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第66話「南瓜と徴税官-2」

「リーンの森の中に出来た新しい村に行ってほしい」

 クヌキ伯爵様からそう言われた時、私……タックス・ホワイトアイは気が遠くなるかと思った。

 リーンの森と言えば百年以上の間様々なものによって我々人間の立ち入りを拒み続け、やっとの思いで作れたのがマウンピール村と言う森の内外の境界線上に作られた村なのだ。

 そんな中で森の中に出来た村に行けと言う命令……伯爵様は私に死ねと言っているのだろうか……いや、伯爵様の事だ。きっと何か考えがあるに違いない。と言うか有ってください!いくら名ばかり貴族の三男坊でも死ぬのは御免なんです!


「そんな顔をするな。資料はこっちに用意してあるし、村の住人達の実力は確かだ。君ならば何の問題もない」

「だといいのですが……」

 と、そんな私の感情を察したのか伯爵様は数枚の紙を取り出しつつも労いの言葉を掛けてくださる。

 くう……そんな言葉を掛けられたら行くしかないじゃないですか……元々、階級上断る選択肢は存在しないですけど。


「まあ頑張りたまえ。上手くいけば大出世だ」

 そうして私はリーンの森の中に新しく作られたサンサーラエッグ村と言う場所に派遣される事になったのであった。



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「「「歌エヤ、騒ゲヤ、楽シンダ者ガ勝者ダ、ホイ♪」」」

「「「ブンブブ、ブンブブ、ブブブブブ、ブン♪」」」

「……」

 そして現在、私の前では南瓜頭の新しい種族であるスパルプキンたちと人間と協力関係を築くことは有っても共に暮らすことは無いとされているはずのハンティングビーたちが炎を囲む形で踊っており、私はその光景に絶句していた。


「楽シンデマスカ?」

「あ、ああ」

 私はいくらかの野菜とクロイングボアの肉が入ったスープをたしかレイギと名乗っていたはずのスパルプキンから受け取りつつそう返事をする。

 いや、実際の所、私が絶句しているのは目の前に広がる光景だけではない。

 私が驚いたのは彼らスパルプキンの力もだ。


「デハ、コレニテー」

「ど、どうも」

 彼らスパルプキンは身長1m程と言う小柄な種族であるにも関わらず私一人では決して持ち上げられないであろう角材を持ち上げる力に、加工が難しいとされる植物を使った武器をあっという間に作り上げる技術力、そして私が住むための建物を半日にも満たない時間で作り上げてしまうスピード、加えて数人でクロイングボアを難なく倒すだけの戦闘能力を彼らは有していた。


「ズズッ……」

 私は木製の器に盛られたスープをすする。殆ど素材そのものな素朴な味が口の中に広がる。

 正直な所、私はこれらの事実に恐怖すら覚える。

 なにせ今は友好的な関係を築けているし、数も少ないからいいが、この先その数を増やしていった後に反旗でも翻されたらと思うと……。

 いや、だからこそ私の仕事が大切になるのだろう。

 私は税務官としても来ているが、スパルプキンと言う種族を調査する役割も持たされている。

 彼らを正しく理解し、彼らと良い関係を築く。そうすれば今している心配も杞憂に終わるはずだ。


「よ、楽しんでるかい?」

「ブンブブブ(こんばんは)」

「ああ、パンプキンさんに女王蜂殿ですか」

 と、ここでこの村の村長であるパンプキンとこの村に住むハンティングビーたちの女王蜂がパンプキンの頭の上に乗っかる形でやってくる。


「ええ、楽しんでいますよ」

「そりゃあ良かった。貴方の歓迎会も兼ねていましたから」

「ははっ、そうですか」

 私の答えに満足したのかパンプキンは顔の穴を器用に歪めて笑う。

 後で聞いた話だが、つい先日起きた地震の原因は彼の魔法だそうであり、彼の使う魔法について調べることも私の仕事の一部として含まれていたらしい。

 と言っても詳しく説明されてもまるで理解できなかったが。


「実際の所、この村も俺たち自身もまだまだ手探り状態なんですよね……何が出来て何が出来ないのか。それすら分からない」

「はあ……?」

 パンプキンはどこか遠い目をしながらそう言う。

 伯爵様から貰った資料によればスパルプキンと言う種族は去年の夏に生まれたそうなので、それを考えれば彼の言葉にも納得できるものはある。


「だからこそ俺としてはタックスさん、貴方にも期待しているんですよ」

「?」

 私はパンプキンの言葉に首を捻る。

 彼ほどの実力者が一体私に何を求めると言うのだろうか?私に出来て彼に出来ない事なんてまず無いと思うのだが……


「最近気づいたんですが、俺は色々と常識が無い様でして、俺の子供であるスパルプキンたちもそんな俺の影響なのかどうしても常識に疎いんですよ」

「だから私に期待すると?」

 それはつまり私は常識人役と言うわけですか……?

 何と言うか喜んでいいのか悲しむべきなのか……。


「ついでに言うとリーダーとこの場には居ませんが、もう一人の舵取り役もどちらかと言えば常識が無いんで、さっきは『常識に捉われないでください』と言いましたが、常識関連は本当に貴方頼み何ですよ」

「ブブ、ブブブブブー(まあ、私は所詮は蜂ですし)」

「そう……ですか……」

 ああなるほど……私は常識人役なんですね……でも『常識に捉われないでください』とも言われた事を考えると中々に辛そうな立場になりそうですね……。

 それともう一人の舵取り役というのは……?


「じゃ、適当なところで切り上げて休んでくださいな。今日は移動で疲れているでしょうしね」

「ブンブブー」

「あっ……」

 と、私がもう一人の舵取り役とやらについて聞こうとする前にパンプキンは去って行ってしまった。

 ただまあ、この先時間はたっぷりあるのだ。その辺についてもゆっくりと調べていけばいい。

 そして私は今は祭りを楽しむべきだと思って、素直に祭りを楽しみ始めたのだった。

常識が無い村で常識役を求められるタックスさんェ……


あっ、エイプリルフールだからと言って特別なことは有りませんよ。平常運行です。

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