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第19話「冬の南瓜-2」

「えーと、とりあえずはこれでなんとかなるか」

 俺は手にした蔓でまとめられた木の札の束を見てそう言う。

 さて、拠点の改良を行い、氷室を作った俺が次に始めたのは一先ずでもいいから何かしらの記憶媒体を作る事だった。

 いやうん。予想以上に【共鳴魔法・ネムリ草】に関する研究結果が多くて、一段落してから数日経った時点で一部結果に関して正直忘れそうになって来たから慌てて作りました。


「じゃ、書くか」

 と言うわけで拠点改良や氷室作成に使った木材の余りで作った木の札……要するに木簡なのだが、それにインク……正確には動物の血と脂を加熱しつつ混ぜ合わせて水で適度に薄めただけの何となくインクっぽいものを蔓の先端に付けて実験結果を書いていく。

 ちなみにこのインクっぽいものは使う際に蔓の先端から空気を流し込むと赤くなり、乾くと黒く固まります。ついでに言うと木簡に書いた文字からは赤黒い魔力が微妙に漏れ出ています。

 うん。このインクは中々にヤバい代物かもしれない。

 やっぱり早いうちにもっとマトモな紙とインクを用意するべきだな。変な魔導書とかが出来たら迂闊に処分も出来なくなる。


「まあ、それでも今は諦めるしかないか」

 ただ、代用品が無い現状ではどうしようもないので諦めて素直に書く。

 春に……春になったら遠くに見えてた街へ買い出しに行ってやる!


 なお、インクの器に関しては粘土質の土が見つかったのでそれを練り上げて焼いた物を使用している。

 後、火に関しては乾燥させたわらと木の板、棒をこすり合わせて摩擦熱を発生させることで上手くやった。

 いやー、古代の人たちは偉大ですね。まさか火一つ起こすのにあんなに手間がかかるとは思わなかった。

 ……。植物が火を使うなって?いや、生きた植物って意外と火に対する耐性があるんだよ?体内に結構な量の水分を保有しているし。


「これでよしっと」

 で、多少記憶が曖昧になってて結果があやふやになっているところはあるけれども俺は研究結果を木簡に書ききる。

 これで万が一忘れても大丈夫だろう。

 なお、書いてある文字は勿論日本語であるが、この世界の言語体系がどうなっているかは分からないので、暗号として役立つかは不明である。

 ミズキに見せれば分かるかもしれないが。


「てかよくよく考えたらそれなりに転生者が居る世界何だから他に日本人がいる可能性は十分にあったな」

 ミズキの事を思い浮かべる時一緒に思い出したが、前にミズキがそんな感じの事を言っていた気がする。

 となるとただの日本語では暗号として役立つかは微妙かもしれない。

 まあ、そもそもこんな森の奥深くにまで来て、こんな奇妙なカボチャが住んでいる拠点に入り込み、何かよく分からない事が書いてある木簡を見たり盗んだりする奴なんて居ないか。

 しかも仮に見たとしても俺が使う場合は【レゾナンス】前提だから普通の人間は使えないだろうし。


「さて、書き終わったところでどうするかな……」

 で、研究成果を書き終わったところで俺は次に何をするかを考える。

 うーん。【共鳴魔法・ネムリ草】について調べるなら次は部位ごとに効果の差が有るかとか、採取時期による差とかなんだけど……春と夏はまだまだ遠いんだよな。

 かと言って新しい共鳴魔法の探索は……書きとめる物がこれだからとりあえず発動できるかどうかとその効果を調べるぐらいか。

 と言うか春に買い物に行くなら正体を隠す策とかお金を得る手段とか考えておく必要もあるな。


「うーん。うーん。ウーン?」

 で、俺は正体を隠す方法とお金を得る手段で悩む。

 とりあえずお金に関しては森で手に入れた諸々の物品……具体的には熊や猪の毛皮を持っていけば買い取ってくれる人間は居るだろう。

 ただ、足元を見られて安く買い叩かれるのも想定するならそれなりの量は必要かもしれない。


 問題は俺の正体の方だ。

 俺はカボチャだ。それはもう覆しようのない事実だ。

 そしてつい先日狩人さんに遭遇したが、遭遇した瞬間に大声を上げられながら矢を射られたことから考えると俺の姿は人間視点では攻撃対象にされるのは間違いない。

 となると何かしらの方法で正体を隠さなければ買い物一つ満足に行えない公算は高い。


「とりあえず熊の毛皮でも羽織ってみるか?」

 俺はとりあえず肉と脂を剥いだだけの熊の毛皮をマントっぽく羽織ってみる。

 するとどうだろう。顔の下の蔓の部分は見事に隠れた。これならばマントの中を見られない限りはきっと大丈夫なはずだ。

 手に関しては……ま、ちょっと変わった手袋っぽくすれば怪しまれる程度で済むだろう。

 よしこれならいけ……


「頭はどうすんのよ」

「ほうわぁ!?ミズキしゃん何時の間に!?」

「ついさっき来たんだけど何してるの?」

「ああうん」

 俺はミズキに春になったら人間たちの街に買い物に行こうと考えていることを告げる。

 そしたら……


「ふうん。まあ、何かいい物があったらよろしく」

 とだけ言われた。

 まあ、ミズキは人間社会に対してあまり興味がある風に見えないしな。こういう反応にもなるか。


「で、頭についてはどう誤魔化すつもり?」

「そこは……被り物って事で」

 で、質問が戻ってくる。

 うーん。自分で言うのもなんだけどすごく作り物っぽい頭だしな。そう言えば何とか誤魔化せるだろう。

 と、自分では考えていたのだが……


「それならいっそ変な魔獣に呪われたと言った方が説得力があるわね」

 見事に一蹴されました。

 でも呪い理論の方が本当に良いかもしれないなー……俺カボチャだし……顔の穴動くし……身体の部分はマントで隠すけど呪いって事にすればバレても言い訳が効くし……。

 本当にそうするかぁ……。

と言うわけで呪い路線で行きます

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