前へ次へ
64/163

第64話「冬駆け南瓜-1」

 冬が来た。

 当初の予想では植物に近い俺たちスパルプキンにとってはリーンの森の冬は厳しく、前準備をしっかりとしなければ冬を越せない個体も出るのではないかと俺は思っていた。


「雪ダルマー」

「雪ガッセーン」

「雪カキー」

 が、実際には凄く元気にはしゃぐスパルプキンたちの声が家の外から聞こえてくる。


「……ふう」

 いやまあなんて言うかね。

 当初の予定をいい方向に裏切ってくれたのはありがたいんだけど、それ以上にやるせないと言うか何と言うか……まあいいか。

 問題なく越せそうなんだから気にしないったら気にしない。


 なお、冬を越せるようになった要因としては秋の内にきちんと藁を基本とする保温素材に焚火で燃やすための木材をしっかりと集めていたことや、建物を立て直して防寒対策をしていた事。加えて基礎修行をしっかりとこなさせることによって魔力量を増やしたのが大きいだろう。

 ちなみに魔力による自己強化についてはスパルプキンたちが使っているところを確認して調べたのだが、どうやら単純な筋力増強や敏捷増強の他にも現在居る環境に合わせて耐熱性や耐寒性を向上させることも出来るらしい。

 尤も、そう言った通常強化しない部分を強化すると代わりに普段強化している部分の強化度合いが落ちるのだが、これに関してはしょうがないと言う他無いだろう。

 問題なく過ごせるだけで御の字なのだ。


 ところで、リーダーたちハンティングビーについてだが、冬の間はほぼ巣に籠りっきりの予定である。まあ、虫だからしょうがない。


「まあいいや、冬の間に研究を進めちまおう」

 ただ、冬の間は先ほど言った理由から身体能力が落ちるため、スパルプキンたちも基本的にはサンサーラエッグ村の外には出ずに村の中で雪遊びや農作業(大根とか白菜な)に専念し、どうしてもと言う時は俺が付き添いをする前提で集団になって行くつもりである。

 と言うわけで村の外に出る必要が無い時は村の中で共鳴魔法の研究に専念することとする。


「まずはネムリ草関連のだな……」

 俺はこの一年間実験をして書き連ねた【共鳴魔法・ネムリ草】に関する資料を読み返しつつ纏めていく。

 さて、まず【共鳴魔法・ネムリ草】についてだが、これの基本効果は催眠作用を有する霧を発生させると言うものである。

 この催眠作用は一株そのまま使用した場合は攻撃を当てた時点で目が覚めてしまう程度だが、ネムリ草を加工したものを触媒として使用すれば手順が複雑化する代わりに効果が強化されるという事が分かっている。


 で、ここで疑問が一つ。

 加工することによって共鳴魔法を使用した際の効果が変わるのならば、採取時期や方法、部位、場所、保存方法、期間、場所etc.と条件が変化することによって効果が変化するのではないかと言う疑問が俺の中で発生した。

 ただまあ、野生の植物である以上は当然ながら完全な画一化は難しいので、現状では大体の方向性を見極める程度の考えで実験を行い、正確な差を見極めるのはサンサーラエッグ内にネムリ草専用の農場でも作ってある程度品質を一定化させてからとする。

 なお、品質の一定化については言うまでも無く相当の時間がかかるのが前提の話なのでこの件についてはここまでにしておく。


「えーと、結果を見る限りではやっぱり花が一番効果が高くて、次点が根か」

 で、実験の結果だが、まず効果が一番高くなるのは梅雨明け頃に咲く花を乾燥させて丸薬化したものであり、そのまま飲ませても全身麻酔として使えるレベルであり、共鳴魔法の触媒として使うなら最早スリープクラウドどころかデスクラウドとでも呼んだ方が良さそうなレベルであった。

 ただ、唯一の救いとしてはネムリ草の花を乾燥させる場合は時期を見極めて現状では俺以外には難しいレベルの加工をしなければ効果が大きく落ちる上に、そうして加工した丸薬もさほど日持ちせず、共鳴魔法を発動させるための魔力パターンも複雑であると言う点だろうか。

 もしこれで誰にでも加工出来て使えるようだったら最悪ネムリ草を一本残らずこの世から抹消するか禁術指定をかけてたぐらいだ。


 で、次点としてはネムリ草の根を乾燥させたものを元にした丸薬の効果が高かった。

 こちらについては根を掘り出してしまうために次が生えてこないと言う問題点が存在するが、代わりに加工難易度や魔力パターンの複雑さは控えめであるし、一年中ほぼ変わらない効果を期待できる。

 加えて効果自体もよほど大きな傷を負わない限りは目を覚まさないレベルなので、実戦で使うのならこのレベルで十分かもしれない。

 うん。次が生えてこないのも、手軽過ぎるのも拙いという事で秘匿することにした。


 最後に季節による差だが、こちらは葉を触媒とした場合に限って話を進める。

 で、結果として言えば効果の高さは花を咲かせるのに備えて成分を蓄えているのか梅雨の時期が最も効果が高く、春と夏がそれに続き、冬が最も効果が低いと言う結果になった。

 まるで旬である。と言うか、【共鳴魔法・胡瓜刀】とかの事を考えると本当に旬は有るのかもしれない。


 なお、効果が高い程共鳴魔法を発動させる際の魔力パターンが複雑化していく傾向にあるようなので、今後スパルプキンの中で共鳴魔法を学びたい者が出た場合はまず基本として効果が安全な薬草か冬か秋に採取したネムリ草の葉で学ばせるべきかもしれない。


「ま、いずれにしてもまだまだ資料不足だな」

 ただ、単純に研究成果をまとめるにしてもスパルプキンたちに教えるにしてもまだまだ資料不足なので、今はとにかく研究を進めるしかないだろう。

 春になったらまた色々と面倒な事態が起きる気もするし、冬の間に出来る限り進めたい所ではあるな。

やっぱり旬がありましたとも


03/30誤字訂正

前へ次へ目次