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第22話「春の南瓜-3」

今回は丸々別キャラ視点でございます

「これでよしっと」

 私はハート形で赤い葉脈が走っていると言う特徴的な形をした葉を持つヒーリン草を根元から切り取ると腰のポーチの中に納める。

 これで集めたヒーリン草の葉の数は10枚。無事に依頼達成である。


「それにしても上手くいってよかったぁ……」

 さて、ここで私の自己紹介をしよう。

 私の名前はリオ。クヌキハッピィに拠点を置く冒険者で今日はヒーリン草の葉を集めると言う依頼を冒険者協会で受けて街近くの森にやってきていた。

 ヒーリン草は薬草としては比較的どこにでも生えているものではあるけれど、葉をそのまま傷口に貼り付けても効果があると言う便利な草である。

 もちろん薬として加工をすれば技術次第ではあるけれど十分に傷薬として使えるレベルになるので、余裕があれば余分に回収しておきたいものでもある。

 ただ、比較的どこでも手に入ると言っても私にとっては初依頼であるし、街の近くの草原ならともかく森にまでは滅多に来たことが無いので、依頼が上手くいくかどうかはやっぱり不安だった。

 こうして無事に手に入った以上は杞憂だったわけだけど。


「と、いけないいけない。帰るまでが依頼だもの。ここで油断しちゃダメよね」

 私は緩みかけていた気を引き締め直すと、立ち上がって周りを見渡してから森の外に向けて足を向けようとする。


パキッ


「ん?」

 が、その前に背後の茂みで何かが動いたような音がしたため、私はそちらを向く。


「「「ブブブブブ……」」」

「へ?」

 そこに居たのは大量のハンティングビーと言う巨大な蜂。

 ハンティングビーは大きさが人の顔程ある蜂ではあるけれど、気性は大人しく、大変美味しい蜂蜜を巣に蓄えている蜂として有名な生き物である。

 ただ、今私の前に居るハンティングビーたちは私の知っているそれとは大きく違っていて、明らかに怒り狂っていた。


「ひっ……」

「「「ブブブブブ……」」」

 私はその様子に思わず足を一歩引くとそれに合わせてハンティングビーも少しこちらに近づく。

 私はハンティングビーの生態を必死に思い出そうとするが、そうして思い出せたのはハンティングビーと戦う事になった場合、1対1なら口の牙と尾の針に注意して首を確実に潰す事。

 そして1対多数なら……


「逃げる!」

「「「ブブブブブッ!!」」」

 迷わず逃げろ!


 そうして私はその場から全力で逃げ出した。



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「誰かあぁ!?」

 私はひたすら走り続けた。何度も転び、体中に擦り傷を作りつつも走り続けて逃げ続けてそして森の外に助けを求めて叫び声を上げながら飛び出してなお私は走り続ける。


「「「ブブブブブ!!」」」

 けれどハンティングビーたちはまるで熱に浮かされたかのように森の外に飛び出してなお私を追いかけ続けてくる。

 どうしてこれほど怒っているのかは分からないけれど、明らかに異常な行動だった。


「……ヒュロロロォォ!!」

 そしてハンティングビーに追いつかれる直前。私の背後で何かが落ちる音がした。


「「「ブンッ!?」」」

「えっ!?」

 私はその音に驚いて振り返り、ハンティングビーたちもその動きを止めて、乱入者を注視する。

 そうして見たのは奇妙な姿をした生物だった。

 頭はよく市場で見かける南瓜に目と口を付けた様な物で、胴体はマントで覆われていて見えない。

 ただ、驚いている私とハンティングビーたちの前で状況は容赦なく動き続ける。


「ヒュ……」

 マントの中から何か緑色の物体が飛び出してくる。


「……ラホオォ!!」

 それが正確には何だったのか私の目では捉えられなかった。

 ただ、ハンティングビーの群れの中で突然現れた謎の乱入者が回転すると同時に何匹ものハンティングビーの身体が砕け散っていく事だけが分かった。

 そして、この場に居るその乱入者以外全員の視線が乱入者に向けられた瞬間に私は見てしまった。


「ふん!」

「「「!?」」」

 乱入者の身体から発せられる本来ならば見る事が出来ないはずの……けれど高濃度過ぎるが故に見える様になってしまった魔力。

 まるでそれは物語の中でだけ語られるような光景。


「はうっ……」

 そして私は全身に浴びせられる魔力に耐え切れず意識を失った。



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「う……」

「起きたか」

 それから私は一度目を覚ましたが、目の前にあの乱入者が居たためにあの膨大な量の魔力を思い出して再び意識を飛ばしてしまい、今が二度目の覚醒であるのだけれど……


「へ……?」

「とりあえず街に向かってるところだから暴れんなよー」

 目を覚まして最初に感じたのは顔をなでる風。

 次に見えてきたのは距離が遠いがために小さく見える木に緑色の草原。


「……」

「んー?」

 つまり私は……


「えええええぇぇぇ!!?」

「うおっ!?」

 空を飛んでいた。


「いきなり大声を出すなよなぁ」

「えっ、あっ、うえっ!?」

 私は前後の状況がまるで繋がっていないために混乱していた。

 いや、それ以前に人一人を抱えて空を飛ぶなんて真似、並の魔法使いどころか高位の冒険者として活動する魔法使いにも出来る事じゃない。

 とすれば今私を抱えて飛んでいるこの人物はあの魔力の量も含めて私の様な初心者冒険者などとは比べ物にならない実力を秘めていることになる。


「とりあえず目が覚めたなら地上に降りるか。色々と事情を伺いたいところだしな。」

 そして私が混乱している内に私を抱えている誰かは私を抱えたまま地上に降りて行った。

02/17 誤字とか表現とか訂正

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