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第17話「秋の南瓜-10」

 さて、目標は出来た。

 と言ってもその目標を達するためにまずやるべき事は数え切れないほど有るので、まずは出来る事からやっていくことにする。

 具体的には冬支度とか、例の草を利用した魔法の研究とか。

 とりあえず例の草だけなら記録用の器具が無くても覚えていられるだろ。


「まずは藁っぽいものと例の草を集めようー」

 と言うわけで森の中を探索して俺は川原や湿地帯でススキや稲わらなどの断熱性に優れて良そうな植物を回収すると共に、例の草……と言うかいい加減名前付けるか。とりあえず効能から『ネムリ草』と呼んでおくが、ネムリ草の群生地を見つけると、また生えて来るのに必要であろう量を残して刈り取っていく。

 それにしてもリーンの森って上から見るとほぼ一面緑のカーペットだけど、こうして木々の下を探索すると意外にバラエティに富んだ場所なんだな。

 普通に沼地になっている場所とか、粘土質の土が取れる場所とか、ちょっと小高い丘になっている場所とか色々ある。

 ついでに言うと蟻とか蜥蜴とか今まで見なかった動物も見つかったので、適当に倒して魔力のこもった部位とか使えそうな部位を回収する。

 ちなみに蜂なんかも見かけたが、俺がカボチャであるおかげなのか全く襲われることは無かった。どうやら葉や蔓を食う害虫系の相手や巣を襲ったりしない限り植物である俺は攻撃の対象外になるようだ。

 うん。地味にありがたい。秋の蜂は怖いし、この世界の蜂はしっかりと針と針の根元に魔力が集まっていたからな。刺されたら大変だったと思う。



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 で、そんな感じに素材回収をして数日経過。


「今日から実験開始です。っと」

 俺は目の前に置かれたネムリ草の束と、実験動物である大量のネズミ……ミズキ曰く『アンレギラット』を入れた檻を見てそう言う。

 なお、このアンレギラットはあの前歯に魔力のこもっていたネズミの事であり、習性として同族が居ると積極的に喧嘩をすると言う面倒な性質を持っている。

 が、現在は俺の魔力にビビって身動きが取れないようになっているので、その辺の問題は解消済みである。


「それじゃあまずはネムリ草自身の効能だな」

「チュー!?」

 俺はまずネムリ草を丸めると、アンレギラットの口を開いて無理やり食わせる。


「チュー……」

 するとアンレギラットはネムリ草を食べてからしばらく経った所で静かに寝息を立て始める。

 うん。きちんと催眠効果があるようだな。これで無かったらちょっと困ったところだった。


「で、このネムリ草の効能はっと」

 俺は続けて以下の3パターンを試す。

1、生のネムリ草を乾燥させた物

2、生のネムリ草を磨り潰して丸めた物

3、乾燥させたネムリ草を磨り潰して丸めた物

 本当は水……と言うかお湯あたりで抽出とかも試してみたかったのだけれど、火は無いので今回は諦める。


 でまあ、結果としては生よりは乾燥させたもの。そのままの形よりは磨り潰した物の方が効果が高いことが判明。

 より短い時間で深く眠らせることが出来る事が分かった。

 まあ、これについては乾燥させたり、磨り潰したりした方が成分が表に出て来て、体内により吸収されやすくなるとかそう言う理由からだろう。


「さて、基本的な性質が分かったところで次は魔法にした場合の話だな」

 俺は右手の掌の上に魔力球を作り出すと体を動かしてその色を変化させ、色を変化させた魔力を以前と同じようにネムリ草に流し込んでいく。

 と、ここで俺の使っている魔法についての説明と言うか判明していることを思い返しておく。

 まず、第一に俺はこの魔法に対して【共鳴(レゾナンス)魔法(スペル)】と名付けた。

 命名理由はリーン様から貰った力が【レゾナンス】と言う名前である事に加え、恐らくだが俺の魔力と触媒とする物質を共鳴させることによって発動させているのではないかと言う過程に基づいた名前である。

 まあ、大きくは間違ってはいないだろう。


 第二に【共鳴魔法】は触媒とする物質に魔力を流し込むことによって発動するが、発動するためには触媒ごとに応じた色……正確に言えば属性の魔力を特定の順序と量で流し込まなければならない。

 この際に量があまりにも多すぎると【オーバーバースト】になるのだが、【オーバーバースト】については指定された色と色相環的に離れた色の魔力を流し込むと発生しやすくなると言う性質を持つ。

 なのでワザと発動したい場合は猪……クロイングボアの牙の様にやはり元が赤系の魔力を持っている触媒を使った方がいいことになる。

 なお、触媒は基本的に使い捨てである。


 で、ここからが今回の実験の主題。

 今まで俺は生の状態のネムリ草しか【共鳴魔法】の触媒として使ってこなかったが、乾燥させたり、磨り潰したりしたネムリ草でも【共鳴魔法】の触媒として使えるのかと言う疑問点を解消する。


「ふんふんふーん」

 と言うわけで実験場所を拠点の中から外に移して多少の調整を加えつつ踊りまくって反応させ、【共鳴魔法】を発動させる。

 なお、名称としては【共鳴(レゾナンス)魔法(スペル)ネムリ(スリープ)(クラウド)】と一先ず付けておく。


「ほい!」

「「「チュー……」」」

 で、実験結果。

 どうやら加工を施す事によって、ネムリ草を食わせたのと同じような感じで【共鳴魔法・ネムリ草】の効果は高まるっぽい。

 が、代わりに流し込む魔力が何手順か増え、また必要な総魔力量も増すようだ。

 うーん。これは中々に悩ましいな。効果を求めるのなら加工済みのを、即効性を求めるなら未加工のを使うとか使い分けが肝要か。


「まあとりあえずはこれだけ分かれば十分か」

 と言うわけで今回の実験終了。

 今後は新しい触媒の発見とか、採取時期とか場所かによる差が無いかを確認する必要があるかな。

 なお、実験に使用したアンレギラットたちは実験者が美味しく頂きました。

実験三昧


02/11誤字訂正

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