第48話「竜と南瓜-4」
「あれか……」
「グルアアアァァァ!!」
リーンの森を飛行する俺の視界にミズキから聞いていたエントドラゴンの特徴……木目の鱗に木の枝の様な複数の角、そして金属質の牙と爪を持ち、背中からは一対の蝙蝠の様な翼を生やした体長10m以上は確実にある巨大な蜥蜴が映る。
現在進行形で咆哮を上げつつ何かを追いかけていることから考えてもアレがエントドラゴンで間違いないだろう。
と言うか、逃げてる連中が向かってる方向にマウンピール村があるとか最悪だな。
「くそ!こんな無茶苦茶な化け物だとは聞いてねえぞカラムジ!!」
「俺に言うんじゃねえよモノキオ!そう言う事はトリリスに言え!!」
「元々あっしは止めておいた方が良いって言ったじゃねえっすか!」
で、エントドラゴンに近づいていくとそんな声が聞こえてきた。
そして同時に見えてきた魔力の色からして声の主はリザードマン、ヒューマン、バードマンの三人組だろう。
何となくだが聞き覚えのある名前のような気もするが、それはさておいてコイツらがエントドラゴンを起こした馬鹿なんだろうな。
うん。まとめて吹き飛ばしてもきっと事故か誤射で済まされるよね。大丈夫大丈夫。
怒ってません。ええ、怒ってませんとも。
「ミズキ」
「言われなくても」
俺の言葉を受けてミズキが上空に移動して周囲の雨も利用しつつ魔力を集め始める。
で、それと同時に俺も【レゾナンス】を発動しつつ魔力球をいくつも形成する。
「お前ら!巻き込まれたくなけりゃあ逃げろよ!!」
「「「なっ!?」」」
「グルッ!?」
そして、エントドラゴンの注意を惹き付けつつ、吹き飛ばした際の大義名分を得るために一応の注意喚起をしてから……
「【トルネイドブラスト】!!」
「!?」
「「「のわあああぁぁぁ!!?」」」
魔力球を一斉に起動して風の流れを渦巻き状にすると共に風力そのものを大幅に強化した【ガストブロー】……まあ、区別するために【トルネイドブラスト】と名付けたそれを発動。
発動した【トルネイドブラスト】は俺とエントドラゴンの間に有った木々と三人……いや、三馬鹿でいいや。三馬鹿を薙ぎ払い、吹き飛ばしつつエントドラゴンに向かい、エントドラゴンの巨体を僅かだが来た方向へと押し返す。
「よくぶっ飛んだなぁ……さて」
「グルルルル……」
はるか遠方に三馬鹿が吹っ飛んでいくのを魔力の気配で感じ取りつつ俺はエントドラゴンに真正面から相対する。
エントドラゴンは俺の【トルネイドブラスト】を真正面から受けたはずなのだが、腹部の鱗が僅かに傷ついた程度で魔力にも呼吸にも乱れは見えない。
むしろ今の一撃で俺を全力で相手するべき存在だと認識させてしまったのか油断や慢心の気配も無くなってしまい、何時でも本気の攻防を繰り広げられるように体の準備を既に整えてしまっている。
いやはやまったく。油断してくれれば嵌め殺して楽に終れたかもしれないんだがなぁ……まっ、敵を前にしてもしもを考えてもしょうがないか。
それにだ、
「降り注ぎなさい!」
「!?」
上空からミズキの声が周囲に響き渡ると同時にエントドラゴンの頭上から無数の水で出来た刃が降り注ぎ、俺に対して全神経を集めて集中していたエントドラゴンに対して不意打ち、その身体を少しずつ傷つけていく。
ご覧の通り俺は一人ではない。よって俺にだけ注目して防御の方向性を固めていると範囲を重視して威力が多少控えめな攻撃でも十二分に通るようになる。
この辺りは魔力の特性上の問題だろうな。詳しい原理は分からんが。
「『グルアアアァァァ!!』」
「ちっ……」
「ふむ……」
と、ここでミズキの攻撃に耐えかねたのかエントドラゴンが魔力を込めた咆哮を上げてミズキの魔法を強制的に終了させる。
ただまあ、ミズキは悔しそうにしているがここまでの攻撃は十分に目的を達成しているな。
具体的には最初の俺の攻撃でエントドラゴンの進撃を止めると共に注目を集め、ミズキの攻撃で身体の何処が弱いかを探る。
そしてミズキの攻撃の成果として翼の皮膜部分や四肢の関節部、それに目などの感覚器が弱いのが分かった。これだけ分かればどこから攻めるべきなのかもわかるだろう。
「ミズキ。予定通り行くぞ」
「分かったわ」
「グルル……」
エントドラゴンは俺とミズキの姿を捉えつつ様子を窺っている。ただ、周囲への警戒もしている辺り先ほどのミズキの不意打ちで懲りたらしい。
うーん。意外と学習能力が高いな。まあ。問題は無いが。
「グ……」
「!」
「来るぞ!」
と、ここでエントドラゴンの喉と頬が大きく膨らみ、口に大量の魔力が集まるのを見て俺とミズキは同時に別の方向に向かって全力で飛行を始める。
「ラアアアアアァァァァァ!!」
そして先程まで俺たちが居た場所に向かって放たれる膨大な量の光と音。その正体は……言うまでもないエントドラゴンのサンダーブレスだ。
本来なら雷と言うのはまさしく光速で迫りくる物であり、俺としては避けられるのか不安だったのだがそこは魔法によって生み出された雷の為に微妙に性質が異なるようでそこには安心する。と言っても普通の生物なら逃げる間もなく黒焦げにされるであろうスピードなのは確かだが。
「ガアアァァァ!!」
「ヒュロロロォォ怖い怖い。【
「ガッ!?」
と、考え事をしている間にもエントドラゴンはそのまま首を回して俺にブレスを当てようとしてきたため、俺は高速飛行でそれを回避しつつ持ち込んだ触媒の一つである茄子に規定順序で魔力を流し込んで【共鳴魔法・茄子刃】を発動。
ブーメランの様な形状になった茄子がいくつもエントドラゴンの顎に向かって曲線軌道を描いて飛んで行き、当たった衝撃によってエントドラゴンの口を無理やり閉じさせて自爆させる。
「グガガガガ……」
「ヒュロロロォォ……さあて今日の俺は一味も二味も違うぞ」
エントドラゴンが俺の方を睨み付けてくるが、俺もそれに対抗して魔力を放って威圧しつつ睨み付ける。
さあて、ブレス単発じゃどうしようもない相手にどう対応してくるかね……
三馬鹿再び、されど一瞬で飛ばされる。