第54話「南瓜の村-1」
「ゾクチョー、イエタテター」
「お疲れさん」
スパルプキンと言う名を彼らに与えてから一月が経ち、現在俺たちは俺が拠点としていた卵形の岩を中心に住処とするための住居を森を切り開きつつ建てている。
いやー、この一月は本当に大変だった。
まず名前を付けた翌日はミズキへとスパルプキンたちの紹介をしたのだが、ミズキの姿を見て理由は様々だがとにかく騒ぐスパルプキンたちを抑えるのは大変だった。
ちなみにミズキ曰く「パンプキン個人を助けるのは問題ないけど、スパルプキンと言う種族全体を助けるのは精霊としては問題になるだろうから頑張ってね」とのこと。
で、そんなミズキの言葉に応えたのかどうなのかは分からないが、スパルプキンたちは転生してきた頃の俺と同じく森の魔獣たちに狙われやすいという事が判明したため、一先ず防護柵を拠点の周囲に張り巡らした後に最低限5人で一匹の猪を無事に狩れる程度には鍛え上げてやる事になった。
なお、装備については森の植物を利用した木剣や盾等を作って与えているのだが、こちらの細工に近い作業についてはスパルプキンたちに教えたら既に何人かが適性を見せ始めている。
こちらについてはその内任せきりにしてもいいかもな。
そんなこんなでスパルプキンたちを鍛え始めてから三日ほど経った頃。
今度はヨサックさんとクレイヴたちがこの間の【共鳴魔法・核南瓜】の余波として発生した揺れに関する事情聴取の為にやってきたため、俺はスパルプキンたちの修行を見つつ質問に答えることになった。
以下、その時の流れ。
「おーす。パンプキン。この間の揺れはお前の仕業だったらしいな」
「クレイヴか。言っておくがわざとじゃねえぞ。三馬鹿が原因の根本だ」
「分かってる分かってる。ただ、一応はお前からの証言も得ておかないといけないんだよ」
「ふうん」
「ちなみにその小さいお前によく似た生物は?」
「スパルプキンって言って一応は俺の子供みたいなもの。現在、森の中でも生きれる最低限の実力を付けてやっているところ」
「「「アイー!」」」
「なるほどな。じゃあ、その辺も含めて証言頼むわ」
「了解っと」
と、こんな流れが有って三馬鹿がクヌキハッピィ冒険者協会から追い出されることが確定した上に書類偽造の罪から指名手配となり、その翌日にはスパルプキンたちの安全を確保した上で俺はタンゴサックとコウゾー爺さん(クレイヴ経由でだが)にスパルプキンの事を紹介することとなった。
うんまあ、ここまではそこまで大変じゃなかったんだよ。
問題はここから。
「イノシシー!」
「マタキター!?」
「落ち着いて教えた通りに戦え!そうすれば大丈夫だ!」
「「「アイアイサー!」」」
「ブモオオォォ!!」
一頭の猪が防護柵の一部を壊して拠点の中に入ってくる。
どうやら思い返している間にまた来てしまったらしい。
「ブモオォォ!」
「「ヌグウゥ!」」
猪の突進を二人のスパルプキンが自分の身体よりも大きな盾を使って受け止め、猪の動きを止める。
「カカレー!」
「「「タマトッタラー!!」」」
「ブモッ!?ブモオッ!?」
そして猪の動きが止まったところに武器を持った他のスパルプキンたちが殺到し、その体……特に頭に向かって何度も身体強化を施した状態で武器を振り下ろしていく。
最初のころから考えると随分と手慣れたものだが、実を言えば今回の襲撃で通算で20回以上は襲撃があった。
「カッタドー!」
「ふう。何とかなったか」
スパルプキンたちが撲殺された猪の上で勝鬨を上げると共にその体を身体強化を得意とする個体が蔓で解体していく。
さて、何故これほど襲われるのか。それにはもちろん理由がある。
先ほども言ったと思うが、スパルプキンたちは転生した直後の俺と同じように狙われやすい。それは戦闘能力の割に高い魔力を有していたり、果実として甘い匂いを出してしまっているのが原因であるが、原因とかそんなもの関係なしに襲われるのは事実であり、襲われるのが事実である以上は生き残るためにその身を鍛え上げるしかなかった。
そしてこれだけ頻繁に襲われているためにこの一月は大変だったわけだ。
「ゾクチョーヤリマシター」
「おう。見てたぞ。だいぶ強くなったみたいだな」
一人のスパルプキンがこっちに近づいてきて嬉しそうに踊る。
さて、この一月ほど観察していて分かったことだが、スパルプキンたちは結構個体ごとにその精神性に差が有る。
具体的には女の子っぽい個体や男の子っぽい個体が見た目とは関係なく普通に居る。
と言うわけで身体的な性差が無いからスパルプキンの性別は精神の方向性で見極めた方が良さそうである。
で、怒りんぼうの子やせっかちな子、それ以外にもおおよそ人間として有り得る精神性は大体持ち合わせているようなので、クレイヴからも言われているが何れクヌキ領の領主に挨拶をしに行くときには出来るだけ大人しい子を選ぶなどの工夫も必要かもしれない。
「ま、とりあえず夏の間に色々と準備はしないとな」
季節は梅雨が明けて夏。
今後の事を考えると休んでいる暇はなさそうだった。
村建設中