第23話「春の南瓜-4」
「じゃ、街に向かいながらお互い自己紹介と行こうか」
「あっ、はい」
俺は少女を地面に降ろすと遠くに見えている街に向かって歩き出す。
「俺の名前はパンプキンって言うんだが君は?」
「私はリオと言います。先程は助けていただいてありがとうございます」
「ああそれ?良いって良いって、こっちにも打算は色々あるし」
「そ、そうなんですか?」
少女改めリオが俺の方に顔を向けて礼を言うが、俺としては助けてもらった恩をこの後色々な形で返してもらう気満々なのでそうそつなく返しておく。
まあ、そんな俺の言葉にリオは微妙な顔をしているが気にしないでおく。
打算も無しに助けるほど俺はお人よしじゃないしなー
「えーと、それでパンプキンさんは……」
リオが言い淀みつつ俺に対して色々と訊きたそうにしている。
まあ、色々と訊きたいことは有るよな。俺ってばこの見た目だし。
ただ、変な所に突っ込まれても困るしここは誤魔化すか、押し切るか……ふむ。押し切るか。
「俺は旅の見習い魔法使いなんだよ」
「は、はあ」
「ただ、旅の途中で妙な魔獣に遭遇して変な魔法を掛けられてこんな姿に変わってしまったんだ。姿を変えられてからはそれはそれは大変だった。人間だった頃とは身体の使い勝手がまるで違っていて最初は立つこともままならなかったし、苦労して覚えた魔法や道具の知識は失い、挙句の果てに放り出されたのは凶暴な魔獣が跋扈する樹海のど真ん中!それでも必死の思いでこの身体での戦い方を学び、魔獣と勘違いして襲ってくる人間たちから逃げ、やっとの思いで生活を安定させていったのさ!」
「…………」
「大変だった。本当に大変だった。生活が安定するまでは何度も命の危機は覚えたし、実際死ぬ寸前まで追い詰められたことだってあった。だが諦めなければ何とかなる!そうして生活を安定させた俺はついに呪いを解くために動き出し、その第一歩として俺が住んでいる場所から最も近い街に向かう事にしたわけだ。が、そこで俺は思った。ただ街に行っても魔獣と見なされて攻撃されるのではないかと。そう思わせるだけの物が俺の中には森の中の生活で出会った人間たちの反応から産まれていた。だがそこでこうも思った。
と、ここまでを全て一息で言い切る。
ふぅ。人間の身体だったら絶対に途中で息切れを起こしていたな。こういう時は本当にこの身体のありがたみを実感するな。
話の中に時々嘘が織り交ぜられている?HAHAHA!一体何の事かな?これは人間関係を円滑に進めるために使う方便の一種さ!
で、俺の話を聞いたリオはと言うと……
「わ、分かりました!私精一杯助けていただいた恩を返させていただきます!大丈夫です!絶対に堂々とパンプキンさんがクヌキハッピィの街中を歩けるようにしてみせます!!」
「お、おう」
若干俺も引くレベルで涙を流して気合を入れていた。
ああうん。こりゃあその内真実を話してやらんと拙いかもしれん。
「そ、それにしてもあの町はクヌキハッピィと言うんだな」
俺は微妙に空気が痛くなってきたので話題を変えることを試み、だいぶ近くになってきた街の方を指差す。
と言うか、この距離にまで近づいて分かったんだが街の周囲にも普通に畑とかがあるんだな。
「あ、はい。クヌキ伯爵領の中心地である街でクヌキハッピィと言います。首都であるセンコノトからは遠いですけど、全ての冒険者にとって憧れであるリーンの森近くで最も大きい街だけあって賑わいがありますよ」
「へぇー、そりゃあ楽しみだ」
リオの言葉に俺は内心テンションが上がってくる。
それだけの街なら羊皮紙もインクもきちんとした物がありそうだし、『陰落ち』に関する情報も断片的なものぐらいなら見つかるかもしれない。
「あ、見えてきましたね。アレがクヌキハッピィの大門です」
「へぇ」
そう言ってリオが石造りの城壁に備え付けられた巨大な鉄製の門を指差す。
鉄の門も城壁も込められている魔力の量は非常に微量なようだが、まあ、あれだけの質量になればよほど大出力の魔法でなければ壊せないだろうし関係ないか。
「おっ!リオか!よく無事だったな!」
と、門の下に居た明らかに兵士ですと言わんばかりの格好をした人がリオを見つけた所で声をかけてきたため、俺とリオはそちらに向かう。
「いやー、馬鹿な冒険者が巨大なハンティングビーの巣を刺激したって聞いて不安でしょうがなかったんだが無事でよかったよ」
「ははは……本当の事を言えば結構危なかったんですけどこちらの方……パンプキンさんに助けてもらうことで難を逃れられました」
「どうも。パンプキンって言います」
「ああ、それはありがたい。私からも礼を言わせてもらうよ。私の名前はゴヘイ。このクヌキハッピィの門衛だ」
リオが門衛さん改めゴヘイさんに俺の事を紹介したため、俺もそれに応えて挨拶する。
何となくだがいい感じの雰囲気と魔力を持っている人だな。
「で、パンプキンさんは……」
「あー、街に入るのを希望しているんですが、多少訳ありなんです」
と言うわけで先程リオに言ったのと似たような事を言ったついでに俺の頭が被り物ではなく本物だという事も伝えておく。
そしたら、
「大変だったんだなぁ……ああそう言う事ならリオ。お前がしっかりと命の恩人をサポートしてやるんだぞ!」
「勿論です!!」
ゴヘイさんもリオと同じような事を言い出しました。
ああうん。半ば騙している側が言うのもアレなんだがこの都市の守りとか大丈夫なのか?
「じゃ、とりあえず仮の通行許可証を発行するからお金は……」
って、やるべき事はきちんとやるのか。ちょっと安心だな。
ただお金は……
「あー、リオ。後で返すから今は頼んでいいか?」
「分かりました」
「あいよ。それじゃあ改めて言わせてもらおう」
「「クヌキハッピィにようこそ!」」
と言うわけでリオにお金を借りて通行許可証を発行してもらい、俺はクヌキハッピィの中に入った。
誰も不幸になってないからええねん