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第6話「森の中の南瓜-5」

「これでよしっと」

 卵型の岩を拠点と定めてから十数日ほど経過した。

 その間俺は昼の内は動物を狩って血を吸う事で自分を強化しつつ燐光を放っている物体や拠点の材料になりそうな物品を回収したりし、夜の内は休息だけでなく燐光を操る特訓に集めた物体の使い道の研究、それに拠点設営の試行錯誤を行っていた。


「いやー、初めてにしては……」

 で、今日になって出来上がったのが今俺の目の前にある試作型の拠点。


「初めてにしては……」

 丸太同士を組み合わせてテントの様な形にし、植物の蔓で固定した拠点。


「初めて……」

 俺が拙い知識とこの身一つで作り上げた初めての拠点。


「ああうん……やっぱ何度見てもボロいわ……」

 ぶっちゃけそれはこの上なくボロかった。

 正直に言って雨風を防ぐ役割は果たせるだろうが、その役割も雨風が強くなれば吹き飛んでしまいそうなボロさである。

 くぅ。せめて、せめてナイフの一本でもあればもう少しまともな物を作り上げる自信はあると言うのに……やっぱり転生チートなんて無かったんや!カボチャだから当然だけど!!


「まあでも、こうして作り上げるのはいい訓練になったし、次はもうちょっとマトモな家を建てられるようにもっと体を鍛えておくか」

 俺はそう言いながら手に気合を込めて燐光を集める事で蔓の強度と硬度を上昇させる。

 現在の俺はそこら辺に生えている普通の木を何度も叩くことでへし折ったり、猪の皮の防御能力を貫ける程度には蔓を強化できるようになっている。

 ここまでの強化が出来るようになったのはやはり毎日毎日欠かさず燐光を手に集めては猪を始めとする森の動物たちと戦っていたからだろう。

 慣れと経験はやはり偉大だ。

 なお、蔓を一本だけ強化して錐の様にする技も有るが、こちらはまだまだ強化不足のため目のような柔らかい箇所を相手にしたり、時間をかけられる時ぐらいにしか使えない。

 もしこれで楽に木に穴を開けられるようになれば、その穴を利用することで色々と加工ができるようになるんだけどな。


「じゃ、朝のラジオ体操はじめー」

 と言うわけで全身に強化を施した状態を維持しつつ、一時的に足を作ってうろ覚えなラジオ体操を始める。

 いやうん。巨大な卵形の岩の前でカボチャが踊ってる光景とかシュールレアリズムの極みな気もするけどラジオ体操って凄いんだよ。全身の筋肉を余すところなく使うから凄く訓練効率が良くなるんだから。

 ついでに言うと独り言が多いのもしょうがない。だって話し相手とか誰も居ないし。

 森の中に時々猟師と思しき村のおっちゃんが入ってきたりもするけど最初の反応とか、俺が仕留めた動物の死骸を見た時の反応から察するに姿を見せたら間違いなく攻撃されるだろうし。

 つまりだ。独り言が多くなるのも暗くなるのもラジオ体操を踊るのも全て皆一人なのが悪いんだよ!


「うし。ラジオ体操完了っと」

 で、考え事をしている間に一通り踊り終わったので、今日の探索に出かけるとしよう。

 ちなみに狩りと言わないのはこの身体は生きていくだけなら水と日光と多少だが土から養分を貰えば生きられることがこの数日の間に判明したためである。

 なので狩りは襲えそうな動物が居ただけにして、基本的には燐光を放つ物体や拠点設営に使えそうな素材を集めることを優先している。

 未だに燐光を放つ物体の使い道は分からないけどな。


「それじゃあ行ってきます。っと。ヒュロロロ……」

 そして俺は何となく卵形の岩に祈りを捧げてから森の中へと飛んで行った。




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「む、お前か」

「ブモッ」

 森の中を探索していた俺の前に一頭の猪が現れる。

 この数日間の内に何度か遭遇して分かったことだが、この猪は非常に執念深く、一度ターゲットとして認識されてしまうと何処まで逃げても追いかけてくると言う厄介な性質を持っている。

 そのためこうして一度出会ってしまうと後は倒すしかないのである。


「くっくっく……だがしかし今の俺は貴様が狩れるほど弱くは無いぞ」

 俺は全身に力を込めて強化すると共に手の平の上に燐光を集めて保持する。


「ブモオオオォォ!」

 猪は強化された俺の気配を感じ取ったのか若干躊躇うような素振りを見せる。が、すぐにその躊躇いを捨てると俺の手に若干の注意を向けつつも突進を仕掛けてくる。

 が、俺はそれを横に飛んで回避すると手の平を猪の横っ腹に向ける。


「喰らえ!」

「ブモッ!?」

 そして手の平に集めた燐光を開放。発生した突風を猪の横っ腹に当てることで、猪をよろめかせる。

 これぞ名付けて【ガストブロー】!

 現状の威力は俺のパンチ一発分にも及ばない威力しかない癖に一日に数度しか撃てないが、それでも相手の急所に当てれば後からじわじわ来たり冷静さを奪ったりする程度には威力がある俺が習得した技である!


「フシュルルル……」

「ふふん」

 効果が微妙だって?

 現に俺の前に今居る猪は不可解な一撃を受けたためなのか苛立っていて、今すぐにでも突進を仕掛けてきそうな気配を漂わせているじゃないか。

 ぶっちゃけ【ガストブロー】の役割は牽制だから十分に役目は果たしている。


「ブモオオォォ!!」

 猪が俺に向かって突進を始める。

 が、その動きは【ガストブロー】によるダメージの為なのか最初に比べると微妙に遅い。


「冷静さを失わせればこっちのもんだ!」

「ブモッ!?」

 俺はこのチャンスを見逃さずに猪の脚の一本に蔓を絡ませるとそれを一気に引っ張って猪を転倒させる。

 そして転倒させた猪に馬乗りになると目に向かって強化した蔓を突き刺して一気に血を吸い取って絶命させる。


「ふっふっふ。完全勝利だ」

 俺は猪が死んだ事を確認すると牙を剥ぎ取ってからその全身を拠点に持ち帰ることにした。

 猪の死体をどうするかは最近ちょっと燐光を放っている部分以外の使い方も思いついてきたのでそちらに使う予定である。

 そして俺は森の上を飛んでいくことで拠点へと楽に戻っていった。

拠点なんて作れませんよ?

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