるブーストも有ったけどかなりの威力だったし、アレを自分の物にしようと考える奴は確かに居るだろうとは思う。

 しかしまあ……本当の事を言ってしまうとだ。


「でも、それって無理があるよな」

「そうね。精霊は自分が産まれた場所から大きく離れることは出来ないし、力づくで従わせるなら精霊以上の魔力か特殊な仕掛けが必要になるけど……」

「精霊以上の魔力があるなら精霊を従える意味はほぼ無いし、特殊な仕掛けを持ち込もうと思っても精霊は自分の住処の周囲に来た者はその子細を知られる。だろ?」

「ええ、その通りよ」

 俺はミズキとの初遭遇時に俺が感知する前にミズキが声をかけてきたのを思い出してそう言う。

 実際あのレベルの感知能力だとどうしたって不意打ちは無理だからな。まず勝てないか、勝っても旨味が無い。

 まあ、それでも敢えて精霊を襲う理由があるとしたらその膨大な魔力を取り込むぐらいか。

 それにしても魔力増加のメリットよりも、自然が荒廃したりするデメリットの方が大きいけど。


「まっ、普通の人間如きならまず負けないけど念の為にと言うか、余計な波風を立てない意味でも人間には余りそこにいるって事を知られたくないのよ」

「まあ、人間だからと言って必ずしも敵対するわけでは無いけど、人の耳が何処にあるかなんて分かったものじゃないしな」

 俺もミズキも自分が普通の人間に負けるとは思っていないからこそのこの台詞であるが、実際問題として善良な人間にミズキの事を話したとして、その人間が誰にも話さないと言う保証はないし、そもそもその誰かに話す時点で良からぬ者が聞き耳を立てている可能性も否定できない。

 そう考えればミズキが考える様に知られないに越したことは無いわけだな。


「まあ、そんなわけで私は人間に存在を知られたくないのよね」

「それなら確かにしょうがないかもなぁ」

 でだ、結論としてはそう言う理由なら確かに隠しておいた方が良いかなと俺も思う。

 正直な所この前の三馬鹿みたいな連中に知られると、絶対に面倒な事になるしな。

 それにタックスさんは立場上ミズキの事を知ったら報告せざる得ないだろうし。


「ま、そんな訳だからこの先も上手く誤魔化しておいてね」

「そこは丸投げかい……」

 そしてミズキは壁の隙間を通り抜けてどこかに行ってしまった。

 そこは丸投げしていい所じゃ無いと思うんだけどなー

次回からはちょっと時間が飛びます

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