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第40話「帰って来た南瓜-3」

 さて、美味しい水のため……じゃなくてミズキの為に水路掘りを始める訳だが、折角なので修行だけでは無く研究も進めることにする。


「そんなわけでまずは甘い匂いっと」

 俺は蔓を何本か周囲に出してその先から魔力を込めて多少甘くした露を出す。

 そしてその露を【ガストブロー】によって周囲一帯に撒き散らす。


「じゃ、獲物が来るまでの間に準備をしておくか」

 で、匂いに誘われて哀れな獲物がやってくるまでの間に俺は予め決めておいたポイントに直径30cm、深さ4~5m程の縦穴を掘っておき、穴の形に合わせて削った木で蓋をしておく。


「「「チュー!」」」

「ブモオォ!」

「シャアアァ」

「おお、来た来た」

 穴を掘り終ったところで俺は周囲に目をやる。

 すると全方位から甘い匂いに誘われて大量の動物たちがこちらに迫って来ているのが見えた。

 その中に今回の目標とする動物は……ああうん。居るな。他の動物もだいぶ多いが。となるとこうするのが正解か。


「【共鳴魔法・ネムリ草】」

「「「チュ……」」」

「ブモッ……」

「シャ……」

 俺の手の中のネムリ草が霧に変化して俺の周りを覆い、そこに突っ込んできた動物たちは次々に深い昏睡状態に陥っていく。


「さーて、邪魔な奴は仕留めておくか」

 そして突っ込んできた動物たちが一通り眠ったところで、今回の目的であるアンレギラット以外の動物たちは頸動脈に根を突き刺して吸血して仕留める。

 で、仕留めた動物たちはすぐに解体して皮は肉と脂を削いで腐らないようにし、骨は後で色々使うために綺麗に肉を削いで積み重ねておく。最後に肉については焚火を利用して作った素焼きの壺の中に放り込んでいく。ちなみに壺の中には俺の魔力を込めた葉も一枚入れておく。

 どうしてこんなことをするのかって?

 いやー、何かしらの研究に使えるかな?と思ってね。

 なお、例の血インクの反省を生かし、壺の中身を数日に一度魔力を込めつつ壺の中をかき混ぜることによって闇の魔力が集まり過ぎて妙な事態が発生しないようにはする。

 リョーコさんの件で分かってはいるけど呪いって本当にヤバいしな。


「ゲプ。始末完了っと」

 で、邪魔な動物たちの始末が終わったところで実験開始である。

 えー、まず今回の実験内容だが、輸魔力に関する実験である。

 輸魔力についてはプレインさんが俺から聞いた話を元に色々やってくれているみたいだけど、まだまだ情報が少ないし、経験も足りない。加えて言うならどのくらいで生体【オーバーバースト】が起きるのかも分からないのでその辺りの調査も兼ねてます。


「てなわけでケース1」

「チュー!?」

 俺はアンレギラットの口の中に無理やり蔦を入れ、魔力をゆっくりと注ぎ込んでいく。

 すると魔力を注ぎ込まれたアンレギラットの全身から大量に緑色の魔力が漏れ出ると同時にアンレギラット自身の赤い魔力が本当に少しずつその量が増えていく。

 そしてアンレギラットの魔力が元の2~3倍程度になったところで魔力量の増加が止まって注げば注いだだけ魔力が漏れていくようになる。


「ふむ」

「ギュッ!?」

 と言うわけでケース1の結果。

 経口投与の場合は身体の方が自動的に魔力の摂取量を調整する模様。

 よって時間はかかっても安全に魔力量を増やしたいなら経口投与が良い事になる。

 どうしてこうなっているかについては……まあ当たり前の話だな。要するに魔力が籠っていて美味しい飯を食うとその飯から魔力を得て魔力量が増すのと同じだ。

 となれば俺が普段やっている吸血も同じ原理で魔力の量を増している可能性が高いな。


「ケース2!」

「チュー!?チュウウゥゥ!!」

 そんなわけで実験をどんどん進めていくわけだが……とりあえず結果をまとめてしまうとだ。

 まず魔力量を増す方法は大きく分けると修行による自然増加、魔力が籠った物を食べる、無理やり注ぎ込む……つまりは輸魔力の3パターンに分けられる。

 なお、魔力増加の効率は修行<食事<輸魔力の順である。


 で、輸魔力については無理やり注ぎ込んでいるためなのか魔力の色……つまりは属性が異なると少量の魔力ならともかく大量の魔力を注ぎ込むと様々な問題が発生してくる。

 具体的に言えば火属性の魔力を持つアンレギラットに対して俺の土属性の魔力を注ぎ込むと、その量がアンレギラットの魔力総量の半分までは多少気分が悪そうなだけなのだが、半分を超えた時点で徐々に体調が悪くなり始め、魔力総量の3倍以上になると痙攣などを起こし始めて気絶する。

 恐らくだが実力が下の相手に対して大量の魔力を叩き付けることによって気絶するのはこの辺に近い原理が関わっているのかもしれない。

 とりあえず、この現象に関しては通称で『魔力酔い』と呼んでおこう。

 ま、ここまでは問題ない。問題はここからだ。


 魔力総量の10倍以上の魔力を無理やり一度に注ぎ込まれた場合だが、その場合は昏睡状態に陥った後に死亡する。

 ただ、10倍と言ったが実際には魔力を注ぎ込む時に込めた念次第ではもっと少ない量で死んでしまったり、逆にもっと多く注ぎ込んでもギリギリ生き残ったりもする。

 この辺りは魔力を注ぎ込まれるアンレギラット自身の体調や魔力量なども関わってくるので厳密に調べるのはまだまだ時間がかかりそうである。

 とりあえず確かなのは相手を害そうと思う念……つまりは邪念を込めた方がより少ない量の魔力で害すことが出来、助けたいとか救いたいとかそう言う念を込めるとどちらかと言えば安全に魔力を渡せるという事ぐらいか。


「最終実験~♪」

「…………(ガクガクブルブル」

 さて、最後の実験は生体【オーバーバースト】の発生条件と発生させた場合の威力である。


「心配するな。どういう結果にしろ一瞬で楽になる」

「チュアアアァァァ!!?」

 アンレギラットがすげえ怯えているがそんなものは無視である。技術の進歩に犠牲はつきものなのだ。

 で、今までの感覚からしてそうだな……100倍も送り込めば【オーバーバースト】が起きるだろ。

 と言うわけで【レゾナンス】を起動して大量の魔力球をアンレギラットの周囲に生み出す。


「ふん!」

「チュゴ!?」

「これは……ヤバい!」

 【レゾナンス】で強化した魔力を送り込んだ瞬間アンレギラットが吐血し、表皮が嫌な感じに泡立ち始める。

 それを見て俺は急いで最初に掘った穴の中にアンレギラットを放り込むと蓋をする。


「ヒュロロロォォ!!」

 そして全力で飛行して上空に離脱。

 で、俺が離脱した直後……


ドオオオオオォォォォォン!!


 周囲一帯を大気ごと震わせるような轟音とともに巨大な土柱が吹き上がり、辺り一帯が土煙に覆われた。

 で、その光景を見た俺は……


「なんて言うか……うん。すまんかった」

 とりあえず今回犠牲になったアンレギラットたちと巻き添えを食った動植物達に手を合わせるのであった。

アンレギラットでこの威力です


大体の結果をまとめると

アンレギラットの元々の魔力を1とした場合

×0.0~0.5:変化なし

×0.5~3.0:体調悪化

×3.0~10.0:痙攣、昏倒

×10.0~100.0:昏倒後死亡

×100.0~:【オーバーバースト】

になります。

でも、まだまだ研究の最序盤だから色々と数字が動く可能性は高いです。

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